宝珠の神子は優しい狼とスローライフを送りたい

緑虫

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39 世界に加護を

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 少しずつ身体に力が湧いてきたので、床を支えていたグイードの腕を掴む。

 手を二の腕から徐々に手の方に移動させていき、俺のよりも大分大きな手に指を絡めた。それを目を大きく瞠っているグイードの前に持ち上げてみせると、グイードの舐める動作が止まった。はは、驚いてる驚いてる。

「さあ問題です! これ、誰の手だ?」

 グイードはようやく自分の身体に起きた変化に気付いたらしい。表情が、驚きから徐々に理解に変化していく。

「だ、だが、なんでだ……? だってオレは人化できないからと一族から追い出され……」
「グイード、前に俺の血を舐めた時に少し変化してたんだよ。気付かなかった?」

 グイードの切れ長の瞳が、更に大きく見開かれた。

「えっ? い、いや、全く」
「ははっ! ドッキリ大成功だ!」

 今度は、訝しげに顔をしかめるグイード。こっちの顔だと、表情が凄く豊かで新鮮だなあ。

「ドッキリとは何だ? 相変わらずお前の言うことはよく分からんな」
「グイードッ!」

 楽しくて嬉しくて、グイードの逞しい裸の胸に自ら飛び込んでいった。グイードは明らかに戸惑いながらも、ゆっくりと確かめるように腕の輪を閉じていく。やがて俺をすっぽりと腕の中に収めると、まだ少し驚いた顔のまま俺の鼻に鼻を擦り付けた。

 狼の時と同じ仕草だけど、大人の男性がやってると思うと妙にこそばゆい。

「俺さ、帝都で宝珠が獣人の人化を促すって聞いて、グイードが人化するのにエネルギーがあとちょっとだけ足りてなかったのかなって思ったんだ。でさ、俺って宝珠の塊じゃん? だから多めに血を飲んだら後は勝手に人化するんじゃないかって考えたんだ。どう? 俺にしては考えたでしょ?」
「ヨウタ……お前という奴は」

 涙ぐむグイードの瞳の色は、狼の時と同じ金色をしていた。狼の時とは顔は勿論違うけど、どことなく面影がある。目の形なんかほぼそのまんまだ。

 微笑みながら、グイードの頬を撫でた。やっとこうして向かい合うことができた幸せを、ゆっくり噛み締める。

 きっとこれで、グイードの中にあった枷は取り払われた筈だ。だから俺は、懇願する。誰か他の人に無理やり奪われる前に、一番大事で大切なグイードに捧げる為に。

「グイード」
「……ああ」

 グイードの瞳が、とろんと情欲を帯びてきているのが分かった。宝珠が満遍なく溶けた神子の血がこの効果を相手にもたらすことも、経験上俺はもう知っている。その理由は、誰に教わるまでもなく感覚で知った。

 きっと、これまでの歴代神子も肌感覚で分かってたんじゃないかな。だから愛する人との間になら、男同士だろうが喜んで子供を作れた。だからきっと、無理やり奪われそうになったら全身全霊で拒絶したんだと思う。セドリックや獣王に対して俺がそうしたように。

 神子は、愛した相手に全力で愛してほしいと訴える。こうして相手に発情を促してでも、目の前の愛する人に自分を捧げたいと願うんだ。そして相手が自分に向いてくれた時に初めて、世界で唯一神子が愛する人だけを宝珠は受け入れる。

 ――そうやって、世界に加護を与えるんだ。

「俺の番いになってほしいんだ」

 グイードの顔を引き寄せて、じっと見つめた。どくどくと、早い鼓動がグイードから伝わってくる。

「オレで……こんなオレでいいのか……?」

 荒くて熱い息を繰り返しながらも、鋼の理性を持つグイードは必ず確認する。

「グイードがダメなら、俺は一生誰とも番わないよ」

 にへ、と笑うと、グイードはごくん、と唾を嚥下し。意を決したように暴露した。

「実は――オレの番いはヨウタだけだと、最初から決めていた……」
「うん、知ってる」

 意外そうに小首を傾げる仕草は、狼の時と変わらない。姿は変わっても、俺の、俺だけのもふもふなんだ。

「……そんなに分かりやすかったか?」
「狼族の習性をお城で教えてもらって、後から気付いたんだ」

 俺の返事に、グイードの顔がポッと赤くなり。

「……ならばもう隠す必要はないな」

 大輪の花のような笑顔を咲かせたグイードは次の瞬間、荒々しく噛み付かんばかりの勢いで俺の唇を奪ったのだった。
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