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13 調教
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自分の身に何が起きてるか、分からなかった。
酸欠になりそうな濃厚な口づけが、もう何分もの間延々と続いている。
苦しくなって顔をずらそうとしても、拓海がすぐに追ってきて唇と舌で俺の口を塞いでくる。拓海は悔しいくらいキスがうまくて、何とか思い留まらせようと思っても、考えた端から脳内が拓海一色に染められていってしまっていた。
これまで色んな女と散々経験したんだろうなと思うと、女と違って可愛くもなけりゃ柔らかくもない自分が嫌になる。
惨めだった。
「ふ……っ、ん、拓……んぅ、」
結束バンドで拘束されたままの両手は、拓海の左手によって頭の上に押し上げられてしまっていた。頬も顎もどちらのものか分からない唾でべっとりと濡れていて、溢れ出た雫が耳の横を伝っていく。
拓海は時折顔を上げると、獲物を見るような獰猛な目つきで俺の様子を眺めた。キスだけで息が上がってしまっている俺の胸が上下しているのを見て、にやりと笑う。
「次郎、滅茶苦茶エロいね」
「……馬鹿かっ! いいからさっさと拘束を取れよ!」
拓海が、「何言ってんの?」みたいな顔をして首を傾げる。
「やだよ。だって次郎、絶対逃げるでしょ?」
「当たり前だろ! お前な、こんなことしていいと思ってんのか!?」
すると、拓海はしれっと答えた。
「ヤバい自覚はあるけどさ、最終的に次郎が俺にとろとろになって抱いてって言わせりゃいい訳だろ? しかも両思い確定なんだしさ」
唖然とした。なんていう外道な台詞だ……爽やかイケメンの面影は、もうどこにもない。
「……お、ま、え、なああっ!」
拓海が、眉を八の字に垂らす。そんな顔すらも格好いいのが、最高に腹が立った。
「次郎がなかなか素直になれないのってさ、きっとまだ俺を信じてないからだよね?」
「……ッ」
図星を指され、思わず口をつぐむ。
「俺はさっきの奴でもないし、次郎の高校時代の元彼でもないって言ったのになあ」
そんなこと、分かってる。だけど、どうして拓海がそうならないっていう保証があるっていうんだ。
拓海が俺の口に息を吹きかけるようにして囁く。
「……だから、放し飼いにしてた飼い猫の調教をしなくちゃ安心して外にも出せない」
「――だからっ! 俺は猫じゃ、」
こいつ、まさか俺が拓海に完全服従するまで外に出さない気か? こいつの思考回路、アブノーマル過ぎるだろ!
「だってさ、ネコって抱かれる方のこと言うんでしょ? さっきボトムって言ってたし、次郎はネコじゃん」
「ぐ……っ」
まさかボトムの意味も知っていたとは。
ギッと拓海を睨むと、拓海は俺の唇をペロンと舐めて笑った。
「なんで知ってるのって顔してるな? だから次郎と寝るにはどうしたらいいのか調べたんだってば。ゲイビも観たよ。次郎の顔を脳内で当てはめたら、余裕で抜けた」
「そんなのたまたま……っ」
「本当だって。次郎と知り合ってからほぼ連日お前で抜いてるし。それにだってさ、ほら」
俺の上にべったりと乗っていた拓海が、少し腰を浮かせて互いの中心を擦り合わせる。
「……な?」
俺の上に乗っている拓海の中心は、これ以上ないほどに固くなっていた。確かに、拓海は俺相手に欲情はしている、けど。
でも、――でも、どうしたって怖いんだよ……!
「う……っ」
「どうしたら俺の猫は警戒を解いてくれるのかなあ」
拓海は独りごちると、代わりとばかりに俺の首に吸い付き始めた。
「首輪邪魔だなあ。キスマーク付けたいのに」
「じゃあさっさと外せよ……!」
「やだ。逃げられたくないもん」
「この野郎……っ」
首は諦めたのか、鎖骨を唇で挟んで食み始める。
ぞくり、と快感が押し寄せる。目の前で俺を食おうとしているのは、ずっと片思いをしていた相手だ。気持ちよくなるのは仕方ない、とは思うけど。
――俺はこのまま拓海に抱かれるんだろうか。俺たちはどうやら両思いだったらしいけど、未だに実感が湧かない。
元々寝不足から貧血を起こしていたのもあって、頭の中がフワフワしていて夢の中にいるみたいだった。だって、男を受け付ける筈がないと思っていた拓海がまさか俺に興味を持っていたなんて、未だに嘘としか思えない。
……もしかしたら、本当に一度は抱けるのかもしれない。だけど、話を聞いた限りだと、拓海はノンケだ。
身体を重ねるのが二度、三度と続いたら、固くてごつい男の身体なんて嫌になるんじゃないか。
拓海は、今は本当に抱けると思ってるのかもしれない。だけど俺は、ずっと一緒にいられると思っていた男の心変わりを知っているから。
男臭い、萎えるって股を覗かれながら言われた心の傷は、ただの言葉だけじゃ癒やされはしない。
「た、拓海……っ、マジで後悔してほしくないから、やめろ……!」
「なに、後悔って。今次郎と両思いエッチしない方が絶対後悔するけど」
拓海の指が、問答無用とばかりに俺の後孔に差し込まれた。
「あっ、馬鹿……!」
「ん? 柔らかいな。まさか次郎、他の野郎とヤッてたりなんかしないよな?」
急に苛立った拓海の雰囲気は、さっき実演していた脅しの時のものと似ている。
「え、いや、一年まじで何も……っ」
俺は何を焦ってるんだ。ここで「そうだ」って言い返したら、もしかしたら諦めてくれたのかもしれないのに。
「よかった、もし相手がいたらぶっ殺しにいかないといけなかったもんな。腹立ち過ぎて半殺しにしちゃいそうだったから助かったよ。さすがに犯罪者にはなりたくないしね」
「……」
……嘘でも言わなくてよかった。てゆーか拓海、どんだけこれまで猫被ってたんだよ。怖えよ。
俺の後孔は、昨夜自分で慰めたせいでまだ柔らかさを保っていた。拓海の指が、あっという間に二本に増やされる。
「ん……っ、や、やめろっ!」
「最後弄ったのいつ? 昨日?」
「……別にいつだっていいだろ! プライバシーの侵害だぞ!」
「飼い猫にプライバシーないってば。てことは昨日なんだな。ねえ、じゃあ誰を思ってシたの?」
「……ッ!」
こいつなんてことを聞くんだよ! と拓海を睨んだ。すると拓海は、実に嬉しそうに笑う。
「……俺を想像してシたのな? 嬉しいなあ」
「……ッ!」
ああもう、どうしてこう全部思ってることがこいつには伝わっちゃうんだよ!
指が三本挿入されて、ぐちゃぐちゃと内壁を掻き乱される。
「前立腺ってどこだろうな」
「ばっ、や、やめ……っ、――んあっ!」
拓海の指が俺の感じるポイントに触れた瞬間、全身を快感が襲った。
拓海が再びにやりと笑う。……怖い。拓海の笑顔が怖い!
「……みーっけ。さ、ドロドロになろうか、猫ちゃん?」
「ひ……っ」
またさっきみたいな焦らし地獄が始まるのか――。
くらりとした。
酸欠になりそうな濃厚な口づけが、もう何分もの間延々と続いている。
苦しくなって顔をずらそうとしても、拓海がすぐに追ってきて唇と舌で俺の口を塞いでくる。拓海は悔しいくらいキスがうまくて、何とか思い留まらせようと思っても、考えた端から脳内が拓海一色に染められていってしまっていた。
これまで色んな女と散々経験したんだろうなと思うと、女と違って可愛くもなけりゃ柔らかくもない自分が嫌になる。
惨めだった。
「ふ……っ、ん、拓……んぅ、」
結束バンドで拘束されたままの両手は、拓海の左手によって頭の上に押し上げられてしまっていた。頬も顎もどちらのものか分からない唾でべっとりと濡れていて、溢れ出た雫が耳の横を伝っていく。
拓海は時折顔を上げると、獲物を見るような獰猛な目つきで俺の様子を眺めた。キスだけで息が上がってしまっている俺の胸が上下しているのを見て、にやりと笑う。
「次郎、滅茶苦茶エロいね」
「……馬鹿かっ! いいからさっさと拘束を取れよ!」
拓海が、「何言ってんの?」みたいな顔をして首を傾げる。
「やだよ。だって次郎、絶対逃げるでしょ?」
「当たり前だろ! お前な、こんなことしていいと思ってんのか!?」
すると、拓海はしれっと答えた。
「ヤバい自覚はあるけどさ、最終的に次郎が俺にとろとろになって抱いてって言わせりゃいい訳だろ? しかも両思い確定なんだしさ」
唖然とした。なんていう外道な台詞だ……爽やかイケメンの面影は、もうどこにもない。
「……お、ま、え、なああっ!」
拓海が、眉を八の字に垂らす。そんな顔すらも格好いいのが、最高に腹が立った。
「次郎がなかなか素直になれないのってさ、きっとまだ俺を信じてないからだよね?」
「……ッ」
図星を指され、思わず口をつぐむ。
「俺はさっきの奴でもないし、次郎の高校時代の元彼でもないって言ったのになあ」
そんなこと、分かってる。だけど、どうして拓海がそうならないっていう保証があるっていうんだ。
拓海が俺の口に息を吹きかけるようにして囁く。
「……だから、放し飼いにしてた飼い猫の調教をしなくちゃ安心して外にも出せない」
「――だからっ! 俺は猫じゃ、」
こいつ、まさか俺が拓海に完全服従するまで外に出さない気か? こいつの思考回路、アブノーマル過ぎるだろ!
「だってさ、ネコって抱かれる方のこと言うんでしょ? さっきボトムって言ってたし、次郎はネコじゃん」
「ぐ……っ」
まさかボトムの意味も知っていたとは。
ギッと拓海を睨むと、拓海は俺の唇をペロンと舐めて笑った。
「なんで知ってるのって顔してるな? だから次郎と寝るにはどうしたらいいのか調べたんだってば。ゲイビも観たよ。次郎の顔を脳内で当てはめたら、余裕で抜けた」
「そんなのたまたま……っ」
「本当だって。次郎と知り合ってからほぼ連日お前で抜いてるし。それにだってさ、ほら」
俺の上にべったりと乗っていた拓海が、少し腰を浮かせて互いの中心を擦り合わせる。
「……な?」
俺の上に乗っている拓海の中心は、これ以上ないほどに固くなっていた。確かに、拓海は俺相手に欲情はしている、けど。
でも、――でも、どうしたって怖いんだよ……!
「う……っ」
「どうしたら俺の猫は警戒を解いてくれるのかなあ」
拓海は独りごちると、代わりとばかりに俺の首に吸い付き始めた。
「首輪邪魔だなあ。キスマーク付けたいのに」
「じゃあさっさと外せよ……!」
「やだ。逃げられたくないもん」
「この野郎……っ」
首は諦めたのか、鎖骨を唇で挟んで食み始める。
ぞくり、と快感が押し寄せる。目の前で俺を食おうとしているのは、ずっと片思いをしていた相手だ。気持ちよくなるのは仕方ない、とは思うけど。
――俺はこのまま拓海に抱かれるんだろうか。俺たちはどうやら両思いだったらしいけど、未だに実感が湧かない。
元々寝不足から貧血を起こしていたのもあって、頭の中がフワフワしていて夢の中にいるみたいだった。だって、男を受け付ける筈がないと思っていた拓海がまさか俺に興味を持っていたなんて、未だに嘘としか思えない。
……もしかしたら、本当に一度は抱けるのかもしれない。だけど、話を聞いた限りだと、拓海はノンケだ。
身体を重ねるのが二度、三度と続いたら、固くてごつい男の身体なんて嫌になるんじゃないか。
拓海は、今は本当に抱けると思ってるのかもしれない。だけど俺は、ずっと一緒にいられると思っていた男の心変わりを知っているから。
男臭い、萎えるって股を覗かれながら言われた心の傷は、ただの言葉だけじゃ癒やされはしない。
「た、拓海……っ、マジで後悔してほしくないから、やめろ……!」
「なに、後悔って。今次郎と両思いエッチしない方が絶対後悔するけど」
拓海の指が、問答無用とばかりに俺の後孔に差し込まれた。
「あっ、馬鹿……!」
「ん? 柔らかいな。まさか次郎、他の野郎とヤッてたりなんかしないよな?」
急に苛立った拓海の雰囲気は、さっき実演していた脅しの時のものと似ている。
「え、いや、一年まじで何も……っ」
俺は何を焦ってるんだ。ここで「そうだ」って言い返したら、もしかしたら諦めてくれたのかもしれないのに。
「よかった、もし相手がいたらぶっ殺しにいかないといけなかったもんな。腹立ち過ぎて半殺しにしちゃいそうだったから助かったよ。さすがに犯罪者にはなりたくないしね」
「……」
……嘘でも言わなくてよかった。てゆーか拓海、どんだけこれまで猫被ってたんだよ。怖えよ。
俺の後孔は、昨夜自分で慰めたせいでまだ柔らかさを保っていた。拓海の指が、あっという間に二本に増やされる。
「ん……っ、や、やめろっ!」
「最後弄ったのいつ? 昨日?」
「……別にいつだっていいだろ! プライバシーの侵害だぞ!」
「飼い猫にプライバシーないってば。てことは昨日なんだな。ねえ、じゃあ誰を思ってシたの?」
「……ッ!」
こいつなんてことを聞くんだよ! と拓海を睨んだ。すると拓海は、実に嬉しそうに笑う。
「……俺を想像してシたのな? 嬉しいなあ」
「……ッ!」
ああもう、どうしてこう全部思ってることがこいつには伝わっちゃうんだよ!
指が三本挿入されて、ぐちゃぐちゃと内壁を掻き乱される。
「前立腺ってどこだろうな」
「ばっ、や、やめ……っ、――んあっ!」
拓海の指が俺の感じるポイントに触れた瞬間、全身を快感が襲った。
拓海が再びにやりと笑う。……怖い。拓海の笑顔が怖い!
「……みーっけ。さ、ドロドロになろうか、猫ちゃん?」
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くらりとした。
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