可愛くない猫でもいいですか

緑虫

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11 告白

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 俺の中心を、俺がイかない程度にチロチロと舐める拓海の顔。

 こんな時でも格好よくて、ドキドキさせられる自分が嫌になった。現在進行形で意地悪されているのに、それでも好きだと思ってしまうのが悔しい。

 半泣きになりながら、本人に絶対言うまいと思っていた言葉を吐き出す。

「一年の時はなんもなくて……このまま一生恋なんてしないって決めてたのに……っ」
「のに?」

 拓海が柔らかい声で先を促した。どうして俺のもんをそんな顔で舐めてるんだよ。お前は俺と人種が違う筈、なのに。

 混乱しつつも、答える以外の選択肢は残されていないので、渋々答える。

「二年になって、お前が俺に近付いてくるから、だから気付いたら……っ」
「……気付いたら、なに?」

 拓海のもう片方の手が、俺の股の間に差し込まれていった。え、え。

 会陰を滑らかな動きでなぞる拓海の指に、「んぅ……っ」と堪らず甘い声が漏れる。

 拓海が、俺の亀頭をくぽりと口に含んだ。「ほら、言えよ」と催促する。

「イきたいだろ? 全部言えって」

 ……この……っ、こんちくしょう――!

「――気付いたらお前を好きになってたんだよ! 馬鹿!」

 吐露した瞬間、涙が溢れ出た。もう、訳が分からなかった。なんなんだよコイツ! 何をしたくて俺にこんなことをしてるんだよ!

「……ふふっ」

 人の決死の告白に、拓海は何故か笑い出す。なんだよ、俺の恋心がそんなにおかしいかよ……!

 悔しくて悲しくて、とうとう抑えていた嗚咽が溢れ出した。

「……っく、んぐ、ズズ……ッ、もう、もういいだろ……! さっさと解けよ、男に恋されてたなんて気持ち悪いだろ……! ひっく」
「気持ち悪いって言ったのは俺じゃないよ。さっきの加藤とかいう無神経野郎でしょ?」
「……ずずっ」

 いや、そりゃそうだけども。

「でも、こんな……っ、でかい男が抱かれる方って、おかしいだろ……っ」
「なんで? 男臭くて萎えるって言ったのは俺じゃないよ。高校時代の失礼な元彼だろ?」

 ……そう、だけども。

「と、とにかく……っ! もういいだろ、お前が聞きたかった俺の秘密はもうないから、満足だろ! 家に帰してくれよ……っ」
「満足? いや、俺の話はこれからだけど?」
「……お前の話?」

 そんなこと言ってたか? きょとんとしてしまい、拓海を見ると。

 拓海が満面の笑みを浮かべた。

「少しずつ俺に慣れさせてきたのに、勝手に誤解されて一瞬でそっぽ向かれるの、マジで腹立つ」
「な、慣れさせて……?」

 ん? 今なにの話をしてるんだっけ? と混乱して、おうむ返しをする。

「だーかーらー。次郎を手懐けようとしてたのに、横槍がしょっちゅう入るから妨害工作を毎回してたの。そもそも俺のもんに手を出そうとする奴らがいる時点で苛つくしさ。今日の奴なんて心底腹立った」
「手懐け……」

 俺は猫か? と思ったけど、そういや最初の出会いの時からこいつ俺のこと猫って言ってたな。

 それと、もうひとつ不可解なことがある。

「妨害工作……? なんだそりゃ」

 すると、拓海は大袈裟な溜息を吐いてみせた。あ、なんか苛つくなこれ。

「これだから無自覚はさ……俺がどれだけ今までお前に寄ってくる奴らを潰してきたと思う?」
「は? お前何言ってんの? 俺には誰も近寄ってこないじゃねえか。それに遊びにだって俺だけ誘われなかったりとかあったし」

 俺は一年の時はずっと孤独に過ごしていた。でも最初は俺なりにキャンパスライフを楽しもうと思っていたからサークルにも入ってたけど、俺を省いたのはあいつらの方だ。

「あー、あのサークル? 知ってる知ってる。後で聞きにいったら、お前のエロい雰囲気にやられる奴が相次いで、お互い牽制し合った結果お前がピンになって辞めてったって」
「は……? エロいって何」

 というか、聞きに行ったってなんだ。

「……これだから無自覚は……」

 拓海が溜息を吐く。

「まあでも、相手がまだお子ちゃまな奴らばっかりでよかったよ。手慣れてる奴に見つかってたらって思うと、すごいヒヤッとしたし」

 拓海の言っていることが、まじで分からない。

「で、でも、二年になっても誰も……」
「俺が目を付けてからは、積極的に妨害してたからね。『次郎は俺のだから近寄るな』って」
「へ……?」

 にっこりと言われても。

「次郎さ、自分が色気振りまいてるの理解してる? 元々雰囲気あったけどさ、俺といるようになってからアイツらまで次郎の良さに気付いて、気が気じゃなかったんだけど」
「アイツらって誰だよ」
「俺の周りに元々いた奴ら」

 ああ、一年の時の陽キャグループか。……え?

「いつもひとりで本を読んでる姿、すごい色気撒き散らしてるよ? 一度気付いたらもう気になっちゃって思い切って近付いてみたら、静かそうって思ってたのにいきなり噛みつかれてさ。あ、猫がいるって思った」
「お前、そればっかだな……」

 噛み付くとかも、完全に猫の例えじゃないか。俺に首輪付けたのも、俺のことを猫認識してるからか? どうなってんだこいつの倫理観は。

 拓海は俺の亀頭をチュパチュパしながら、楽しそうに続ける。

「ギャップ萌えっていうの? あ、これは俺のものだって思ったから、俺のものにしようと思った」
「お前な、理論破綻してるぞ……!」
「なのに、猫だけあって懐いたと思ったら離れていくし」

 だから俺は猫じゃねえって言ってんだろうが。

 だけど、拓海による俺の猫扱いは止まらない。

「これまでは誰も近寄らせない雰囲気あったのに、俺と話してるところを見られて『雰囲気が柔らかくなった』っつって近付こうとする奴らがどんどん出てきたから大変だったよ」
「……意味が分からない」
「なかなか俺には懐かない癖に雰囲気柔らかくなるってなに? 俺って試されてたの?」
「は……?」

 ……さっきから、どうも話がおかしい気がする。

「あのさ」
「ん? なあに?」

 俺の亀頭をぺろぺろしながら答える拓海の目は、弧を描いたままだ。俺が泣いてもちっとも動揺してないって、友人としてどうなんだよ。

 ……でもさ。

 もしかして。

 ひょっとしたら。

 嘘だろう、そんな夢みたいなことがある訳がないと思いながらも、どうせ逃げられないし……と自分に言い訳をして、尋ねた。

「さっきから聞いてると、まるでお前が俺を好きみたいに聞こえるんだけど……」

 途端、拓海の顔に、これまでとは明らかに違う、喜色がありありと分かる笑みが浮かぶ。……え、え、まさか?

「やっと気付いたか、遅えよこの鈍感猫」
「へ……っ」

 その直後。

「ひゃあっ!?」

 拓海が突然、俺のちんこを深く呑み込み、手と口で激しく扱き出す。

「た、拓海……っ、あ、イく……っ!」
「ん」
「あ……、あ、あ、――んんっ!」

 散々焦らされまくっていた俺は、突然の激しい快楽の前にあっさりと達してしまった。ドクン、ドクンと脈打つ陰茎は、相変わらず拓海の口の中に含まれたままだ。

「た、拓海……っ、ごめ、俺出し……っ」

 その瞬間。

 ゴクン、という嚥下音を立てて、拓海が俺から出ていったものを呑み込んでしまったのだった。
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