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〖第21集〗
しおりを挟む大夫種は陸香の元を度々訪れている。花や、陸香の気持ちの負担にならない程度の趣味の良い装飾品や果物や等を土産としている。
陸香は屋敷の限られたもの以外しか知らないある秘密を大夫種に見せた。その日大夫種は帰り際、桂花を待つ范蠡のもとを訪ね、やや興奮した様子で言った。
「陸香殿が笠を被る理由が解りました。護衛では目立ちすぎます。流石、西施と鄭旦の教育係ですね。伺った際、ずっと陸香殿はお寂しそうでした。范蠡殿を……待っているようでした」
興奮を押さえつつ大夫種は続ける。
「また来ます。西施と鄭旦は少しづつですが仕上がってきたとのことで舞を見せて貰いましたが、美しかった。ですがそれ以上に西施や鄭旦に手本に見せた陸香殿の舞は素晴らしいものでしたよ」
そう言い帰って行った。范蠡は、穏やかで、感情の起伏を抑える術を知る大夫種には珍しいと思った。だから余計に意地を張って、范蠡は、会いに行こうとは思わなかった。
寂しいと、待っているなら大夫種などと会わずに自分からこちらへ出向けば良い。まず男のいる前で舞うなど芸妓でもあるまいし。大夫種も大夫種だ。笠を取った陸香を見て優越感でもあるのではないか。范蠡はいつしか意固地になり『自分には桂花がいる』そう思うようになっていった。
陸香が、大夫種と仲良く語り合う図が浮かぶ。どうせ自分は二人の会う口実のようなものだと范蠡は心の中で毒づいた。私室でぼんやりと庭を見ていると桂花が来た。
「少し痩せたな」
そう言うと、
「お気遣い有難う御座います」
桂花はいつものように、菓子と茶を置いてすぐ礼をし、席を立った。今日だけでも桂花に傍に居て欲しかった。
陸香が大夫種に取られてしまったような気がした。まるで子供だ。范蠡にも解っている。けれど、何処か寂しく、悔しかった。
多くの女人は少しでも范蠡に気に入られようとするのが常だった。范蠡は、自分に気に入られようと懸命になる、そんな何処か不器用な女人を、笵蠡は可愛らしいと思っていた。勿論、范蠡は自分に附随するもの──越王の謀臣であり、越軍の軍事担当、そしてこの家の家長であるという経済力──を考えれば、数多の女人が范蠡に好まれようとするのは当たり前だと解っている──。
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