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5 和解
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はっきりと拒絶したにも関わらず、小川は毎日お見舞いに来た。
「木梨くん、今クラスではこんなことをしててね――」
割と重要なことを喋っているので、本当だったら聞き漏らしたくない。だけど小川の言葉を聞いていると思われたくなかったので、俺は終始目を閉じていた。当然返事もしない。
こんな態度を取る奴はさっさと見限ってお仲間のところに戻れよ、と心の中で毒づく。
だけど小川はめげなかった。
それが二週目に入ると、段々小川も慣れてきたんだろう。俺のベッド脇に当たり前のように腰掛けると、今日あった出来事を語った。
ついでにこいつが中学時代にバスケ部に所属していて高校もバスケ部に入部する予定でいること、身長は今も伸びていて180を超えたことも知る。別に知りたくねえし。
そんな風にしてひたすら壁打ちのように喋り続けていた小川が、ある日突然恐ろしいことをのたまった。
「あとどれくらいで退院できそう? 通学って松葉杖だよね? ねえ、迎えに行っていい?」
それまで全無視していた俺は、焦って目を開く。
「ば……っ! 絶対くるな! 迷惑だし!」
すると一週間ぶりに目を合わせて口を開いた俺を見て、小川が目に涙を溜めながら嬉しそうに笑ったじゃないか。……は?
「木梨くん、やっと俺を見てくれた……っ」
そんなキラキラ顔で言うなよ。俺が悪い奴みたいだろ。
小川が目を輝かしたまま、懇願するように俺を見つめる。
「ねえ木梨くん。俺、君ともっと仲良くなりたいんだ。友達になってくれないかな……?」
「あんたが俺に会いに来てるのは罪悪感からだろ。そんな奴と友達にはなりたくない」
俺と仲良くなりました、だからわだかまりはないですよってアピールか? としか思えない。我ながら性格が悪いと思うけど、だって事実だろうし。
だけど小川は食い下がった。
「違う! 俺、前に木梨くんが拓と話してる時に楽しそうに笑ってるところを見て、すごい羨ましくて……」
「は?」
ていうか、もう拓は呼び捨てなのか。やっぱりすごいなあいつ。
「俺も……ああいう風に笑い合いたいな……って」
白い顔を真っ赤に染めながら、上目遣いで俺を見るイケメン。意味分かんねえ。というか、一体いつ俺と拓が話してるところを見たんだよ。お見舞いの様子を陰から覗いてたのか? え、ストーカー? こいつ俺のストーカー?
「罪悪感で友達にはなれないだろ」
「おっ、俺は友達だと思ってる!」
「は? 嘘だろ」
思わず言ってしまった。
「こんな冷たい失礼な態度を取る奴のどこが友達なんだよ? お前分かってる? 俺に嫌われてんだぞ? いい加減怒れよ。どうせ性格悪い奴だったってオトモダチに愚痴ってんだろ?」
人のよさそうな顔して近付いてくるイケメンは信用ならない。毎日来てるのだってパフォーマンスに決まってる。俺は絶対に絆されないぞ!
すると、小川がムキになった。
「愚痴ってなんかない!」
こいつもこんな顔するんだな、ていう初めて見る表情だった。そのまま怒って帰れよ。もう俺に構うなよ。
「それに、木梨くんが怒るのはよく分かる!」
「は?」
ピキリとこめかみが鳴った。もう誰かこいつの口を閉じてくれ。
だけど小川は続けた。
「俺は木梨くんの中学の時の奴とは違う!」
聞いた瞬間、目の前が真っ白になる。……え、なんで。どうして小川がそれを知ってるんだよ?
「な……」
小川が気まずそうに目を伏せた。
「……ごめん。初日に拓から聞いてたんだ。八方美人な奴にいいように使われて、言うことに従わなかったらクラスを巻き込んで孤立させられたって」
「どうして拓が小川に……」
「俺が病院に行くって言った時、拓が止めたんだよ。『多分話してもらえないよ』って。だけど俺がしつこく食い下がったら、渋々教えてくれたんだ」
「そう……だったのか?」
小川がこくりと頷く。
「うん。中途半端な偽善だったら近寄らないでって言われた」
拓……! 今ここにはいない心の友の言葉に、不覚にも涙が溢れそうになった。
「でも……俺は木梨くんにそんな奴だと思われたくなくて……だって俺そいつじゃないし……」
もごもごと上目遣いで俺を見る小川の様子から、本当は俺に話すつもりはなかったことが窺える。
……そっか。だから拓は小川のことを先に俺に教えてくれたのか、と思った。
拓の周りには、いい奴ばっかりが集まる。その拓が牽制して、それでも俺に近付きたいって行動した小川だから拓が「いい奴そう」なんて言ったのかもしれない。
拓のお墨付きがあるなら、イケメンでも女子に囲まれてても、もしかして――。
「……なんでそんなに俺に構うんだよ」
捻くれた俺は、やっぱり捻くれたことしか言えない。
だけど小川は、俺の微妙な変化に気付いたんだろう。
花が咲いたような笑顔に変わると、
「だって木梨くんと仲良くなりたいんだもん」
と言った。
……なんだよ、照れた顔しちゃってさ。
俺はプイッとそっぽを向くと、ボソボソと呟く。
「……でいい」
「え? ごめん、なんて言った?」
俺はキッと睨むと、今度は大きな声を出した。
「淳平でいいって言ってんだよ! 木梨くんなんてキモいし!」
「え……っ、うわ、う、嘘、え」
動揺しまくっていた小川が、何かを思いついたのか目を輝かせる。
「じゅ、淳平! 俺はつばさ! つばさって呼んで!」
「お、おう……っ」
くそ恥ずかしい展開に居た堪れなくなって、やっぱり俺はそっぽを向いてしまったのだった。
「木梨くん、今クラスではこんなことをしててね――」
割と重要なことを喋っているので、本当だったら聞き漏らしたくない。だけど小川の言葉を聞いていると思われたくなかったので、俺は終始目を閉じていた。当然返事もしない。
こんな態度を取る奴はさっさと見限ってお仲間のところに戻れよ、と心の中で毒づく。
だけど小川はめげなかった。
それが二週目に入ると、段々小川も慣れてきたんだろう。俺のベッド脇に当たり前のように腰掛けると、今日あった出来事を語った。
ついでにこいつが中学時代にバスケ部に所属していて高校もバスケ部に入部する予定でいること、身長は今も伸びていて180を超えたことも知る。別に知りたくねえし。
そんな風にしてひたすら壁打ちのように喋り続けていた小川が、ある日突然恐ろしいことをのたまった。
「あとどれくらいで退院できそう? 通学って松葉杖だよね? ねえ、迎えに行っていい?」
それまで全無視していた俺は、焦って目を開く。
「ば……っ! 絶対くるな! 迷惑だし!」
すると一週間ぶりに目を合わせて口を開いた俺を見て、小川が目に涙を溜めながら嬉しそうに笑ったじゃないか。……は?
「木梨くん、やっと俺を見てくれた……っ」
そんなキラキラ顔で言うなよ。俺が悪い奴みたいだろ。
小川が目を輝かしたまま、懇願するように俺を見つめる。
「ねえ木梨くん。俺、君ともっと仲良くなりたいんだ。友達になってくれないかな……?」
「あんたが俺に会いに来てるのは罪悪感からだろ。そんな奴と友達にはなりたくない」
俺と仲良くなりました、だからわだかまりはないですよってアピールか? としか思えない。我ながら性格が悪いと思うけど、だって事実だろうし。
だけど小川は食い下がった。
「違う! 俺、前に木梨くんが拓と話してる時に楽しそうに笑ってるところを見て、すごい羨ましくて……」
「は?」
ていうか、もう拓は呼び捨てなのか。やっぱりすごいなあいつ。
「俺も……ああいう風に笑い合いたいな……って」
白い顔を真っ赤に染めながら、上目遣いで俺を見るイケメン。意味分かんねえ。というか、一体いつ俺と拓が話してるところを見たんだよ。お見舞いの様子を陰から覗いてたのか? え、ストーカー? こいつ俺のストーカー?
「罪悪感で友達にはなれないだろ」
「おっ、俺は友達だと思ってる!」
「は? 嘘だろ」
思わず言ってしまった。
「こんな冷たい失礼な態度を取る奴のどこが友達なんだよ? お前分かってる? 俺に嫌われてんだぞ? いい加減怒れよ。どうせ性格悪い奴だったってオトモダチに愚痴ってんだろ?」
人のよさそうな顔して近付いてくるイケメンは信用ならない。毎日来てるのだってパフォーマンスに決まってる。俺は絶対に絆されないぞ!
すると、小川がムキになった。
「愚痴ってなんかない!」
こいつもこんな顔するんだな、ていう初めて見る表情だった。そのまま怒って帰れよ。もう俺に構うなよ。
「それに、木梨くんが怒るのはよく分かる!」
「は?」
ピキリとこめかみが鳴った。もう誰かこいつの口を閉じてくれ。
だけど小川は続けた。
「俺は木梨くんの中学の時の奴とは違う!」
聞いた瞬間、目の前が真っ白になる。……え、なんで。どうして小川がそれを知ってるんだよ?
「な……」
小川が気まずそうに目を伏せた。
「……ごめん。初日に拓から聞いてたんだ。八方美人な奴にいいように使われて、言うことに従わなかったらクラスを巻き込んで孤立させられたって」
「どうして拓が小川に……」
「俺が病院に行くって言った時、拓が止めたんだよ。『多分話してもらえないよ』って。だけど俺がしつこく食い下がったら、渋々教えてくれたんだ」
「そう……だったのか?」
小川がこくりと頷く。
「うん。中途半端な偽善だったら近寄らないでって言われた」
拓……! 今ここにはいない心の友の言葉に、不覚にも涙が溢れそうになった。
「でも……俺は木梨くんにそんな奴だと思われたくなくて……だって俺そいつじゃないし……」
もごもごと上目遣いで俺を見る小川の様子から、本当は俺に話すつもりはなかったことが窺える。
……そっか。だから拓は小川のことを先に俺に教えてくれたのか、と思った。
拓の周りには、いい奴ばっかりが集まる。その拓が牽制して、それでも俺に近付きたいって行動した小川だから拓が「いい奴そう」なんて言ったのかもしれない。
拓のお墨付きがあるなら、イケメンでも女子に囲まれてても、もしかして――。
「……なんでそんなに俺に構うんだよ」
捻くれた俺は、やっぱり捻くれたことしか言えない。
だけど小川は、俺の微妙な変化に気付いたんだろう。
花が咲いたような笑顔に変わると、
「だって木梨くんと仲良くなりたいんだもん」
と言った。
……なんだよ、照れた顔しちゃってさ。
俺はプイッとそっぽを向くと、ボソボソと呟く。
「……でいい」
「え? ごめん、なんて言った?」
俺はキッと睨むと、今度は大きな声を出した。
「淳平でいいって言ってんだよ! 木梨くんなんてキモいし!」
「え……っ、うわ、う、嘘、え」
動揺しまくっていた小川が、何かを思いついたのか目を輝かせる。
「じゅ、淳平! 俺はつばさ! つばさって呼んで!」
「お、おう……っ」
くそ恥ずかしい展開に居た堪れなくなって、やっぱり俺はそっぽを向いてしまったのだった。
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