好きになんて、ならなければ良かった〖完結〗

カシューナッツ

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〖最終話〗────完結

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「何を、してるの?」

    ベッドから顔を上げると、夜中私のノートパソコンにUSBメモリーを差し込んでいる明ちゃんがいた。

「な、何もしてないよ。ち、ちがうよ、そんな目で見ないで。フランスの友達の住所を内緒で欲しくて………」

「『ICE_KENJI』よ。あの会社の極秘メモ。渡すところを間違わなければ一生遊んで暮らせるんじゃない?そうよね。魂胆がなきゃ私みたいなおばさんのこと好きだなんて言わない。なのに、私ったらみっともなく浮かれてた。出てって!顔も見たくない!」
 
「三輪さん!話を聞いてよ、お願いだよ!」

 泣いて縋って答えが変わるなら私は幸せに暮らしている。ドアの向こうから鼻を啜る音と、私の名前がずっと聴こえていた。

 朝になってみると荷物はあらかた片付けられ、スーツケースごと彼は消えていたんだ。どうやら恋愛には向いてない。
   
   *

 いつの間にか誕生日だ。もう、年は取りたくないわね。ドリップした珈琲を口に運ぶ。ポンッとスマートフォンが鳴った。知らないショートメールで、

『誕生日おめでとう。今日は家から出たらいけないよ。お洒落をして待っていて』

    素直にお洒落をして待っていると、この国で出来た友人が次々に訪ねて来て、誕生日を祝ってくれた。フルーツやお酒、オードブルがいつの間にか、テーブルに並べられていく。         

「私、ルカに住所教えた?」

「ミワに恋するコノエが、皆にメールを送ってミワの誕生日を祝いたいって。そして、重大発表があるって!」
    
 スーツ姿の明ちゃんが現れ、いつの間にか風船やら何やらで賑やかになった部屋を私を見つめ歩いてくる。

「明ちゃん」

「決めつけはよくありませんよ、三輪さん。まあ、人のパソコン見たんですから全部僕が悪いんですが。ただ、ああでもしないと友だちリストなんて、サプライズでつくれないし。すみません」

『ほら、コノエ!』だの、『早く言え!』だの、ひやかす外野が、やいのやいの明ちゃんを急かす。明ちゃんはひざまづいて、

「み、三輪さん、僕と結婚して下さい」

 サイズがぴったりのプラチナの指輪。

「あ、明ちゃん!?」

「僕には、三輪さんだけです。ヒールで音を立てて、あなたが廊下を背筋をのばして歩っている姿に僕は見惚れました。孤軍奮闘、頭の固いジジイと理路整然と闘うあなたに、僕は恋をしました。それからあなたを知っていって、今あなたと一緒に暮らして、あなたを愛しいと思います。結婚して下さい、お願いします」

 沸き立つギャラリー。明ちゃんの真剣な顔をみて、私は泣いていた。

「喜んで。ありがとう明ちゃん」

「幸せに、なりましょう」
 
 ヒールの音が嫌いなひともいたわね。私は泣きながら笑って、明ちゃんに口づけた。そしてそっと耳元で囁いた。

『後で一緒にお風呂に入りながら、アイスクリームとカンパリで、もう一度乾杯しましょ。あなたが好きよ。だから、変わらないで、そのままでいて』




────────────【FIN】  
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