世界樹の贄の愛が重すぎる

緑虫

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60 天啓のように

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 入ってきたのは、あり得ないほど固くて熱いものだった。

 息をすることすら忘れて、何とか中に受け入れようと懸命に身体の力を抜こうと頑張る。だけどあまりの圧迫感に叶わなくて、ユグの動きに合わせて「あ、あ……っ」と小さな吐息だけが漏れていった。

 僕に体重をかけないようにか、肘を突いて少し身体を浮かせているユグが、汗だくの僕の額を温かい手のひらで撫でる。

「アーウィン、息して」

 聞き心地のいい低い声が、優しく囁いた。

「……はあっ! あ、う、うん……っ!」
「食べて?」
「はむん……っ!」

 次々と口に世界樹の実が運ばれてくる。甘さに酩酊しながら繰り返し嚥下していると、ユグがチュ、と僕の顎にキスを落とした。

 黄金色の瞳を輝かせながら、嬉しそうに笑う。

「半分入った」
「えっ」

 まだ半分!? という意味で驚くと、ユグは「もう少しだから、もっと食べて」とどんどん口移しで世界樹の実を与えてきた。……これって、給餌行動では。

 最初の時に顔中を毛づくろいだとばかりに舐められた記憶が、ふと蘇る。

「アーウィン、好き」

 世界樹の実を与えられていない時は、顔中に口づけされた。押し潰さないようにと腕力と腹筋で支えられた身体に浮かぶ汗が、炎を反射して煌めく。

 綺麗だった。生命力に溢れた輝く美しいユグ。ユグの全てがほしいと、僕だけのものにしたいとずっと願っていたんだと、今更ながらに気付く。

 ……そんな彼のアソコが、僕の中に入り込んできているこの状況は、さすがに想像していなかったけど。

 ちらりと結合部を見ると、もう大分深くまで入っている。どうせなら、もっと深く甘くて可愛い恋人を咥え込みたい。

「ユ、ユグ……もっと、大丈夫かも……?」

 すると、ユグの瞳に突然じわりと涙が滲んできたじゃないか。

「えっ!? ど、どうしたの!?」

 驚いて尋ねると、ユグが唇を噛み締めて吐露した。

「アーウィンを抱き終わったら、アーウィンお家に帰る……これが最後になるの、嫌だ……! ずっと続けたい、深いところ行きたい、でも終わるのやだ……!」
「……ユグ」

 確かにここでユグが族長になってしまったら、ユグは僕と一緒に人間族の国に行くことはできなくなるだろう。それは、僕も分かっていた。分かっていて、ユグが安全でいられる方法を取ってほしいと願った。

 でも、だからってずっとお別れになっちゃうんだろうか? お互い欲しあっていても、続けていけない関係なのか。ユグがここまで悲しむ理由はなんだ。

 ユグが嗚咽し始める。ぽたり、ぽたりと落ちる透明の涙の一滴すら、ユグのものは美しい。

 すると、ユグは驚きの事実を口にした。

「守り人には、制限がある……ずっとは聖域を離れられない」
「え?」
「ずっとずっと離れると、枯れて死んでしまう。父さまが教えてくれた。……本当は知ってるの、長と、長になる人だけ」

 目を瞠ると、ユグが僕の頬に頬を擦り付ける。愛しいと、大好きだと仕草だけで伝わってきた。

「伝令程度なら、大丈夫。何年もは、できない……地上へのカカンショウ? 駄目だって決まってるって」

 過干渉……そうか、守り人は超自然的存在である世界樹の声を聞くことができるから、それ故に枷を付けられているのかもしれない。誰に、かは分からないけど。

「……何で長にしか伝わってないの?」
「昔、信じなかった守り人、何人も地上で死んじゃった。だから神様、掟を作ったって。聖域以外で暮らしちゃいけないって」
「そっか……」

 ポロポロと、ユグは泣き続ける。

「伝令の数、少なくしてるのもそれが理由だって。外知ってる守り人、外に興味持つから……。外から来る人、守り人に興味与える。だから基本、関わっちゃ駄目だって」
「あ……それで聖域に入れないようになってるのか!」

 こくりとユグが頷いた。

「守り人の血を持つ人だけ、聖域に入れる。アーウィンが付けてるそれ、守り人の血が入ってる。なくしたらおしまい」

 ユグが僕の首に今もはめられている金属製の首輪に手を触れる。苦しそうな顔をして。

「オレとアーウィン、ずっとは一緒にいられない……最初から、決まってる」

 瞬きをする度に、涙が僕の上に落ちてきていた。ああ、僕のユグが泣いている。僕と別れないといけないからと悲しんでいる。

 もしかしたらユグとは別れないといけないかもしれないと、頭の片隅では可能性に気付いていた。

 だけどそれは、ユグの幸せを願ってのことだ。こんなに悲しみに暮れた状態でのことでは、絶対にない。

 だから僕は、必死で考えた。何か打破できる可能性があるんじゃないかと。

 何故なら、この世界は奇跡で作られているのではなく、神界と冥界が定めた掟によって動いている世界だからだ。規則性と言ってもいい。つまり掟にさえ背かなければ、例外が適用される抜け道もあり得るんじゃないか。

 これまで僕とユグがひとつひとつ解いてきた謎のように。

 と、その瞬間、ある考えが唐突に降ってきた。遠くからの、キッという鳴き声に乗って。

「……あ」
「ぐす……うん?」
「いいこと思いついた」

 それは、正に天啓のような瞬間だった。まるで誰かがコソッと耳打ちしてくれたかのような。

「え……? いいこと?」
「うん」

 ユグの頬の涙を、手のひらで拭ってやる。ユグはきょとんとしていて、やっぱり可愛い一択だ。

 僕はユグが好きだ。勿論師匠も研究も大事だけど、ユグを悲しませてまで守り抜きたいかと思うと――ユグの方が勝る。

「僕が外の世界に戻らない保証があれば、守り人一族も僕を受け入れてくれるんじゃないかな」
「? どういうこと?」
「僕の精液も一緒に捧げたらどうなるかなって」
「……!」

 少し柔らかくなってきていたユグの雄が、僕の中でじわじわと固くなっていく。

「それってアーウィン、一緒にいてくれるってこと……?」

 泣き虫ユグが、唇を震わせた。僕はこくりと頷く。

「だって、地上にはユグはいないでしょ。ユグの隣で、僕はユグの笑顔を守っていきたい。それに……子供もできちゃったりするかもしれないし?」

 へへ、と笑った。『贄』として育てられ、十年もの間ひとりで生きてきたユグが長として立つには、生半可ではない努力が必要だろう。僕はユグが迷った時、挫けそうになった時、隣で一緒に悩んで話し合って、ひとつひとつ共に解決していきたい。

 この先のユグの人生に、ユグが寂しいと思う時間が一瞬たりともできないように。

「アーウィン……!」

 くしゃりと顔を歪ませたユグが、一気に最奥へと突き刺す。

「んんっ!?」

 突然のことに目を白黒させていると、ユグが激しいキスを浴びせてきた。それまでゆっくり揺さぶられていただけだった僕の腰をガシッと掴むと、一気に突き上げを始める。

「ああっ! あ、や、急に……、んああっ!」
「アーウィン、アーウィンアーウィンアーウィン!」
「ひゃあっ! あ、あ、ユグ、ユグ……!」

 ユグに両腕を伸ばして、逞しい肩に顔を埋めた。激しい抽送に、何も考えられなくなり。

「――ああっ!」
「……出す!」

 僕が白濁を吐き出すと同時に、ユグも僕の中から出て、僕のお腹の上で互いの精液を混ぜ合わせる。

 ユグは手のひらでグチョグチョと撫でると、ねちょねちょになった手のひらを僕に見せた。

 肩で息をしているユグが息を整えた後、破顔する。

「……これ、捧げる」
「うん。やってみよう……!」

 くちゅ、と唇同士を重ね合わせた後、僕らは祭壇の器へと向かった。
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