好きになんて、ならなければ良かった〖完結〗

カシューナッツ

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〖第2話〗

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 会社で、私の方が賢治より随分早く、同期一番に昇進した。けれど賢治と出会って恋をした部署とは違う部署に配属になった。──ここで間違った。彼は手をまだ繋ごうとしていた。けれど、私は彼より仕事を選んだ。選んだと言うよりただ単純に、結果がすぐ出るやりがいのある仕事が楽しかった。私の天秤は、賢治ではなく仕事を選んだ。無意識だとしても、賢治を傷つけたのは確かだ。

『ごめん今日はまだ仕事があるの』

 一体何度、彼の誘いを断ってきたんだろう。誰かに任せるのが嫌だった。確実に成果とコミットしている仕事を手放したくなかった。
 
  *
 
 勿論、どんどん昇進をした。プレゼンが称賛された。上司に気に入られた。『女のくせに』と言う雑音も、セクハラや、パワハラ紛いのことや、陰口を言い笑う、上司や同僚や部下には、聞こえないふり見ないふり。たまにピシャリと言い返し、笑ってみせた。──妬み嫉みの汚い奴に負けるもんか。言ってやりたい。じゃあ、あなたは?陰口叩く暇あるなら仕事しなって。私は毎晩このオフィスで一番最後にドアを閉める。陰口叩いて仕事もしないで、本当に使えない。あなたはね、あなた方が馬鹿にする私の足元にも及ばない。あんたの変わりなんていくらでもいるのよ。そう私は心の中で汚いことをする奴らを嘲笑した。──じゃなければ、張りつめていた線が切れそうだった。傷だらけの心が折れそうだった。所謂、可愛くない女になった。このご時世、女が上に上がると言うのは、私みたいなタイプは可愛らしさなんて、捨てなければ。しなやかに強くならなければ負ける。勿論、女として見下されたくはない。身綺麗にする時間や、化粧品のグレードはあがった。
 けれど所詮、能力があって、必要とされて、才能があるから使われるからといって、会社と言う歯車の一部であることは私も、私を嘲笑する奴らと変わらない。何も面白くない。つまらない。速く部長になりたい。きっと賢治も忘れてる。私を支える糧。
   
   *

 賢治はいつも話を聞いてくれた。唯一慰めて、相談に乗ってくれるひとだった。けれど、いつの間にか顔を会わせれば、愛想笑い。賢治を苛々させたくなかった。段々と、すれ違いが続いた。私が話をし出すと、声も聞くのも嫌みたいに貧乏ゆすりをして煙草をつける。だからお互いに話をしたくなくなる。
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