傾国の美女─范蠡と西施─〖完結〗

カシューナッツ

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〖第4集〗

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 淡々と、独り言にも思えるように、この状況でも顔色一つ変えずにあまり抑揚なく大夫種は言う。

 大夫種はあまり感情が顔には出ない。いつも穏やかに微笑んでいる。だが今、大夫種は、必死で感情を飲み込み、蒼い火のような怒りと悔しさを抑えていた。山裾のおびただしい篝火を見ながら握りしめた大夫種の手が震えるのは、戦に失敗した主君を思ったからではない。戦の才に長けた范蠡のように役に立てない無能な大夫種自身と、穏やかで緩やかに河が流れる緑豊かなこの国を蹂躙じゅうりんする呉の兵にだった。穢い足で私達の国を汚すな。大夫種はそう言いたかった。そして、出来ることは、冷静に策を范蠡と練ることだと、自身に言い聞かせていた。
 
 少しでも越側の負担を少なく、呉との講和に持ち込めるか。そう、范蠡と大夫種は密かに話し合った。いつの間にか、熱風のような風は止んだ。静かないつも通りの肌を撫でる風と、忌々しい昼のように明るい闇が辺りを包んだ。二人は暫く話し合い、

『では、そう言うことで。范蠡殿』

『お願い致します。大夫種殿』
 
 越の国を背負った講和には大夫種が赴いた。主、越王句践が范蠡の諫言を受け入れていればこんなことにはならなかったと、范蠡は何処か引っ掛かりを残した。大夫種を見送った後、

『そなたの言うことを聴かなかったばかりに………』

 范蠡を前にし、項垂れる越王句践の様子に、范蠡は心の中の引っ掛かりは薄まった。しかし、失ったものは返って来ない。沢山の兵士、将兵たち。やるせなさに、范蠡はどうしようもなくなる。

 最初の講和はへりくだり、『越王句践は自分を呉王夫差様の臣下に、句践の妻は呉王夫差様の妾に……』という内容だったが、思わぬ邪魔が入った。呉の賢臣、伍子胥ごししょ。彼の猛反対に合い、大夫種は越に帰った。
 
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