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2章 ここで生きる準備をしよう

3)初・マルシェでお買い物!

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「お、おおおぉぉぉ!」

 思わず声が出てしまうくらいの、盛況ぶりといえばいいのだろうか。

 周囲は活気に溢れ、中通りの左右には高くて大きな店舗があるのだが、その前の通路にところ狭しと露店が立ち並んでいるのだ。

 見た感じをおしゃれに言えば外国の映画やドキュメントで見たマルシェ、私的に気合入る感じで言えば北の大地(もしくは南の大地)美味しいお宝物産展!

 珍しいもの一杯!

 おいしそうな物一杯!

 食べたい物も一杯!

 色鮮やかな果物や野菜、肉に魚介、日用品、とにかく何でも所狭しと通りの奥のほうまで隙間なく並んでいて、店員さんの声や行きかう人の活気に、元来出不精の私でも、俄然やる気も出てくる。

 自治体の運動会テントを思わせる簡易式の屋根も本当に色柄とりどりで、お店の人とお客さんのやり取りも圧倒されるほどに強い。

 あ、あのでっかい海豹みたいなお店の人の声の出し方は、築地の市場みたいな感じもある! 売り物が魚だけに!

 地図上、海から近くはない土地にある王都なので、新鮮な魚介はないんだろうなぁと思ったが、いやいや、これが意外としっかりと、丸ごとから切り身まで、お客さんのオーダーに合わせて売っている。 冷凍技術はなかったから、魔法処理されているのかな? これってすごい。 新鮮なものは必要だよね!

 なんて、つい浮足立って人の流れに乗ってみる。

 は! あれはオレンジに似てる。 柑橘系好きとしてはぜひ購入したい!

「いらっしゃい! あらかわいいお嬢さん、見ない顔だね、どちらかのお屋敷のメイドさんかい?」

「おはようございます! 田舎からきたばかりなんですけど、これは何ですか?」

 近づくとすぐにお店の大柄の、狸っぽい獣人の女性に声を掛けられた。

 適当に会話をして、気になる商品を指さすと、笑顔で試食用にカットされたものを差し出してくれた。

「目の前のはライネといってね、すっぱい果物さ。 料理や果実水、後お酒に使う果物だよ。 その横の青い奴がこれ、グレーネ。 こっちは甘くてそのまま食べてもいいし、お菓子に使ってもいい果物だよ、さぁ食べてごらん!」

「じゃあ一ついただきます!」

 一カット分を手により口に含むと、じゅわ!っと一気に甘酸っぱいものすごい果汁があふれて来た。

 よし、こっちの青いグレーネはピンクグレープフルーツっぽい、おいしい!

 ライネはライムっぽいから、柑橘水作りたい!

「両方2つずつもらえますか? あ! 個売りしてますか?」

「あぁ、だいじょうぶさ。 これら四つで二銅貨でいいよ! 今日はサービスしてあげよう! これからも御贔屓にしておくれね!」

「ぜひ! ありがとうございます。」

 布袋の中から銅貨を二枚渡すと果実をそのまま渡してくれたので、籠の中に入れる。

「まいどあり! また来てね!」

「はい! また来ます!」

 手を振ってお店を離れたら、また人の波に乗る。

 流れに乗って見ていると今度は焼き菓子が並んでいたり、パンが並んでいたり……パンは白いふわふわのパンも、コッペパンみたいなのも多種多様、もしかしてあの店舗に立っているかわいらしい女の人は同じく転生人かしら? とまじまじ見ていたら、手を振ってくれたので笑顔で振り返しておいた。

 ちょっと流れから出れなかったので、また後で買いに行きます、絶対!

 さて次の生鮮食品というかお肉のお店では、並ぶ品物にちょっと腰を抜かしそうになった。

「……ドラゴンのしっぽに、オークの顔の皮に、コカトリス?」

「お嬢ちゃんいらっしゃい、見ない顔だけどどこぞの店の奉公人かい?」

「あ、いえ。 最近田舎から出てきたんですけど……この、オークの皮っておいしいんですか……? 後コカトリス……石化したりしないんですか?」

 屋根からつるされているオークの皮、何かに似てるんだよな……豚、豚か! 豚だな! しかしなんでこんなものが売ってあるのよ!

 気がよさそうな、毛髪が少しだけ寂しい小太りのおじさんにきくと、あぁ、と手を叩いてオークの皮を細く刻んだものを見せてくれた。

「五、六年前かな? すこし言葉にナマリがある冒険者の兄ちゃんが教えてくれたんだよ。 耳んところは細切りにして、さっと湯にさらしてから油豆の砕いたのと混ぜるとうまいんだよ。 それから肉の煮込みもうまいぞ! コカトリスのほうはコカトリスの卵と肉、それからオニオルという香草の玉根を薄く切って豆の調味料やらで味付けて、珍しい穀物にのせて食べると言っていたな。」

 既視感めっちゃあるんだけど。

「……ミミガーと親子どんぶり……?」

「あぁ、そんなこと言ってたな。 どうだい、オークやコカトリス、食べてみるかい?」

「あ、いえ。 まだ家に調理器具がないので……えっと、そこの燻製肉ください……これくらい。」

 両手でこれくらいでほしい、というと素早くさばいて薄く切った木の皮でくるんで紐で縛ってくれた。

「はいよ、ありがとう。 大銅貨1枚だ。 また来てくれ。」

「ありがとうございます。 またきます。」

 受けとって籠の中に入れながら、手を振って店を離れる。

 親子丼はまだ若干の現地の人感もあったけど(米じゃなくて穀物って、何にのせてるんだ……あ、米も穀物か?)ミミガーとかは確実に転生者……何なら海が綺麗な南の県の人だろう、近場でニアミスしてるかもしれないなぁと考えながら、次の店に向かう。

 見て回っていると屋台という感じの露店に交じって、石畳に直接敷物を引いて物を広げている人もいるのに気が付いた。

 そういう露店は、実店舗同士の境目に広がっていることが多いので、マルシェの開店時間だけ間借りしているのかもしれない。

「お嬢ちゃん、ひとつどうだい?」

 声を掛けられて振り返れば、枯葉色の布の上に木製の商品をたくさん並べている、背の丈は私くらいのおじさん!

「食器ですか?」

「あぁ! ドワーフ印のいいものを、たまにこうやって持ってきてるんだ。 さっき肉屋の親父と話してるのが聞こえてな。 出てきたばかりじゃ足りないものもあるだろう? どうだい、安くしとくぜ!」

 う~ん、安もの買いの……的な詐欺かな? なんて思って話しかける。

「じゃあ、見せてもらいますね。 手に取ってもいいですか?」

「おうよ! じっくり見てくれ!」

 お、意外といい感じ?

 ぽってりころんとした造りのそれらは、あちらで大好きだったヨーロッパの陶器の食器を思い出す。

 手に取ってみれば、思ったとおりものすごく手にしっくり馴染むし、作りも丁寧。

 実はちょっとまだ金額が妥当かはわからないけど、しっかりしているし、洗いと乾燥をちゃんとやれば長持ちするし、丁寧に使えば味わいも出るだろう。 草花文様の焼き印も好みの可愛さ。 これはいいかも、とめぼしいものをさがす。

「じゃあ、これと、これと、これと、そっちの大きいのと、その横の深さのある大きいのは2枚ください。 それからこれも!」

「おぉ、たくさん買ってくれてありがとうよ! 全部で銀貨1枚と大銅貨3枚だ。」

 木目と焼き印が可愛い、両手に収まる大きさのスープカップとスプーンにフォーク、それから小さめの平たいお皿と大きめの平たいお皿、少し深さのあるお皿一つずつ。 それから深めの大きいお皿2枚はコタロウ用をおじさんと確認しながら受け取ると、おじさんがお皿は持ちやすいようにひもで縛ってくれた。

 小物だけを籠の中に入れる。

「それからこれはおまけ、だ。」

「?」

 そう言ってポン、と手の上においてくれたのは、縁に七つ、丸の彫られた木製の腕輪。

「え、でも売り物をただでもらうわけには……」

「いや、もらってやってくれ。 あんたにはきっと必要になる。 なんたって、いい目をしているからな。」

 う~ん、おじちゃんのこの雰囲気はきっと引いてくれないよなぁ。

「それじゃあ代わりにこれを……買ったばかりですが。」

 ニヤッと笑ったその人に、お礼にさっき買ったグレーネの大きい方を一つ渡した。

 ありがとう! とお互い手を振って店を離れ、焼き菓子屋さんや、調理器具屋さん、野菜屋さんをめぐり、その都度ポンポン籠の中に買った商品を入れながら、つぎはどこにいこうかな~と人の波を抜けて立ち止まったところで、盛大に腹の虫が鳴った。

「お店回るのに楽しくて忘れてたけど、お腹減った……お昼何食べよう。 ここで買ってどこかに座って食べようかな? あとはなにが足りないんだっけ……」

 路地の通りに噴水があったのも見えたし、あそこもいいかもしれないと思いながら、買ったものを確認していて……気が付いた。

「はっ! 大工さんたちが来るの忘れてた! 早く帰らなきゃ! 知識の泉! 家までの最短早道ルート確認!」

 ――地図と経路を展開します。

 大慌てで、行きかう人にぶつからないように早足で歩きながら家に向かって。

「……あれ?」

 通りしな、先ほどの露店のあったところを通ったのだが、もうそこにお店はなかった。

「お昼前なのに店じまいしちゃったのかな。 ん? でもマルシェって今からが稼ぎ時なのでは? やっぱりぼったくり? この食器と腕輪、大丈夫……? あ、でも今は帰らなきゃ!」

 私は自分の手首の木彫りの腕輪をもう片方の手で押さえながら、家路へと足を速めた。

 まぁ、素早さも力も体力もないので、走っても歩いても速度一緒なんだけどね!
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