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〖第24集〗
しおりを挟む暫くそうしていると生温い空気と共に空が暗くなり始め、風向きが変わると、ぱらぱらと雨が降り始めた。
「これは、降るな。桂花、少しだが走れるか?」
「はい」
范蠡は桂花の駆ける足に歩調を会わせ、長い袖を桂花の頭上に翳した。東屋に二人が着いた頃、雨は本降りになった。濡れた絹が細い桂花の身体を透かし、范蠡は初めて女人の肌を見た少年のような胸の高鳴りを覚えた。
桂花は、じっと音を立てて降る、雨を見ているようだった。范蠡も桂花の隣に立ち、雨を見つめる。そして桂花を見つめる。
「雨も………悪くない」
「ええ。驚きましたが草木には恵みの雨でしょう。暫く乾いていましたから」
ただじっと范蠡は桂花と雨を見ていた。同じ方向を向き、同じものを見ている。だが范蠡は始めようとするのに、桂花は終わらせることばかり考えているようだった。雨足が弱くなってきた。段々と本降りだった雨が粒が小さく、粒子の細かな湿度を運ぶ。
「その、気を悪くしないでほしいのだが、桂花には、決まった者はいるのか?そろそろ嫁ぐ年頃だ」
桂花は范蠡から顔を背けて、
「恥ずかしながら、予定はないのです。多分、これからも」
私の処へ来ないか?言葉に詰まりながら、そう言おうとしていると、雨は段々と弱まり、雲間の切れ間から、矢のように陽が差した。
「雨が………上がりましたね。雫が陽に反射して綺麗ですね」
雨上がりの光が桂花の横顔を照らす。桂花は笑う。范蠡しか知らない、ため息しか出ないような桂花の笑顔。
少し首を傾げ柔らかく微笑み、口許に軽く袖から出た白い手を添える。貝のような爪。いつも桂花の笑顔は綺麗だが、やはり、いつも儚く悲しい。
時間と共に、段々と桂花と距離が縮まっていく感じがした。桂花が控えめだが范蠡の前で笑うようになったからだと范蠡は思う。娘のころころとした笑いかたではなく、やわらかな淑女の笑い。桂花の口許に軽く手を添える様子が、たおやかで、まるで風に吹かれた柳が綿毛を散らす様を思い出させた。
目が離せない。知りたい。触れたい。桂花こそ、まるで『傾国』だと范蠡は思う。
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