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後宮入りさせられました、この野郎!
策士と捨て駒(はてしない腹黒男、登場!)
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あの日もいつものように一日を過ごし、夜着に着替えるのも手伝ってもらい、侍女見習いの娘たちに灯を落とさせてから下がらせ、私は床に入る。
(やはりだめだったか)
床の中で、私は一つため息をついた。
姐さんに踏みを出して2か月。この屋敷に連れてこられて3か月たつが、外部からの連絡は何もなかった。
姐さんに貰った耳飾りを一つだけ淹れて送った文には、『実は込み入った事情になってしまったので、今後は連絡が取れない。今までかわいがってもらったのに不義理で申し訳ない。許して欲しい』とだけ書いた。
聡い姐さんなら、実の子の様に可愛がっていた私からの久しぶりの知らせが遊郭経由で、しかも片方の耳飾りが同封されている。それが『助けてほしい』の意味であると気づいてくれると信じたのだ。
そして返信も、遊郭経由であれば楼主様の手前、連絡を握りつぶされないだろうと思った私の目論見はかなり甘かったらしい。
(仕方ない。偽物だとばれないようにうまくやるしかない。妓女の時とは化粧の仕方を変えて……少し食事量を増やして肉をつければ印象は変わるか……? 少しふとましい方が抱き心地も良いと言うし。 太るのは嫌だけど、今の私は痩せすぎらしいし、殺されるよりはましだ。)
そう腹をくくるしかないと覚悟した日の夜遅く。
「……?」
物音で、私は目を覚ました。
わずかに木戸が開く音がしたのだ。
花街に売られた当初、自分より好待遇なのが気に入らなかったと、寝ている間に同じ年頃の子供達から悪質な悪戯や盗みを働かれたことが多く、そのため、どんなに疲れていても深く眠る事が出来なくなっていたのだ。
そのためそれにも気が付いたのだ。
掛け布に横たわったまま少しだけ目を開け、気配を探る。
すると影が動き、室内に誰か入って来た気配を感じた。
その影は、此方に近づいてくるのがわかる。
(影が大きい……強盗か……?)
そっと枕の下に手を差し入れ、隠していた守り刀を握る。
掛け布を相手にぶつけ、飛び出そうとして。
「ぐっ」
手を後ろにとられ、布団に突っ伏した。
何者かに、背中から押さえつけられたようだった。
「だ……」
「静かに。大きな声を出せば殺す」
耳元で小さく低くそう言われ、私は全身の力を抜いて従うと、上から飄々とした声が降って来た。、
「丸腰の娘に無体な真似はするな。このままでは話も出来ない、離してやりなさい」
「はっ。おい、起きろ」
背に感じた重さがなくなったため、私は背に痛みを感じながら素直に体を起こした。
夜の闇。
室内の四隅に置かれた蝋燭の内、誰かの手でひとつだけ灯りがともされる。
人影は二つ。
目を凝らして一人を見れば、そこに立っていたのは上背のある、しっかりとした体つきに市井の男では決して身につけない上等な香と衣服を身に着け、薄明りでも男らしい精悍で美しいとよくわかる顔立ちの男が立っていて。
(……まさかっ!)
その顔に、残念ながら私は見覚えがあって慌てて膝をつき、首を下げた。
「おや、あったのは一度か二度だと言うのに覚えていたか」
ふふっと笑った男は、私の前にしゃがみこみ、私の顎を持ち上げて顔を向かせた。
「なるほど、大きくなったな。この容貌なら後宮に入っても見劣りはしないだろう」
その言葉に私は目を見開き、そんな私を男はにやりと笑って、それから顎から手を離すと頭を撫でた。
「シャンシェイに助けを求めたのにどうしてだ? と思っただろう? 残念だったな。お前は助けを求めた相手を間違えた。だがいい話もある、乗るのならば、此方もお前に力を貸そう」
美しいのに、凄みのある美しい笑顔を浮かべた彼は、私がいなやと言えないことを解ったうえで、優しい声で問うてきた。
「レイラン。シャンシェイに恩義があるならば、このまま国家反逆罪に問われたくないのなら。俺の子飼いとなって後宮に入れ。褒賞は七年間の下級妃としての生活の一切と支援、そして七年後に下賜という形での下級妃の地位からの解放だ」
(あ~ぁ、本当に運がない。とんだ貧乏くじ引いちゃった)
恩義ある人に助けを求めたつもりが、逆手に取られ恩義ある人を盾にとられ、私は現王の甥に当たりイチモツを持ちながら後宮の出入りを許された、恩義ある姐さんの情夫様である「タンラン様」の子飼いとなった。
どう考えても後悔しかないが、頭と体が離れるよりはましで、七年後には金を貰って自由になれる! と、前向きにとらえるしかない。
「お約束したこと、絶対にお守りくださいね」
菓子をつまむタンラン様に私が言うと、彼はにこりと微笑んだ。
「勿論、約束は守るさ。その証明に、まず一つ。コウシュンの実家の代替わりは無事に終わったぞ。半年後に許される里帰りを楽しみにしているがいい。先代家族はしっかりと管理してやろう。ここから先は、全てお前の働き次第だ」
そう言いながらつまんでいた菓子を私の口元に近づけたタンラン様に、私は笑みを深くしてその菓子を餌のように受け取ると、奥の歯で噛み砕いて微笑んだ。
「畏まりました。必ずや、望まれた成果をお出ししましょう」
****
いつもお読みいただきありがとうございます
コウシュンが「ふとましい」と言っているのは『ふくよかな』という意味です。
コウシュンの言い回しだと思ってください。
(やはりだめだったか)
床の中で、私は一つため息をついた。
姐さんに踏みを出して2か月。この屋敷に連れてこられて3か月たつが、外部からの連絡は何もなかった。
姐さんに貰った耳飾りを一つだけ淹れて送った文には、『実は込み入った事情になってしまったので、今後は連絡が取れない。今までかわいがってもらったのに不義理で申し訳ない。許して欲しい』とだけ書いた。
聡い姐さんなら、実の子の様に可愛がっていた私からの久しぶりの知らせが遊郭経由で、しかも片方の耳飾りが同封されている。それが『助けてほしい』の意味であると気づいてくれると信じたのだ。
そして返信も、遊郭経由であれば楼主様の手前、連絡を握りつぶされないだろうと思った私の目論見はかなり甘かったらしい。
(仕方ない。偽物だとばれないようにうまくやるしかない。妓女の時とは化粧の仕方を変えて……少し食事量を増やして肉をつければ印象は変わるか……? 少しふとましい方が抱き心地も良いと言うし。 太るのは嫌だけど、今の私は痩せすぎらしいし、殺されるよりはましだ。)
そう腹をくくるしかないと覚悟した日の夜遅く。
「……?」
物音で、私は目を覚ました。
わずかに木戸が開く音がしたのだ。
花街に売られた当初、自分より好待遇なのが気に入らなかったと、寝ている間に同じ年頃の子供達から悪質な悪戯や盗みを働かれたことが多く、そのため、どんなに疲れていても深く眠る事が出来なくなっていたのだ。
そのためそれにも気が付いたのだ。
掛け布に横たわったまま少しだけ目を開け、気配を探る。
すると影が動き、室内に誰か入って来た気配を感じた。
その影は、此方に近づいてくるのがわかる。
(影が大きい……強盗か……?)
そっと枕の下に手を差し入れ、隠していた守り刀を握る。
掛け布を相手にぶつけ、飛び出そうとして。
「ぐっ」
手を後ろにとられ、布団に突っ伏した。
何者かに、背中から押さえつけられたようだった。
「だ……」
「静かに。大きな声を出せば殺す」
耳元で小さく低くそう言われ、私は全身の力を抜いて従うと、上から飄々とした声が降って来た。、
「丸腰の娘に無体な真似はするな。このままでは話も出来ない、離してやりなさい」
「はっ。おい、起きろ」
背に感じた重さがなくなったため、私は背に痛みを感じながら素直に体を起こした。
夜の闇。
室内の四隅に置かれた蝋燭の内、誰かの手でひとつだけ灯りがともされる。
人影は二つ。
目を凝らして一人を見れば、そこに立っていたのは上背のある、しっかりとした体つきに市井の男では決して身につけない上等な香と衣服を身に着け、薄明りでも男らしい精悍で美しいとよくわかる顔立ちの男が立っていて。
(……まさかっ!)
その顔に、残念ながら私は見覚えがあって慌てて膝をつき、首を下げた。
「おや、あったのは一度か二度だと言うのに覚えていたか」
ふふっと笑った男は、私の前にしゃがみこみ、私の顎を持ち上げて顔を向かせた。
「なるほど、大きくなったな。この容貌なら後宮に入っても見劣りはしないだろう」
その言葉に私は目を見開き、そんな私を男はにやりと笑って、それから顎から手を離すと頭を撫でた。
「シャンシェイに助けを求めたのにどうしてだ? と思っただろう? 残念だったな。お前は助けを求めた相手を間違えた。だがいい話もある、乗るのならば、此方もお前に力を貸そう」
美しいのに、凄みのある美しい笑顔を浮かべた彼は、私がいなやと言えないことを解ったうえで、優しい声で問うてきた。
「レイラン。シャンシェイに恩義があるならば、このまま国家反逆罪に問われたくないのなら。俺の子飼いとなって後宮に入れ。褒賞は七年間の下級妃としての生活の一切と支援、そして七年後に下賜という形での下級妃の地位からの解放だ」
(あ~ぁ、本当に運がない。とんだ貧乏くじ引いちゃった)
恩義ある人に助けを求めたつもりが、逆手に取られ恩義ある人を盾にとられ、私は現王の甥に当たりイチモツを持ちながら後宮の出入りを許された、恩義ある姐さんの情夫様である「タンラン様」の子飼いとなった。
どう考えても後悔しかないが、頭と体が離れるよりはましで、七年後には金を貰って自由になれる! と、前向きにとらえるしかない。
「お約束したこと、絶対にお守りくださいね」
菓子をつまむタンラン様に私が言うと、彼はにこりと微笑んだ。
「勿論、約束は守るさ。その証明に、まず一つ。コウシュンの実家の代替わりは無事に終わったぞ。半年後に許される里帰りを楽しみにしているがいい。先代家族はしっかりと管理してやろう。ここから先は、全てお前の働き次第だ」
そう言いながらつまんでいた菓子を私の口元に近づけたタンラン様に、私は笑みを深くしてその菓子を餌のように受け取ると、奥の歯で噛み砕いて微笑んだ。
「畏まりました。必ずや、望まれた成果をお出ししましょう」
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いつもお読みいただきありがとうございます
コウシュンが「ふとましい」と言っているのは『ふくよかな』という意味です。
コウシュンの言い回しだと思ってください。
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