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26 猛省のセドリック
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身から出た錆とはいえ、さすがに自分が嫌になった。
かといって、あそこで刃傷沙汰になったらセドリックが大変なことになるのは目に見えている。セドリックが捕まったりしたら、きっと妹のエリンだって俺から引き離される。そうしたら俺の味方がいなくなるじゃん。ということを、あの一瞬で判断したんだ。咄嗟の危機回避能力っていうの? 俺にも備わってたんだって初めて知ったよ。
だけど、慣れない頭を使ったからもうぐったりだ。あーもう嫌だこういう腹の探り合いとかバチバチしたやつ。今すぐグイードのもふもふな首に顔を突っ込んでスーハーして何もかも忘れたい。グイード、会いたいよ……。
「はあ……」
部屋のベッドに腰掛けて大きな溜息を吐いた俺を見て、セドリックがぺしょんと耳と尻尾を垂らしながら身体を縮こまらせた。
「神子様、誠に申し訳ございません……神子様と一族のことを悪しざまに言われ、頭に血が上ってしまいました」
「うん、あの言い方は酷いよなって俺でも思ったよ。でも仕方ないとは言ってあげられない。ごめんな」
ジト目で答えると、セドリックは更に項垂れてしまった。
あの後宰相は、「では近日中に神子様のお披露目会兼候補者との顔合わせを開催致します故、日時は追って連絡致します!」と揉み手をして飛び上がらんばかりのはしゃぎっぷりだった。あれだけ人に向かって罵詈雑言を吐いた直後だとは思えない。ただの強欲じいさんだと思ってたけど、宰相をやっているだけあって面の皮が相当厚いんだろう。信じられない。やっぱり帝都怖い。
勿論俺だって、あのまま言い包められたら堪ったもんじゃない。だから、異様にはしゃぐ宰相をなるべく目に入れないように努力しつつ、獣王に「顔合わせが終わり次第旅に出ますから。いいですね」と何とか言った。獣王はひと言、「……分かりました」と言って了承してくれたのでホッとした。
宰相は「まあ候補者といい感じになられたらもう廃れた狼族のことなんて忘れてしまうと思いますけどね、ひゃーっひゃっひゃっ!」て笑ってたから、平和主義者な俺でもやっぱり一発殴ってやりたいなとは思ったけど。
まあグイード探しは先延ばしにはなっちゃったけど、許可が取れたからギリギリ及第点ってとこかな。セドリックが耳元で「私の部下を使い、狼族の行方は引き続き探しますので」って囁いてくれたこともあって、何とか今すぐ出て行きたいのを抑えることができた。
ということで、これ以上の長居は無用。何とか引き留めようとする宰相の話をぶった切って無理やり引き上げたんだけど、まあそれからのセドリックの凹みようが酷い。俺の部屋がどんよりしてるように見えるぞ。
自分の兄をそこそこ冷たい目で見ていたエリンが、ふと窓の外を見て呟く。
「……あら、雨雲が」
錯覚かと思ったら、天気が下り坂になっているのが原因だったみたいだ。うん、つまり俺の機嫌も下り坂ってことだね。黒雲が立ち込めてきて、雷まで光ってるね。これは悲しいっていうよりも怒りかな?
俺の前に両膝を突いて項垂れているセドリックが、今にも泣きそうな上目遣いで見てきた。
「宰相が口達者で策士なのは理解していたのですが、日頃あまり関わることがなく……完全に油断致しました……」
「騎士団は獣王様の管轄下にあるんですよ。宰相は内政の方を管轄しておりますので、兄が言っていることは嘘ではないですよ。浅はかとしか言いようがありませんが」
エリン、実のお兄ちゃんに辛辣だね! 完全無の表情がとっても怖いです。怒ってるのがよく伝わってくるよ!
「宰相は獅子族至上主義ですからね。他種族を蹴落とせる機会は見逃しません。わざと相手を貶し煽って怒りを誘導し、相手に隙を作らせて陥れます。宰相の挑発に乗らないのが一番の対処法なのですが、これだから脳筋は」
「ぐ……っ」
エリンの言葉が、研ぎ澄まされたナイフのようにグサグサとセドリックに刺さっていく。ていうかセドリックって脳筋だったんだ。見た目が貴公子だったから思ってなかった。脳筋……そっか、人選、エリンの方がよかったんじゃないの?
「神子様、何なりと罰は受けます。何卒……」
いつでも首を切ってくれとでも言わんばかりに俺に首の後ろを見せてるけど、切らないからね? 流血沙汰とか勘弁してね?
エリンがにっこりと微笑む。
「神子様、どうぞなんなりとご要望を」
エリンがさっきから怖いよ。ひいっ、これ何か罰を与えないと駄目な流れのやつじゃん。かと言って、罰って言われてもなあ。困ってしまって、異様に静まり返ってしまった部屋で考え込んだ。そして、思いついた。
「あっ」
「何でしょう? 百叩きなりなんなりと」
覚悟を決めたような顔をしないで。
「怖いから。そういうのじゃなくてさ……」
「どういうのでしょう……?」
若干怯えた様子のセドリックが顔を上げる。俺は両手をわきわきさせると、にかっと笑って言った。
「耳と尻尾、もふもふさせて」
「へ……」
……はい、というセドリックの極小さな声が返ってきた。
かといって、あそこで刃傷沙汰になったらセドリックが大変なことになるのは目に見えている。セドリックが捕まったりしたら、きっと妹のエリンだって俺から引き離される。そうしたら俺の味方がいなくなるじゃん。ということを、あの一瞬で判断したんだ。咄嗟の危機回避能力っていうの? 俺にも備わってたんだって初めて知ったよ。
だけど、慣れない頭を使ったからもうぐったりだ。あーもう嫌だこういう腹の探り合いとかバチバチしたやつ。今すぐグイードのもふもふな首に顔を突っ込んでスーハーして何もかも忘れたい。グイード、会いたいよ……。
「はあ……」
部屋のベッドに腰掛けて大きな溜息を吐いた俺を見て、セドリックがぺしょんと耳と尻尾を垂らしながら身体を縮こまらせた。
「神子様、誠に申し訳ございません……神子様と一族のことを悪しざまに言われ、頭に血が上ってしまいました」
「うん、あの言い方は酷いよなって俺でも思ったよ。でも仕方ないとは言ってあげられない。ごめんな」
ジト目で答えると、セドリックは更に項垂れてしまった。
あの後宰相は、「では近日中に神子様のお披露目会兼候補者との顔合わせを開催致します故、日時は追って連絡致します!」と揉み手をして飛び上がらんばかりのはしゃぎっぷりだった。あれだけ人に向かって罵詈雑言を吐いた直後だとは思えない。ただの強欲じいさんだと思ってたけど、宰相をやっているだけあって面の皮が相当厚いんだろう。信じられない。やっぱり帝都怖い。
勿論俺だって、あのまま言い包められたら堪ったもんじゃない。だから、異様にはしゃぐ宰相をなるべく目に入れないように努力しつつ、獣王に「顔合わせが終わり次第旅に出ますから。いいですね」と何とか言った。獣王はひと言、「……分かりました」と言って了承してくれたのでホッとした。
宰相は「まあ候補者といい感じになられたらもう廃れた狼族のことなんて忘れてしまうと思いますけどね、ひゃーっひゃっひゃっ!」て笑ってたから、平和主義者な俺でもやっぱり一発殴ってやりたいなとは思ったけど。
まあグイード探しは先延ばしにはなっちゃったけど、許可が取れたからギリギリ及第点ってとこかな。セドリックが耳元で「私の部下を使い、狼族の行方は引き続き探しますので」って囁いてくれたこともあって、何とか今すぐ出て行きたいのを抑えることができた。
ということで、これ以上の長居は無用。何とか引き留めようとする宰相の話をぶった切って無理やり引き上げたんだけど、まあそれからのセドリックの凹みようが酷い。俺の部屋がどんよりしてるように見えるぞ。
自分の兄をそこそこ冷たい目で見ていたエリンが、ふと窓の外を見て呟く。
「……あら、雨雲が」
錯覚かと思ったら、天気が下り坂になっているのが原因だったみたいだ。うん、つまり俺の機嫌も下り坂ってことだね。黒雲が立ち込めてきて、雷まで光ってるね。これは悲しいっていうよりも怒りかな?
俺の前に両膝を突いて項垂れているセドリックが、今にも泣きそうな上目遣いで見てきた。
「宰相が口達者で策士なのは理解していたのですが、日頃あまり関わることがなく……完全に油断致しました……」
「騎士団は獣王様の管轄下にあるんですよ。宰相は内政の方を管轄しておりますので、兄が言っていることは嘘ではないですよ。浅はかとしか言いようがありませんが」
エリン、実のお兄ちゃんに辛辣だね! 完全無の表情がとっても怖いです。怒ってるのがよく伝わってくるよ!
「宰相は獅子族至上主義ですからね。他種族を蹴落とせる機会は見逃しません。わざと相手を貶し煽って怒りを誘導し、相手に隙を作らせて陥れます。宰相の挑発に乗らないのが一番の対処法なのですが、これだから脳筋は」
「ぐ……っ」
エリンの言葉が、研ぎ澄まされたナイフのようにグサグサとセドリックに刺さっていく。ていうかセドリックって脳筋だったんだ。見た目が貴公子だったから思ってなかった。脳筋……そっか、人選、エリンの方がよかったんじゃないの?
「神子様、何なりと罰は受けます。何卒……」
いつでも首を切ってくれとでも言わんばかりに俺に首の後ろを見せてるけど、切らないからね? 流血沙汰とか勘弁してね?
エリンがにっこりと微笑む。
「神子様、どうぞなんなりとご要望を」
エリンがさっきから怖いよ。ひいっ、これ何か罰を与えないと駄目な流れのやつじゃん。かと言って、罰って言われてもなあ。困ってしまって、異様に静まり返ってしまった部屋で考え込んだ。そして、思いついた。
「あっ」
「何でしょう? 百叩きなりなんなりと」
覚悟を決めたような顔をしないで。
「怖いから。そういうのじゃなくてさ……」
「どういうのでしょう……?」
若干怯えた様子のセドリックが顔を上げる。俺は両手をわきわきさせると、にかっと笑って言った。
「耳と尻尾、もふもふさせて」
「へ……」
……はい、というセドリックの極小さな声が返ってきた。
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