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人魚の恋と蒼い月
ブルームーン〖6〗
しおりを挟む少し間があった後、君は、
「さっきの奴、気にしなくていいから。いい奴だよ。音大でピアノ専攻してる。芸術家ってのはわかんねぇな。あいつ綺麗な子が大好きだから海月には近寄らせないようにしなきゃな」
海月は、綺麗だよ。ずっと変わらないな。そう君は軽く笑いながら言い、君は僕に綺麗な薄紫色のカクテルの入ったグラスをスッと差し出した。僕は君の指先の繊細さに見とれた。
「俺から。ブルームーン。まあ《蒼い月》っていうんだ。『叶わぬ恋』って意味があるんだって。でも美味しいよ。香りが凄く良いんだ。ジン使ってあるからゆっくり飲んで」
薄い紫色の綺麗な液体。ゆっくり飲む。叶わぬ恋か、今の僕だ。
「海月は好きなひといるのか?」
君の唐突な問いに僕は俯いて『いるよ』と答えた。顔を上げて、目があった。君の瞳が、僕の中身を見透かすように見つめる。手が、震えた。君は僕の震える手に心配そうに手を重ねた。
長い長い初恋。君に焦がれて僕は海を捨てた。『何を今更』と皆言うだろうね。でも、改めて思う。僕は君に『恋』をしていた。父上が言っていた言葉も、今なら全て解る。
ああ、消えてしまう。一瞬の泡沫の恋。僕の恋は、伝えることはないと思っていた想いは、口にすることもなく、ほんの数秒の間、君と視線を合わせるだけで終わってしまった。
一生気づかれることはないと思っていた。傍にいられるだけで幸せだった。そうするつもりだった。
君の眼差し、
君の声、
君の温度。
僕はこれから泡となって消えるけれど、後悔はない。
明日は丁度、君の誕生日だったね。『死の穢れ』も完全に切れる。
最高のバースデープレゼントもあげられる。君の願いを叶えてあげるよ。君のお洒落な部屋の掛け時計を見る。
ああ、もうすぐだ。
僕は君を見つめ返した。こんなに長く君を視線を合わせたのは初めてかもしれない。
「──君が好きだよ、だから忘れないで。僕を忘れないで」
僕が消えても、ずっと覚えていて。
「海月!本当、なのか?俺の目見て、もう一回言えるか?その、俺を………好きだって………」
両手首を掴まれ逃げられない。最後の最後に酷いことを言うんだね。
どうしよう、時間がない。泡沫となってしまう。一抹の水になって消えてしまう。
こんな風に終わりたくなかったな。
君は僕が泡沫として消えたら驚いて、怖がってしまうよね。『化物』に騙されていたとは思われたくないな。
僕は君が本当に好きだったから。
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