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10 宝珠の効果
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グイードの前足から流れ出ている血が、地面に敷かれた枯れ草を濃い赤色に染めていく。
「腕を出せ」
「……うん」
グイードは、結構頑固者だ。こうと言ったら譲らないところがある。自分が怪我をしても俺を助け出したことからも、今はもう何を言っても俺を優先するつもりなのは明白だった。
だったらここでごねて時間を無駄にするよりも、さっさと見せてグイードの傷の手当てをしたい。
グイードの顔の前に血が滴る手を出すと、おもむろにグイードが舌で舐め始めた。
「……っ」
痛みが襲ってくるかと思い身構えていたけど、滑らかな舌ざわりが……気持ちいい。深そうだった傷だけど、グイードが血を舐めて綺麗にしてくれて見えてきた手のひらには――傷ひとつ残ってなかった。
グイードが、黄金色の瞳を見開く。
「これは……」
「うおお、宝珠って凄い効果なんだね」
「痛みは残ってないか? トゲは残ってないか?」
心配そうに尋ねるグイードに、微笑んで頷いてみせた。今度は俺の番だ。
「俺はもう大丈夫だから、グイードの怪我を見せて」
「俺は別に」
「見せるの! ほら、大人しく出せって!」
「……」
渋々、といった様子で俺の太ももくらいの太さがある前足を出すグリード。若干不貞腐れたように見える顔が何だか可愛い。
血で束になってしまった毛並みを掻き分けて、傷口を探す。探す――んだけど。
「あれ? 傷がない。どういうこと?」
不思議に思って一緒に覗き込んでいたグイードを見上げると、眉間に皺を寄せているグイードと目が合った。
「グイードの怪我も治っちゃったみたいだよ」
「……そういえば、ヨウタの血を舐め取ったあたりから痛みが引いていった気がする」
「え、俺の血って他の人の怪我も治しちゃうの? これも宝珠の力かな? 凄くね?」
俺自身、怪我を負ってもすぐに治っちゃうことが判明したし、これならグイードが怪我してもサッと血を舐めさせたらすぐに完治する。わお、俺ってなんか凄い身体になってる。
だけど、グイードは難しそうな表情をしていた。
「……グイード?」
「――ヨウタ。今は俺しかいないからいいが、万が一他の者に会った時、宝珠の治癒の効果は絶対に言うんじゃない」
「え、なんで?」
怪我をしている人がいたら助けられるじゃん、と思っていたけど、グイードの眼差しは真剣そのものだった。
「よく考えるんだヨウタ。ひとりふたりのわずかな怪我ならいいが、これが戦場だったらどうなるか」
「あ」
「お前の血を求める者たちに捕まり、逃げられぬよう監禁される可能性だってあるんだぞ」
「怖いんだけど」
「利権を重要視する者はそういうことも考えるということだ」
グイードの言葉に、俺はやっぱり単細胞なんだなあと改めて実感していた。グイードのいう通り、世の中の人、こっちで言えば獣がみんないい奴だなんていう保証は一切ないんだ。俺の血を売り物にして儲けることだって、やろうと思えばできるってことじゃないか。
ゾッとした。
「グイード……俺、グイードから離れないから」
ぎゅ、とグイードの首に縋り付くように抱きつくと、何だかトロンとした目になってきているグイードが俺に顔を擦り付けてきた。
「ああ、オレから離れるな……ヨウタ、ヨウタ」
グイードの舌が、俺の首筋を舐め上げる。甘えるような仕草から、随分と心配させちゃったんだな、と反省した。
「あは、擽ったいって」
だけどグイードは、一向にやめようとしない。首元から入り込んできた舌が、俺のぺたんこの胸まで舐めていく。あ、あれ?
「うひゃっ、ちょ、ちょっとグイードってば」
押し返しても、グイードはびくともしない。はあはあ、といつもより荒い息を俺に吹きかけてきている。
「ヨウタ、オレの太陽……」
「グイード?」
なんか様子がおかしくないか? と気付いた俺は、力一杯グイードの顔を押しのける。どこかぼんやりしているグイードの目を覗き込んだ。あ、なんか焦点が合ってないかも。
「ヨウタ、ヨウタ……」
スンスンと俺の身体の匂いを嗅ぎまくり、身体を擦り付けてくるグイード。いよいよおかしい! ちょっと、宝珠の効果って傷を治すだけなんじゃないのか? なんかヤバい何かを摂取したみたいになってないかこれ?
「ヨウタが欲しい、ヨウタ……」
うわ言のように呟くグイード。その時、俺は見てしまったんだ。普段は毛に埋もれていて殆ど見ることのない、グイードの股間にある雄の象徴がニョッと出てきているところを。
――発情、という単語が脳裏を過っていった。
「……宝珠の馬鹿! なんつー効果を出してんだよ!」
神様に愚痴るとなんか見られてそうで微妙だったので、宝珠の文句を口にする。
相変わらずフンスン俺の匂いを嗅いではとうとう俺の股間に鼻先を突っ込んできたグイードのイッちゃってる目を覚ます為に、グイードの頭を掴んで揺さぶる。
「グイード、お前宝珠でおかしくなってるぞ! 目を覚ませ、相手は俺だぞ!」
「ハアハア……」
グイードの耳を引っ張り、怒鳴った。
「グイード! しっかりしろ!」
「……はっ!」
グイードは正気に戻ったのか、目をパチクリさせると俺と自分の股間を交互に見て――。
「……うわっ! す、すまない!」
物凄い勢いで飛び退った。……ん? グイードの顔、なんかいつもと違くないか? 体格もなんとなくフォルムが……。
「グイード、ちょっと顔を見せ、」
俺が一歩近付くと、グイードはぴょんとひと飛びで外に出てしまった。フイッと背中を向ける。あ、顔を確認したかったのに!
「お、落ち着かせてから戻る! いいか、そこから離れるなよ!」
「え、ちょっと待ってよグイード! 顔をよく見せ――」
俺が言い終わる前に、グイードの姿は消えていた。
「腕を出せ」
「……うん」
グイードは、結構頑固者だ。こうと言ったら譲らないところがある。自分が怪我をしても俺を助け出したことからも、今はもう何を言っても俺を優先するつもりなのは明白だった。
だったらここでごねて時間を無駄にするよりも、さっさと見せてグイードの傷の手当てをしたい。
グイードの顔の前に血が滴る手を出すと、おもむろにグイードが舌で舐め始めた。
「……っ」
痛みが襲ってくるかと思い身構えていたけど、滑らかな舌ざわりが……気持ちいい。深そうだった傷だけど、グイードが血を舐めて綺麗にしてくれて見えてきた手のひらには――傷ひとつ残ってなかった。
グイードが、黄金色の瞳を見開く。
「これは……」
「うおお、宝珠って凄い効果なんだね」
「痛みは残ってないか? トゲは残ってないか?」
心配そうに尋ねるグイードに、微笑んで頷いてみせた。今度は俺の番だ。
「俺はもう大丈夫だから、グイードの怪我を見せて」
「俺は別に」
「見せるの! ほら、大人しく出せって!」
「……」
渋々、といった様子で俺の太ももくらいの太さがある前足を出すグリード。若干不貞腐れたように見える顔が何だか可愛い。
血で束になってしまった毛並みを掻き分けて、傷口を探す。探す――んだけど。
「あれ? 傷がない。どういうこと?」
不思議に思って一緒に覗き込んでいたグイードを見上げると、眉間に皺を寄せているグイードと目が合った。
「グイードの怪我も治っちゃったみたいだよ」
「……そういえば、ヨウタの血を舐め取ったあたりから痛みが引いていった気がする」
「え、俺の血って他の人の怪我も治しちゃうの? これも宝珠の力かな? 凄くね?」
俺自身、怪我を負ってもすぐに治っちゃうことが判明したし、これならグイードが怪我してもサッと血を舐めさせたらすぐに完治する。わお、俺ってなんか凄い身体になってる。
だけど、グイードは難しそうな表情をしていた。
「……グイード?」
「――ヨウタ。今は俺しかいないからいいが、万が一他の者に会った時、宝珠の治癒の効果は絶対に言うんじゃない」
「え、なんで?」
怪我をしている人がいたら助けられるじゃん、と思っていたけど、グイードの眼差しは真剣そのものだった。
「よく考えるんだヨウタ。ひとりふたりのわずかな怪我ならいいが、これが戦場だったらどうなるか」
「あ」
「お前の血を求める者たちに捕まり、逃げられぬよう監禁される可能性だってあるんだぞ」
「怖いんだけど」
「利権を重要視する者はそういうことも考えるということだ」
グイードの言葉に、俺はやっぱり単細胞なんだなあと改めて実感していた。グイードのいう通り、世の中の人、こっちで言えば獣がみんないい奴だなんていう保証は一切ないんだ。俺の血を売り物にして儲けることだって、やろうと思えばできるってことじゃないか。
ゾッとした。
「グイード……俺、グイードから離れないから」
ぎゅ、とグイードの首に縋り付くように抱きつくと、何だかトロンとした目になってきているグイードが俺に顔を擦り付けてきた。
「ああ、オレから離れるな……ヨウタ、ヨウタ」
グイードの舌が、俺の首筋を舐め上げる。甘えるような仕草から、随分と心配させちゃったんだな、と反省した。
「あは、擽ったいって」
だけどグイードは、一向にやめようとしない。首元から入り込んできた舌が、俺のぺたんこの胸まで舐めていく。あ、あれ?
「うひゃっ、ちょ、ちょっとグイードってば」
押し返しても、グイードはびくともしない。はあはあ、といつもより荒い息を俺に吹きかけてきている。
「ヨウタ、オレの太陽……」
「グイード?」
なんか様子がおかしくないか? と気付いた俺は、力一杯グイードの顔を押しのける。どこかぼんやりしているグイードの目を覗き込んだ。あ、なんか焦点が合ってないかも。
「ヨウタ、ヨウタ……」
スンスンと俺の身体の匂いを嗅ぎまくり、身体を擦り付けてくるグイード。いよいよおかしい! ちょっと、宝珠の効果って傷を治すだけなんじゃないのか? なんかヤバい何かを摂取したみたいになってないかこれ?
「ヨウタが欲しい、ヨウタ……」
うわ言のように呟くグイード。その時、俺は見てしまったんだ。普段は毛に埋もれていて殆ど見ることのない、グイードの股間にある雄の象徴がニョッと出てきているところを。
――発情、という単語が脳裏を過っていった。
「……宝珠の馬鹿! なんつー効果を出してんだよ!」
神様に愚痴るとなんか見られてそうで微妙だったので、宝珠の文句を口にする。
相変わらずフンスン俺の匂いを嗅いではとうとう俺の股間に鼻先を突っ込んできたグイードのイッちゃってる目を覚ます為に、グイードの頭を掴んで揺さぶる。
「グイード、お前宝珠でおかしくなってるぞ! 目を覚ませ、相手は俺だぞ!」
「ハアハア……」
グイードの耳を引っ張り、怒鳴った。
「グイード! しっかりしろ!」
「……はっ!」
グイードは正気に戻ったのか、目をパチクリさせると俺と自分の股間を交互に見て――。
「……うわっ! す、すまない!」
物凄い勢いで飛び退った。……ん? グイードの顔、なんかいつもと違くないか? 体格もなんとなくフォルムが……。
「グイード、ちょっと顔を見せ、」
俺が一歩近付くと、グイードはぴょんとひと飛びで外に出てしまった。フイッと背中を向ける。あ、顔を確認したかったのに!
「お、落ち着かせてから戻る! いいか、そこから離れるなよ!」
「え、ちょっと待ってよグイード! 顔をよく見せ――」
俺が言い終わる前に、グイードの姿は消えていた。
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