世界樹の贄の愛が重すぎる

緑虫

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24 真っ直ぐな瞳

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 手淫と同時の告白のすぐ後は、かなり照れくさくて仕方なかった。

 でもユグがあまりにも嬉しそうに微笑むので、恥ずかしがって目を逸らす自分が段々馬鹿みたいに思えてきた。それと、目が合わないとユグが寂しそうな顔になるのも、もうひとつの理由にある。

 勇気を振り絞ってユグをじっと見つめると、ユグは太陽のような笑顔を見せてくれた。……ああ可愛い。堪らない。

 ユグの胡座の上に乗せられて、身体を寄せ合う。まだ手は洗えてなくて右手の中にはユグが出したものがあるままだけど、すぐには離れたくなくて、ユグの肩にこめかみを乗せた。

「アーウィン、大好き」

 顔中に降らすユグのキスが幸せの象徴に思えて、自然に笑みが溢れる。

「えへ、僕もユグが大好きだよ」

 一度吹っ切れてしまえば、あんなにグジグジと悩んでいたのが不思議だった。ユグのことは最初から可愛くて仕方なかったのに、何故これをただの庇護欲だと思っていたんだろう。キスまであんなにしていて保護者気分だったなんて、我ながらチグハグすぎて笑える。

 ユグは女の子じゃない。でも可愛くて仕方がなかった。これが愛じゃなくてなんだと言うんだろう。

 告白の後、冷静に戻ってから考えてみたんだ。

 例えばあれがヨルトやドルグだったら? と。

 彼らは同じ志を持つ頼りになる仲間ではあるけど、出会い頭にベタベタと触れられた時には不快感を覚えた。二人とも大人だし頭もいい分、何を考えているか読めない。何か裏があるんじゃないかと思えるほどの甘さ具合には、辟易した。彼らの度重なる過保護な扱いや密着を、一度だって嬉しいと思ったことはなかった。

 つまりこれは、ユグのお兄さんが言ったという「好きな人以外に触れられたくない」ということになるんじゃないか。そのことに気付いた後は、もう答えは出たようなものだった。

 だって、ユグは最初から違った。ひと目見た時から、僕は彼の瞳に惹きつけられていた。他の守り人と同じ黄金色の瞳なのに、ユグのだけは近くで観察させてもらいたいと思った。すごく綺麗だったから。

 ユグからは温かな好意しか感じられなかった。長いこと人と関わってこなかったユグには、裏なんてない。ユグは全てが真っ直ぐだったから、すんなりと信じられたのだと今なら思う。

 ユグの美しい輝かんばかりの生命力に魅せられて、素直で美しい心に惹きつけられた。だから触れられてもくすぐったいだけで嫌とは一度も思わなかったんだ。
 
「……ユグのことは、僕が絶対何とかするから。だから諦めちゃ駄目だよ」

 師匠の所は、いつだって人手不足だ。古代語こそ分からなくても、ユグにできることは山のようにある。床で寝てしまう兄さんを部屋まで運ぶのだって、きっとユグなら簡単だろう。

 最初こそ師匠と兄さんは驚くかもしれない。だけど彼らは研究者だけあって曇りなき眼を持っていると僕は思っていたし、それになんて言ったってユグは興味深い守り人一族出身だ。研究熱心な師匠たちならきっとすぐに受け入れてくれるだろう、という確信があった。

 あ、ユグのいる研究生活を想像したら楽しみになってきた。

 僕はあまり世間を知りはしないけど、少なくとも周りに同性婚をしている知り合いはいない。もしかしたら、僕らの関係を揶揄する人が現れるかもしれない。でも、僕に関わりのない人の価値観なんて知ったこっちゃなかった。

 僕にとってユグが大切だという事実があれば、きっと毎日笑い合える明るい未来が待っている筈だから。

「……うん」

 ユグは小さく答えただけだった。



 手で受け止めたユグの熱を水で洗い流した後。

 僕らは再び埋もれた石盤の元へ戻ると、発掘作業を再開することにした。

 僕が斧などで切り込みを入れたところに、ユグが逞しい手でブチブチと根を引き剥がしていく。最初は二人とも同じ作業をしていたけど、腕力と体力の差から、分担した方が遥かに効率がいいことに途中で気付いたんだ。

 ある程度根っこが溜まっていくと、ユグが立ち上がって邪魔にならない所に片付けてくれる。戻ってきた時にはこれが決まりであるように僕の唇を軽く食んでから、また作業に戻るの繰り返しだ。

 段々と空が暗くなってきて手元が見えづらくなった頃、ようやく石盤の表面が全部出た。

「いやーできたねユグ!」
「うん。文字読めそう?」
「ちょっと待ってね」

 光石を作動させてみる。石盤は剥き出しにはされたけど、掘られた古代語の隙間に土が入り込んでしまっていた。近くに落ちていた枝でガリガリと掘ってみたけど、固まっていてびくともしない。

「うーん、水で泥を流した方が早そうだなあ」

 そうなると、桶か水袋が必要になる。持参した飲水用の水袋を振ってみた。殆ど残ってない。

「明日村で道具を借りてきた方が効率がよさそう……」
「今日はおしまい、に、する?」
「そうだねえ……うわっ」

 ユグを振り返ると、光石に照らされたユグは土まみれになっていた。もしかしてと思って自分を見ると、似たような状態だ。

 笑顔をユグに向ける。

「あは、僕たち砂まみれだよ!」

 ユグも笑った。鼻の頭が真っ黒になっていて可愛い。

「水浴び、する?」
「うん、そうしようか!」

 今日は頑張ったから後は明日にして、今夜はユグとゆっくり過ごすのも悪くないと思えた。それに今日は、僕たちの想いが通じ合った記念すべき日だ。ゆっくりと語り合ってもっとユグのことを知りたかった。

「ユグ、じゃあお願いします!」
「うん!」

 ユグの元に駆け寄ると、ユグはすぐに僕を横抱きにしてくれる。ユグの首にしがみつくと、ラータが「置いていくな」とばかりに急いでユグの身体を駆け上ってきて、定位置の頭の上にペタンと身体を伏せた。

「キッ!」
「あはは、ラータも準備いいって!」
「ん、行く!」

 ユグが勢いよく駆け出す。

 闇が迫りくる森の中、僕とラータを乗せたユグは闇など恐れない速さで走り抜けて行った。
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