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〖第9話〗狐の名前
しおりを挟むこいつの笑った顔なんて初めて見た。以外と可愛い表情するんだな。狐が座った台座から飛び降りると、存外、背は以外と低い。
ヒトに変化して、烏帽子と和装姿じゃなくてを長い髪を下ろしているせいか、いつもと印象が違う。真面目に見たことなんて無かったから気づかなかった。小さく狐野郎は、
「花束……ブーケって、いうのか。こんな綺麗なブーケなんて、初めて貰った。田貫は優しいな。綺麗だな。綺麗な花だな。そっか……鈴蘭か、鈴蘭か……」
嬉しそうな様子で、狐は、そっと鈴蘭のブーケに触れる。いつもの仏頂面は何処へいったのか。照れ臭そうに、はにかんで笑う狐がいる。
「お前、笑った方がいいよ。皆に好かれる」
「そうか?」
狐は端正な顔をぎこちなく綻ばす。華の顔。確かに、綺麗な顔だ。オレは、人が良さそうな顔をしているらしい。良く言われる。『いい人そう』って。
可愛いっとも言われるけど嬉しくない。カナエちゃんには釣り合わない。
オレが、格好良かったらもっと笑ってくれたかな。
オレなりに努力をした。身なりを綺麗にして、髪も、服も、話し方も色々、気をつけて。振り向いて、欲しくて。オレを好きになって欲しくて。でも、カナエちゃんは………隣にいて欲しいヒトを見つけた。オレがあげたブーケを今目の前で、嬉しそうに撫でている狐。
**********
カナエちゃんは、もう、オレからどんな花を貰っても、以前のように花束を喜んでくれないだろう。
代わりに、今、鈴蘭の花束を見つめて喜んでいる狐野郎から貰うものならすべて喜ぶ。卑屈になるなという方が無理だ。
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