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一日の終わりのホットココア(ベルセさんの意外な特技?!)
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「あ! 皿洗い、オレがやるよ! 得意なんだ!」
夕食の後。
テーブルの上の食器を流しに運び、片づけを始めようとした私にそう言いはり、さっと場所をとってかわって食器を洗い始めたベルセさん。
(本当に大丈夫かな……?)
そんな彼の様子を、テーブルを片付けながら観察する。
そうすると見えてくるのは、意外、と言っては失礼なのだが、彼は言葉の通り食器洗いが得意のようで、慣れたように流しの盥に程よい温度のお湯を張り、食器洗い用の石鹸を丁寧に溶かすと、あらかじめ脂分を拭い取ったお皿やカトラリーを浸け、いつもの勢いはどこへやら、柔らかい食器洗い用のたわしを使い、びっくりするくらい手慣れた様子で丁寧に食器を洗い始めた。
(意外だな)
と思いながら、それでも安心して任せられると分かった私は、テーブルを片付け終えると、明日、お店に置くためのお菓子の仕込みをしようと、テーブルに大きな撥水のクロスを敷き、戸棚から食材と製菓機材を用意した。
(よし、やるぞ)
小さく刻んだ乾燥果物に、こちらの世界で最もポピュラーな甘くて酒精の強い蒸留酒と、気力薬と言われるやる気を出す薬……前世で言うエナジードリンクのような物を入れると、しっかりと混ぜ込んで瓶に入れて蓋をすると、それを保冷庫に入れ、それとは別の、前日に作った同じものの入った容器を取り出した。
(うん、いい感じに漬かってる)
蓋を開け、中身を小匙で掬って味見をして確認した後は、みずみずしさを取り戻した乾燥果物を取り出し、余分な水分をとってから、あらかじめ寝かせてあった生地と混ぜ込んで、前世で言うオーブン(こちらは魔導機械だが)の天板を取り出すとそこに薄く延ばしいれ、それをオーブンに戻して、時間と温度を設定し起動ボタンを押した。
一枚目を焼いている間に、天板3枚分の記事を用意する。
「よし、次のお菓子は……」
段取りよく次の菓子の用意をしようとしたところで、ふんふ~ん、と鼻歌が聞こえて顔を上げた。
(ん?)
住人が二人のこの家で、鼻歌の主はもちろんベルセさん。
聞いたこともない不思議なメロディに合わせて、ゆ~らゆらと大きな尻尾が揺れている。
髪をぴょんぴょん跳ねさせるように耳も動いていて、なんだかとても穏やかな雰囲気が流れている。
(……これが終わったら、お茶に誘ってみようかな?)
そう思って、私は目の前の菓子の下ごしらえを終えると、テーブルの上を片付けてベルセさんの方に向かう。
「あ、キルシュちゃん! 終わったよ!」
私の姿にぴんっ! と尻尾と耳を立てて笑顔を浮かべるベルセさんに、私は頷いた。
「流しまで綺麗にしてくださってありがとうございます。お礼にココアを入れますね。ソファで待っててもらえますか?」
「ここあ?」
「甘いものは嫌いですか?」
「ん~ん、たぶん好き!」
「じゃあ待っていてくださいね」
「わかった!」
綺麗になった流しに風魔法をかけて乾燥させた彼は、鼻歌を歌ったまま尻尾をぶんぶんさせてリビングの方へ向かっていった。
その際、尻尾が扉にぶつかったようで、『痛てっ』と泣きそうな声を上げていた。
(車幅、じゃなくて尻尾幅が解らないのかしら?)
そんな彼の様子を、ちょっと可愛らしく感じながら、魔導コンロに小さな鍋を置き、弱火にして乳酪を淹れ溶かし、ココアパウダーを大きなスプーンで4杯とちょっと。それからお砂糖を同じスプーンで3倍入れて、極弱火でネリネ利してからそこに大角山牛の乳を注ぎ入れ、ダマにならないようにした後で、大きめのカップにオージュランというオレンジのような果物の皮をジャムにしたものを小些事で少し入れて、出来たココアを注いだ。
(これこれ。前世のココアと一緒! この世界には空来種がたくさんいるから、こっちの果物や野菜で向こうのいろんな料理や道具が再現されているのがいいのよね)
ふふっと笑いながら両手にカップを持ち、リビングに向かうと、一人掛けのソファに、まるで餌を前に『まてっ!』をされている大型犬の様にご機嫌で座っているベルセさんがいて、私は彼にカップを渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう!」
ぶんぶんと尻尾を振りまくりながら私からカップを受け取ったベルセさんは、両手で抱えるように持ったカップを何度かフーフーと吹き、それから少しだけ舐め、すぐにぴんっ! っと、しっぽっと耳がさらに立ち上がらせた。
「どうですか?」
ベルセさんの座るソファの正面に置かれた長ソファに腰を下ろしながら聞いてみると、彼は大きく見開いた目をキラキラさせながら私の方を見た。
「美味しい! 甘い!」
「お口に合ってよかったです。ところで、今日は何をしていたんですか?」
満面の笑みを浮かべ、うんうんと頷きながら少しずつ味わいながらココアを飲むベルセさんに、私が訪ねる。
「今日?」
「はい。アーシュラさんと出かけられた後、大丈夫でしたか?」
すると、ココアのカップから顔を上げたベルセさんは、う~ん、と言いながら何度か首を動かしてから、指折り数えて教えてくれた。
「えぇとね、交易層にある冒険者ギルド、あ、正規のほうね。そこに行って、ややこしい説明と、腕輪の情報更新をさせられた後、ギルド入団テストってことで、この近くにある『嘆きの洞窟』っていう、初心者専用の地下迷宮に行って、王宮魔術団? の新人教育研修? っていうのの先遣隊兼護衛の依頼をこなしてきたかな? で、それが終わったら冒険者ギルドに戻ってもう一回腕輪の更新をして、ギルドに所属するための契約書類とかなんか、いっぱいサインして、それから貴族層にあるギルドで居住権とか銀行の更新とか……」
「ちょっと待ってください」
自分のココアを飲んでいた私は、聞き捨てならない言葉に顔を上げた。
「正規の、って何ですか?」
「うん?」
ペロッと口の周りを舐めたベルセさんは、あぁ、という顔をした。
「そっか、キルシュちゃんは生産職だから冒険者ギルドの事知らないのか。えと、俺が知っている範囲の話、何だけどね?」
う~ん、という顔をしたベルセさんは、とても分かりやすくそれを教えてくれた。
夕食の後。
テーブルの上の食器を流しに運び、片づけを始めようとした私にそう言いはり、さっと場所をとってかわって食器を洗い始めたベルセさん。
(本当に大丈夫かな……?)
そんな彼の様子を、テーブルを片付けながら観察する。
そうすると見えてくるのは、意外、と言っては失礼なのだが、彼は言葉の通り食器洗いが得意のようで、慣れたように流しの盥に程よい温度のお湯を張り、食器洗い用の石鹸を丁寧に溶かすと、あらかじめ脂分を拭い取ったお皿やカトラリーを浸け、いつもの勢いはどこへやら、柔らかい食器洗い用のたわしを使い、びっくりするくらい手慣れた様子で丁寧に食器を洗い始めた。
(意外だな)
と思いながら、それでも安心して任せられると分かった私は、テーブルを片付け終えると、明日、お店に置くためのお菓子の仕込みをしようと、テーブルに大きな撥水のクロスを敷き、戸棚から食材と製菓機材を用意した。
(よし、やるぞ)
小さく刻んだ乾燥果物に、こちらの世界で最もポピュラーな甘くて酒精の強い蒸留酒と、気力薬と言われるやる気を出す薬……前世で言うエナジードリンクのような物を入れると、しっかりと混ぜ込んで瓶に入れて蓋をすると、それを保冷庫に入れ、それとは別の、前日に作った同じものの入った容器を取り出した。
(うん、いい感じに漬かってる)
蓋を開け、中身を小匙で掬って味見をして確認した後は、みずみずしさを取り戻した乾燥果物を取り出し、余分な水分をとってから、あらかじめ寝かせてあった生地と混ぜ込んで、前世で言うオーブン(こちらは魔導機械だが)の天板を取り出すとそこに薄く延ばしいれ、それをオーブンに戻して、時間と温度を設定し起動ボタンを押した。
一枚目を焼いている間に、天板3枚分の記事を用意する。
「よし、次のお菓子は……」
段取りよく次の菓子の用意をしようとしたところで、ふんふ~ん、と鼻歌が聞こえて顔を上げた。
(ん?)
住人が二人のこの家で、鼻歌の主はもちろんベルセさん。
聞いたこともない不思議なメロディに合わせて、ゆ~らゆらと大きな尻尾が揺れている。
髪をぴょんぴょん跳ねさせるように耳も動いていて、なんだかとても穏やかな雰囲気が流れている。
(……これが終わったら、お茶に誘ってみようかな?)
そう思って、私は目の前の菓子の下ごしらえを終えると、テーブルの上を片付けてベルセさんの方に向かう。
「あ、キルシュちゃん! 終わったよ!」
私の姿にぴんっ! と尻尾と耳を立てて笑顔を浮かべるベルセさんに、私は頷いた。
「流しまで綺麗にしてくださってありがとうございます。お礼にココアを入れますね。ソファで待っててもらえますか?」
「ここあ?」
「甘いものは嫌いですか?」
「ん~ん、たぶん好き!」
「じゃあ待っていてくださいね」
「わかった!」
綺麗になった流しに風魔法をかけて乾燥させた彼は、鼻歌を歌ったまま尻尾をぶんぶんさせてリビングの方へ向かっていった。
その際、尻尾が扉にぶつかったようで、『痛てっ』と泣きそうな声を上げていた。
(車幅、じゃなくて尻尾幅が解らないのかしら?)
そんな彼の様子を、ちょっと可愛らしく感じながら、魔導コンロに小さな鍋を置き、弱火にして乳酪を淹れ溶かし、ココアパウダーを大きなスプーンで4杯とちょっと。それからお砂糖を同じスプーンで3倍入れて、極弱火でネリネ利してからそこに大角山牛の乳を注ぎ入れ、ダマにならないようにした後で、大きめのカップにオージュランというオレンジのような果物の皮をジャムにしたものを小些事で少し入れて、出来たココアを注いだ。
(これこれ。前世のココアと一緒! この世界には空来種がたくさんいるから、こっちの果物や野菜で向こうのいろんな料理や道具が再現されているのがいいのよね)
ふふっと笑いながら両手にカップを持ち、リビングに向かうと、一人掛けのソファに、まるで餌を前に『まてっ!』をされている大型犬の様にご機嫌で座っているベルセさんがいて、私は彼にカップを渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう!」
ぶんぶんと尻尾を振りまくりながら私からカップを受け取ったベルセさんは、両手で抱えるように持ったカップを何度かフーフーと吹き、それから少しだけ舐め、すぐにぴんっ! っと、しっぽっと耳がさらに立ち上がらせた。
「どうですか?」
ベルセさんの座るソファの正面に置かれた長ソファに腰を下ろしながら聞いてみると、彼は大きく見開いた目をキラキラさせながら私の方を見た。
「美味しい! 甘い!」
「お口に合ってよかったです。ところで、今日は何をしていたんですか?」
満面の笑みを浮かべ、うんうんと頷きながら少しずつ味わいながらココアを飲むベルセさんに、私が訪ねる。
「今日?」
「はい。アーシュラさんと出かけられた後、大丈夫でしたか?」
すると、ココアのカップから顔を上げたベルセさんは、う~ん、と言いながら何度か首を動かしてから、指折り数えて教えてくれた。
「えぇとね、交易層にある冒険者ギルド、あ、正規のほうね。そこに行って、ややこしい説明と、腕輪の情報更新をさせられた後、ギルド入団テストってことで、この近くにある『嘆きの洞窟』っていう、初心者専用の地下迷宮に行って、王宮魔術団? の新人教育研修? っていうのの先遣隊兼護衛の依頼をこなしてきたかな? で、それが終わったら冒険者ギルドに戻ってもう一回腕輪の更新をして、ギルドに所属するための契約書類とかなんか、いっぱいサインして、それから貴族層にあるギルドで居住権とか銀行の更新とか……」
「ちょっと待ってください」
自分のココアを飲んでいた私は、聞き捨てならない言葉に顔を上げた。
「正規の、って何ですか?」
「うん?」
ペロッと口の周りを舐めたベルセさんは、あぁ、という顔をした。
「そっか、キルシュちゃんは生産職だから冒険者ギルドの事知らないのか。えと、俺が知っている範囲の話、何だけどね?」
う~ん、という顔をしたベルセさんは、とても分かりやすくそれを教えてくれた。
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