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〖第4話〗
しおりを挟む出世コースに乗ってしまった私は、どんどん平社員の賢治とは仕事も、お給金も、会社側の私と彼に対する扱いは変わっていった。彼も。きっと私も。自分では知らない所から腐食するように、変わってしまったんだろうな、そう思った。
*
いつの時か『のんき』で彼は言った。空腹のところに鍛高譚のかなり強めのを注文したから、かなり酔っているように見えた。最近彼は、始終不機嫌だ。
『俺と付き合ってるなんて絶対他の奴に言うなよ』
『どうして?』
『廊下をそのヒールでカツカツカツカツ偉そうに音立てて歩くお前みると惨めになるんだよ!周りの奴らも、「いいネクタイだな、ああ課長からか」何て言いやがる。もう、うんざりなんだよ!』
何かしら言おうと思った。でもやめた。彼の焼酎のグラスは一口も口をつけられていなかったからだ。彼は、素面だった。あの頃もう別れていればよかった。
段々距離は離れていく。二人の場所が遠ければ、会社で会う機会はなくなる。心の距離も、物理的な距離も。会いたかったら会いに行った。スマートフォンで連絡を取り会って付き合い始めに見つけた人気の少ない中庭で会ったり出来たはずだ。繋げることを本当に望んだ糸なら、切れなかった。
私は繋ぐ努力をしなかった。でも繋ぎたいとは思っていた。けれど賢治は引きちぎった。もう、彼は私は要らなくなった。私も彼が要らなかった。だって、涙すらでない。普通、別れには涙がつきものなのに。そんな私は、酔ってもいないのに辿々しく歩く。私は呆然としても涙はでないことを知らなかった。
*
「本当にお互い様だったんだな」
私は一人笑う。いつの間にか、みぞれは雪になっていた。夜道は、電灯が壊れかかって、チカッチカと言っている。人通りがない。段々と景色が白くなっていく。ブランドのコートの肩がぐっしょり濡れてしまった。パンプスの中に雪が染みて気持ち悪い。
惨めなのは一緒だね。けれど、私はあなたが笑うからアイスクリームはあなたが来てもいいように買って、冷凍庫に入れてあるんだよ。チョコとミルクとイチゴの三種類。これだけは欠かしたことはない。
今すぐ電話をかけて縋ってしまいそうだ。会いたいよ。悪かったよ。別れたくないって、やり直したいって。
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