傾国の美女─范蠡と西施─〖完結〗

カシューナッツ

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〖第9集〗

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 范蠡は盃を傾け空にした。辺りは、薄暗い。陸香が篝火を焚く。辺りがほんのり明るくなり、木を焦がす匂いがする。

「首尾良く。これぞという娘達二人を苧羅山で見つけました。ご覧になりましたか?私は初めて着飾ったあの娘を見た時……名は西施と鄭旦と言うのですが、あまりの美しさに声が出ませんでした…ですが……」

 興奮気味の大夫種の声の調子が下がっていく。大夫種は言葉を繋げた。

「ですが、『今は』宝玉ではありません。確かに群を抜き花のように美しいですが、あれでは……」

「そうですか……。田舎臭く、垢抜けない所作、無きに等しき教養。言葉遣いも酷いものだと聴いております。まだ正式には会っていないのですが、遠目でも花が咲いたようでした。他所から見れば私が密かに女人を囲っているとしか見えないでしょう。二人には淑女になって貰わねばと考えていました。大夫種殿が人相見を使ってまで行った秘密裏な美女探し。……私と共に『傾国』を作ろうと、そう言うことでございますな?」

 大夫種はにっこり笑って言った。

「………夏の妺喜、殷の妲己、西周の褒姒。名だたる美女のせいで大国は滅んでいきました。呉にも、同じ運命をたどって頂きましょう。私は越といつまでも共にありたい。この国は美しい国です。私と范蠡殿と陛下で守ってきた国です。呉の兵の穢い足で蹂躙されたくはないのです。范蠡殿の土城の別邸に住まわせて貰い『訓練』を始めたいと思っています」

 それからゆっくり月を見ながら酒を飲んだ。久々に、美味い酒だと范蠡は思った。大夫種は酒が強く、酒を水のように范蠡に勧めた。范蠡は断りきれず盃を重ね、酔いのまま眠った。一気に船は静かになる。河を漕ぐ音、篝火の木が跳ねる音までも聴こえる位に船は静かになった。大夫種は陸香に呼びかけた。
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