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30 会いたかった
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僕たちの報告を受けて、まずはヨルトとファトマさんとでもう一度土壌と樹木の状態を調べていくことになった。
ファトマさんの隣に座っていた男性の名前は、ローニャさん。ドルグのマナ調査には、ローニャさんが案内をすることに決まった。ローニャさんの子供のシュバクくんは後学の為、ローニャさんに同伴する。
シュバクくんは、なんと長老のひ孫なんだそうだ。シュバクくんが会いに行くと、とても喜んで「寿命が伸びた」と言っていたらしい。
あれ? ワドナンさんは長老の息子じゃなかったよね? とすると、長老の子供がワドナンさんの亡くなった伴侶ってことなんだろうか? ……よく分からない。でも何だか聞ける雰囲気ではなかったので、疑問は残ったままになっている。
他の革新派の人たちはまだあちこちに散らばっていて、三人以外は戻ってきていないそうだ。結果、僕はあぶれた形になった。
ユグの存在は隠さないといけなくても、石盤については隠す必要は特にない。
どこにあるか不明と言われていた石盤をすでに三つ見つけていることを報告すると、ファトマさんに「素晴らしいな。では我々の手が空くまでの間、他の目撃情報がないか改めて仲間に確認しよう。同伴はしばし待ってくれ」と言われた。
実は四つ目の場所もユグが知っている、と言えないところが心苦しい。ついでに案内もあんまり、というか正直いらないことも言えないのが辛い。だってそうしたら、その日はユグと会えなくなってしまうから。
ユグに一日会えなかっただけで、胸のあたりがずっとモヤモヤして仕方なかった。研究日誌を見ていても、気付くとユグのことを考えている。
今、何をしているんだろう。ユグの隣にはラータがいるけど、僕に会いたくて泣いてないかな。ちゃんとご飯は食べてるのかな。
気になり始めたらもう止まらなくて、結局は日誌を閉じて目も閉じる。ユグの笑顔やたどたどしいけど一生懸命さが伝わる喋り方を思い出しては、切なさに唇を噛み締めた。
自分で思っている以上に、僕はユグに参っているのかもしれない。もしかして、ユグも同じ気持ちで今日を過ごしているのかな。
そう思ったら、今すぐにも飛んでいって抱き締めてあげたくなった。
明日は雨が止んでくれますように、と祈りながら床につく。
僕の祈りを世界樹が聞いてくれたのか、夜の内に雨足は弱まり、朝には朝日が輝いていた。幸先がいいように思えて、ひとりニンマリと笑う。
ちなみに今日もユグの家に泊まることになっていた。ヨルトとドルグの過保護組は不服そうな顔をしながらも、ファトマさんやローニャさんの手前からか、前ほどの反対をすることはなかった。
彼らに守り人がついたお陰で、不必要に触れられることもなくさっさと出発することができた。物凄い助かる。是非そのまま二人の抑止力になってほしいと切に願う。
だけど、他の人がいたら触らないってどういうことなんだ。あの人たち、もしかしてベタベタするのがちょっとおかしいと分かってて、必要以上に触ってきてたってこと? 一体どういうつもりなんだ。
「いってきまーす!」
後方の憂いなく、意気揚々と祭壇の間へと向かう。僕の足取りは軽い。
祭壇の上ではラータが待ち構えていて、「キッキッ!」と怒ったような仕草を見せた。そろそろ僕にもラータの言いたいことが分かるようになってきたかもしれない。
「昨日は会えなくてごめんね、ラータ。それにしても昨日の雨はすごかったねえ」
「キキーッ!」
「……ユグ、落ち込んでた?」
「キッ」
……やっぱり。罪悪感で一杯になってしまった。
早く来い、とでも言わんばかりに勢いよく緑の壁に突っ込んでいくラータを追う。僕も急いで湿った緑の壁に身体を滑り込ませた。
ユグに会いたい。僕はユグのものなんだと、ユグを置いていくことは絶対にしないんだと全身で伝えてあげたくなった。
緑の壁から手が出た直後、いつぞやのように手首をぐいっと引っ張られ、一瞬でユグの温かい腕の中に閉じ込められる。
「アーウィン……ッ!」
泣き声に近い、苦しそうな声。顔をぐりぐりと僕の首に押し付けてきた。
「よかった……、来てくれた」
僕の瞼がじんわりと温かくなる。ユグの背中に腕を回し、できるだけ力を込めて抱き締めた。
「ごめん、ユグ。昨日は雨が凄かったから……」
「うん、知ってる。でも、会いたかった」
「ユグ……!」
あまりにも素直な言葉に、ユグは落ち込んでいるというのに嬉しくて仕方なくなる。
ユグともっと触れ合いたくなった。
「ねえユグ、おはようのキスしようか?」
「うん……」
泣いているのか、ユグはなかなか顔を上げてくれない。
「僕からキスするよ。昨日会えなかったお詫び」
「!」
途端にパッと顔を上げたユグを見て、つい笑みが漏れた。僕が笑えばユグも笑う。ちょっとバツが悪そうに笑うユグ。僕の恋人はどうしてこんなに可愛いんだろう。
早く世界樹が枯れる謎を解き明かして、ユグを連れて帰りたい。隠れて生活せざるを得ないユグの日常を、憂いのないものに変えてあげたかった。
「ユグ、おはよう」
ふに、と唇を軽く押し当てる。ユグは嬉しそうに笑った後、口を開けて顔を斜めにした。ユグの口の中に舌を差し込み、ねだるようにうねるユグの舌に絡ませる。
はじめは確かめ合うような動きだったけど、次第にユグからの深さが増してきて。
「ふ……っ」
とろんとなってしまってユグに身体を預けると、まばゆい朝日を浴びて輝く黄金色の瞳をにこやかに緩ませたユグが、言った。
「おはよう、オレのアーウィン」
「ユ、ユグのアーウィンです……!」
「うん」
二日ぶりに会ったユグの愛は、今日も蕩けるほどに重かった。
◇
「――ということで、ユグのお家の奥にある人工物を確認しようと思うんだ」
「ジンコーブツ?」
「人の手によって作られた物ってことだよ」
「ふうん?」
ユグの話では、ユグは基本的に出入り口の近くで生活しているらしい。理由は、日光が入る範囲だから。なるほど、現実的だ。
火を焚くのだって、毎回枯れ枝が必要になる。特に冷え込む日や、火を使って調理をする時以外は、無駄遣いはしないようにしていたんだそうだ。
ということで、住居になっている虚の奥まった方に空洞があるのは知っていたけど、明かりもないし何かが出入りしている様子もない。しかも天井が低くてユグが通るにはかなり大変そうだ。なので、特にわざわざ奥に行く必要もないな、とあえて探索していなかったらしい。
ユグが身振りを添えて説明を続ける。
「あっちは空気が止まってる。行き止まりなのは分かってたから」
あれ? と気付いた。
「あれ、ユグ、言葉が大分スラスラと出てくるようになった?」
ユグは切れ長の瞳を細めると、ちょっぴり誇らしげな様子で答える。
「うん、大分思い出してきた。あと、沢山練習してるから」
「ユグ……偉いよ!」
「あは」
なんて勤勉家なんだろう。このやる気があれば、もしかしたら古代語だってその内習得してしまうかもしれない。そうしたら、師匠は喜ぶだろうなあ。如何せん、僕も兄さんもいまいち体力には自信がないから。
ユグだったら腰が痛い師匠だって軽々抱えて調査に連れて行ってくれそうだ。
師匠を背負うユグに、両脇を固めて調査に向かう僕と兄さん。うわ、滅茶苦茶楽しそう。
「アーウィン? どうした?」
「はっ」
どうやら明後日の方向を見てニヤニヤしていたらしい。ユグの頭の上のラータが「はっ」と馬鹿にしたように鼻で笑った。……うん、ぶれないよね、ラータ。
「よ、よーし! 気を取り直して、調査開始するよ!」
「うん!」
「キッ!」
ユグは僕を軽々と横抱きにすると、チュッと触れるだけのキスを口に落としてから、「行く!」と駆け出したのだった。
ーーーー
ストックが減ってきた為、しばらく朝の一回投稿にしていきます。
ファトマさんの隣に座っていた男性の名前は、ローニャさん。ドルグのマナ調査には、ローニャさんが案内をすることに決まった。ローニャさんの子供のシュバクくんは後学の為、ローニャさんに同伴する。
シュバクくんは、なんと長老のひ孫なんだそうだ。シュバクくんが会いに行くと、とても喜んで「寿命が伸びた」と言っていたらしい。
あれ? ワドナンさんは長老の息子じゃなかったよね? とすると、長老の子供がワドナンさんの亡くなった伴侶ってことなんだろうか? ……よく分からない。でも何だか聞ける雰囲気ではなかったので、疑問は残ったままになっている。
他の革新派の人たちはまだあちこちに散らばっていて、三人以外は戻ってきていないそうだ。結果、僕はあぶれた形になった。
ユグの存在は隠さないといけなくても、石盤については隠す必要は特にない。
どこにあるか不明と言われていた石盤をすでに三つ見つけていることを報告すると、ファトマさんに「素晴らしいな。では我々の手が空くまでの間、他の目撃情報がないか改めて仲間に確認しよう。同伴はしばし待ってくれ」と言われた。
実は四つ目の場所もユグが知っている、と言えないところが心苦しい。ついでに案内もあんまり、というか正直いらないことも言えないのが辛い。だってそうしたら、その日はユグと会えなくなってしまうから。
ユグに一日会えなかっただけで、胸のあたりがずっとモヤモヤして仕方なかった。研究日誌を見ていても、気付くとユグのことを考えている。
今、何をしているんだろう。ユグの隣にはラータがいるけど、僕に会いたくて泣いてないかな。ちゃんとご飯は食べてるのかな。
気になり始めたらもう止まらなくて、結局は日誌を閉じて目も閉じる。ユグの笑顔やたどたどしいけど一生懸命さが伝わる喋り方を思い出しては、切なさに唇を噛み締めた。
自分で思っている以上に、僕はユグに参っているのかもしれない。もしかして、ユグも同じ気持ちで今日を過ごしているのかな。
そう思ったら、今すぐにも飛んでいって抱き締めてあげたくなった。
明日は雨が止んでくれますように、と祈りながら床につく。
僕の祈りを世界樹が聞いてくれたのか、夜の内に雨足は弱まり、朝には朝日が輝いていた。幸先がいいように思えて、ひとりニンマリと笑う。
ちなみに今日もユグの家に泊まることになっていた。ヨルトとドルグの過保護組は不服そうな顔をしながらも、ファトマさんやローニャさんの手前からか、前ほどの反対をすることはなかった。
彼らに守り人がついたお陰で、不必要に触れられることもなくさっさと出発することができた。物凄い助かる。是非そのまま二人の抑止力になってほしいと切に願う。
だけど、他の人がいたら触らないってどういうことなんだ。あの人たち、もしかしてベタベタするのがちょっとおかしいと分かってて、必要以上に触ってきてたってこと? 一体どういうつもりなんだ。
「いってきまーす!」
後方の憂いなく、意気揚々と祭壇の間へと向かう。僕の足取りは軽い。
祭壇の上ではラータが待ち構えていて、「キッキッ!」と怒ったような仕草を見せた。そろそろ僕にもラータの言いたいことが分かるようになってきたかもしれない。
「昨日は会えなくてごめんね、ラータ。それにしても昨日の雨はすごかったねえ」
「キキーッ!」
「……ユグ、落ち込んでた?」
「キッ」
……やっぱり。罪悪感で一杯になってしまった。
早く来い、とでも言わんばかりに勢いよく緑の壁に突っ込んでいくラータを追う。僕も急いで湿った緑の壁に身体を滑り込ませた。
ユグに会いたい。僕はユグのものなんだと、ユグを置いていくことは絶対にしないんだと全身で伝えてあげたくなった。
緑の壁から手が出た直後、いつぞやのように手首をぐいっと引っ張られ、一瞬でユグの温かい腕の中に閉じ込められる。
「アーウィン……ッ!」
泣き声に近い、苦しそうな声。顔をぐりぐりと僕の首に押し付けてきた。
「よかった……、来てくれた」
僕の瞼がじんわりと温かくなる。ユグの背中に腕を回し、できるだけ力を込めて抱き締めた。
「ごめん、ユグ。昨日は雨が凄かったから……」
「うん、知ってる。でも、会いたかった」
「ユグ……!」
あまりにも素直な言葉に、ユグは落ち込んでいるというのに嬉しくて仕方なくなる。
ユグともっと触れ合いたくなった。
「ねえユグ、おはようのキスしようか?」
「うん……」
泣いているのか、ユグはなかなか顔を上げてくれない。
「僕からキスするよ。昨日会えなかったお詫び」
「!」
途端にパッと顔を上げたユグを見て、つい笑みが漏れた。僕が笑えばユグも笑う。ちょっとバツが悪そうに笑うユグ。僕の恋人はどうしてこんなに可愛いんだろう。
早く世界樹が枯れる謎を解き明かして、ユグを連れて帰りたい。隠れて生活せざるを得ないユグの日常を、憂いのないものに変えてあげたかった。
「ユグ、おはよう」
ふに、と唇を軽く押し当てる。ユグは嬉しそうに笑った後、口を開けて顔を斜めにした。ユグの口の中に舌を差し込み、ねだるようにうねるユグの舌に絡ませる。
はじめは確かめ合うような動きだったけど、次第にユグからの深さが増してきて。
「ふ……っ」
とろんとなってしまってユグに身体を預けると、まばゆい朝日を浴びて輝く黄金色の瞳をにこやかに緩ませたユグが、言った。
「おはよう、オレのアーウィン」
「ユ、ユグのアーウィンです……!」
「うん」
二日ぶりに会ったユグの愛は、今日も蕩けるほどに重かった。
◇
「――ということで、ユグのお家の奥にある人工物を確認しようと思うんだ」
「ジンコーブツ?」
「人の手によって作られた物ってことだよ」
「ふうん?」
ユグの話では、ユグは基本的に出入り口の近くで生活しているらしい。理由は、日光が入る範囲だから。なるほど、現実的だ。
火を焚くのだって、毎回枯れ枝が必要になる。特に冷え込む日や、火を使って調理をする時以外は、無駄遣いはしないようにしていたんだそうだ。
ということで、住居になっている虚の奥まった方に空洞があるのは知っていたけど、明かりもないし何かが出入りしている様子もない。しかも天井が低くてユグが通るにはかなり大変そうだ。なので、特にわざわざ奥に行く必要もないな、とあえて探索していなかったらしい。
ユグが身振りを添えて説明を続ける。
「あっちは空気が止まってる。行き止まりなのは分かってたから」
あれ? と気付いた。
「あれ、ユグ、言葉が大分スラスラと出てくるようになった?」
ユグは切れ長の瞳を細めると、ちょっぴり誇らしげな様子で答える。
「うん、大分思い出してきた。あと、沢山練習してるから」
「ユグ……偉いよ!」
「あは」
なんて勤勉家なんだろう。このやる気があれば、もしかしたら古代語だってその内習得してしまうかもしれない。そうしたら、師匠は喜ぶだろうなあ。如何せん、僕も兄さんもいまいち体力には自信がないから。
ユグだったら腰が痛い師匠だって軽々抱えて調査に連れて行ってくれそうだ。
師匠を背負うユグに、両脇を固めて調査に向かう僕と兄さん。うわ、滅茶苦茶楽しそう。
「アーウィン? どうした?」
「はっ」
どうやら明後日の方向を見てニヤニヤしていたらしい。ユグの頭の上のラータが「はっ」と馬鹿にしたように鼻で笑った。……うん、ぶれないよね、ラータ。
「よ、よーし! 気を取り直して、調査開始するよ!」
「うん!」
「キッ!」
ユグは僕を軽々と横抱きにすると、チュッと触れるだけのキスを口に落としてから、「行く!」と駆け出したのだった。
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