行き倒れ女とスモーカーのレシピ〖完結〗

〖第12話〗

　偶々見た求人サイト。個人塾だった。教える科目は数３Ｃまでと、物理と化学の特進コース。個人経営の私塾にしてはしっかりして、教える内容も質が高い。

　ついでに求人サイトで見た特進コースはお給料が多い。何故か惹かれた。

　古本屋で問題集を買い、早速問題を解いていくと学生時代の感覚が戻ってきた。学生時代、何人も彼女はできたが、彰は自分から誰かを好きになることはなかった。

　心を奪われたのは、偶々映画で見たマレーネ・ディートリッヒの気高い美しさくらいか。現実問題として、それで良かった。彰は大切な人が自分を待つ姿を見たくないからだ。

    面接で、問題を実際解いた。久々に握るシャープペンシルに緊張したが全問正解だった。

　それからは他の面接と変わらないが、ここは未来についての話がとても多かった。そして明るい。

　塾と言う、誰かにものを教えることは最初向かないかとあまり自信がなかったが、

『やさしいおばあちゃん』を絵で描いたような元村塾長に言われた。

「小さな塾だけど、みんな良いひとよ。とても良いところ。あなたの──この学歴と資格ならこの塾を選ぶ必要はないだろうけど、本当にうちでいいの？」
  
    白髪の上品な元村塾長は眼鏡越しに不思議そうに彰を見つめる。少しふくよかで可愛らしい。

「はい。宜しくお願いします」

「比良野さんはいい先生になれると思うわ。普通、もっと高値で自分のスキルを売りたがる人もいるのに。面白い方ね。後でシフトと詳しいことをお教えしますね。では宜しくお願いします」

「はい、お願いします」

「では、ようこそ。急ぎの用事がなければ紅茶をご馳走するわ。珈琲の方がいい？」

「いえ、紅茶で」