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〖第28集〗
しおりを挟む光は刺激になるというので暗い陸香の部屋で、薬湯を陸香に飲ませる。
「身体を起こすぞ。腕で支えているゆえ、力は抜いていい。熱いから気をつけてくれ。大分冷ましたが中々冷えんな」
「私は大丈夫ですから。屋敷にお戻りにならないと、宮殿にも。その姿では参内出来ませぬ。身支度も整えないと……」
「良いのだ。気を回すな。私はそなたが生きているならそれでいい。それに今、急な仕事はない。戦が無い時には私はそなたが思うより忙しいわけではないのだよ」
陸香に薬湯を飲ませながら、范蠡は穏やかな視線で陸香を見つめた。陸香の背中のぬくみ。生きている。それだけで、范蠡は泣きそうになる。
ふと、范蠡は桂花の姿をずっと目にしていないことに気づいた。これだけの騒ぎだ。目についても良いはずだ。自分に毒を盛り、失敗して消えたのか。黒花の者に捕まったか。今までの時間は何だったのか。浮かれている自分を見て嘲笑っていたのか。近づいたのは自分を殺めるためか。『私を憎む』とはこのことか。
身代わりになった陸香は死の淵を彷徨った。沸々と范蠡に真っ黒い怒りが込み上げた。あらゆる負の感情が沸き起こってくるようだった。
「陸香………何故陸香がこんな目に合わねばならぬ、私なんぞのために、どうして、どうして………!」
こんなものなら自分が飲んだ方が良かった。片手で支えられるほど、こんなに華奢な背をしているとは知らなかった。こんな細腕で、自分を懸命に守ってきたと思うと胸が軋むように痛む。陸香はこれまでのいきさつをゆっくり話し始めた。
「いつも通りに茶を淹れましたが范蠡様にお出しする茶が濁っていたので、一応毒味し、嫌な予感がしたので茶は私がいつもとは別な茶葉の保管場所の茶葉で淹れ直しました。もう、下手人は黒花の者に捕えられ、拷問でも受けているでしょう。桂花は私の影です。毒を盛ったりはいたしませぬ」
「桂花がそなたの影だと?あの者しかおらぬ!何故庇う!そなたは死ぬところだったんだぞ!今も、今も私が支えないと起きあがることも出来ぬのに!桂花はずっと姿を表さないではないか!」
「桂花が死ぬことは私が死ぬことです……范蠡様」
范蠡は、薬師の部屋を用意させ、下がらせた。范蠡に支えられ、火傷しないようにと范蠡に、温く冷ました湯で、陸香は黒花の者が用意した丸薬を飲んだ。遠くを見つめ陸香は語る。
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