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〖第20集〗
しおりを挟むそして、男──と言っても呉王夫差だが、その対策も講じた。好色な男らしいが、へばりつくような女に囲まれて飽いてるというらしい。ただ、存在するだけで誰をも魅了する。そして、籠絡させる。溺れさせる。そんな娘に、陸香は二人を育てた。
問題の訛りは、会稽の花柳界で過ごさせ、音曲や、舞踊等を習わせるうちにいつのまにか消えていた。
范蠡は、別邸に行く機会が増えた。西施と鄭旦の成長を見るという名分のもと、いつも菓子と茶を置き消えてしまう女人、桂花に会うためだった。もう一度会いたいと思わせる女人は、范蠡にとって初めてだった。何処か懐かしく、姿を見ていると胸が騒ぐ。ただ、茶と菓子を置いて、消えてしまう後ろ姿だけでさえも。
一方、陸香には、文を書いている。もう、顔も見たくないだろうと思われただろうからだ。けれど『会いたい』と『すまない』と『許して欲しい』は書けずにいた。否定の言葉が怖かった。出迎えと見送りは、もうずっとない。
文は船での一件を大夫種に聞いたからだった。范蠡はあの時自分が陸香に言った言葉を思い出した。それを聴いた大夫種は言った。
「女人はみな花です。陸香殿も花です。優しく哀しい美しい花だと私は思いました。その花は咲きたいと願い、愛でて欲しいと風に芳しい香りをのせます。范蠡殿はその花を乱暴に手折り、悲しみに暮れる花を更に踏みにじったことになりますね」
淡々と大夫種はいつも通りに事実を范蠡に告げる。戦の後の報告のような口調だった。
范蠡は陸香が自分以外に出す柔らかな声音、初めて聞く蜜柑や雨が好きだという話、流麗な言葉、嬉しそうな女人らしい態度、全てが気に入らなかった。大夫種に対する下らない悋気だった。恥を忍び范蠡は大夫種に事の次第を話し、陸香が范蠡を拒絶する事への解決方法を訊いた。大夫種は范蠡の話を聞いて大きな溜め息をついた。
「一番してはいけないことだと。私と陸香殿に悋気を起こしてどうするのですか」
そして、大夫種は続けた。
「心からの誠意を見せるしかないでしょう。文など如何かと。花や装飾品を添えたりしてみては良いかと思うのですが」
そう言われ文を書いている。しかし文でも范蠡は素直な思いを書き綴ることが出来ない。
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