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〖第51話〗

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「血筋と地位と財産だけにこだわって、人の足もとから舐めるように見るような人達を親や親戚だと思われたくなかったの。あの人たちは昔で言ったら貧乏公家みたいなものよ。プライドだけ高くて、家柄だけにこだわって、お金が大好き。あなたに会わせたくなかった。あなたを値踏みして喰い物にしようとする。それに私はあの家では全部否定されるの。あの中にクッションとして入ってくれた朝越さんには感謝してる」

 タカラはやさしい。誰にでも。皆に。分け隔てなく。だから彼女ができても長続きしない。特別扱いが下手なのだ。まだ、昔の癖はそう簡単には抜けないか。彰はそう思う。

「ずっと渡したいものがあったんだ。ちえ子さんが決めて。今?二週間後のちえ子さんの誕生日?」

「誕生日に。若葉が綺麗だろうね」

「あと、もう疑ってる訳じゃないけど、この前、鍋の時、タカラと『こんな綺麗な子見たことない』とか、タカラに何か言われたの?」
  
 ちえ子は笑って、

「野良猫の写メの見せ合いをしてたの。あの太った白い子。赤い首輪と鈴の知ってる?」
 
 「知ってる………あの子、やさしく撫でると可愛い声で鳴いてくれた………」

──────────
  
 二週間なんてあっという間だった。奮発して、いいお店にする予定だったが、ちえ子は家がいいと言った。

「何か食べたいものある?」
 
 ちえ子に訊くと、

「煮素麺。鳥うどんはこの前作って貰ったから」

「誰でも作れるよ。あれがいいの?」

「原点だもの。一番最初に彰さんが作ってくれて。死ななくて良かったって、思った。温かくて、ありがたかった………」

 そういうとちえ子は。微笑んだ。

「どうしてかな。彰さんの前だと泣いてばっかり」

「どうしたの?何処か痛い?」

「幸せなの、しあわせなのよ」

 彰はちえ子の両手を握り、額をつけた。

「前も言ったかもしれない、ずっとちえ子さんが好きだったよ。これからもちえ子さんだけだよ。だから、受け取って。これからもずっと一緒にいて欲しい。俺が愛してるのはちえ子さんだけだよ」

 ポケットのプラチナのリングが入った紫色の小箱を触る。さっと作った煮素麺は温かく、遅く訪れた花冷えのような今日に丁度良かった。
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