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22 笑顔の為に
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重なった唇の隙間から、ユグの舌が入り込んでくる。
ユグは寝そべった僕に体重を掛けない為か、僕の横に肘をついて身体を浮かせていた。
「アーウィン……ッ」
「ユ、ユグ……、あ、」
喋ろうとすると、ユグの口が追いかけてきて僕の言葉を奪っていく。
ユグの言葉に、僕は只々驚いていた。
ユグは、名前を与えてくれた僕のもの。
確かにユグは、そう言った。その後に、「大好き」だとも。
え、ユグは僕のものなの? その上で、ユグは僕のことが大好きだと認識しているらしい。そこに更に、毎日の濃厚なキス。
ここまで示されて、間抜けにも僕はようやく思い至った。もしかして、ユグの僕に対する好意は保護者や友人に対するようなものじゃなくて、もっと男女のそれに近いものなんじゃないかって。
とすると。こうやってユグのキスを受け入れているのって、ユグの愛を受け止めているってことになる!? と気付く。
と、とにかくユグと話をしないと!
慌ててユグを押し返そうとした。すると、ユグの手が僕の手に重なり、指と指が絡み合う。大切な宝物だと言わんばかりの柔らかい掴み方に、涙が出そうになった。
「ユグ、ま……っ、んんっ」
「好き、アーウィン大好き」
「んんーっ」
拙い、非常に拙いと思う。それでもユグは可愛いしキスは全然嫌じゃなくて、むしろもっとしていたい。これってどういう気持ちなんだろう? 自分が全く分からない。でも、何の覚悟もなしに気軽にユグの好意を受けるだけじゃ絶対駄目なことだけは、分かった。
それに。
もし今僕がユグを考えなしに拒絶してしまったら、ユグの考えがまた『贄』の任務を完遂する方向に揺れ動くんじゃないか。僕に好かれたいが為に。
――想像した瞬間、ゾッとした。
ユグが死ぬ? 僕の為に? ……嫌だ、絶対許せない。
僕にとって、ユグはもう赤の他人じゃない。可愛くて守ってあげたい大切な人だ。大切な人が僕の寵愛を得たい一心で命を投げ打つなんてこと、絶対あってはならないことだから。
「んう……っ」
ちゃんとユグの目を見て話がしたい。その上で、僕もちゃんと考えないといけないんだ。どうして僕は他の人に近寄られると嫌なのに、ユグとキスをしていても平気なのか、どうしてユグの笑顔をこんなにも愛しいと思えてしまうのか。
まさか、これが恋というもの――?
一瞬考えた。だけど、僕には恋愛が何かが分からない。だから答えは出なかった。僕に幼い頃の記憶は一切なく、以降は研究に明け暮れる日々が続いたから、誰かに恋焦がれた経験なんてなかった。次の日に会える人のことを考えて嬉しくなることも、なかった。
笑顔を見ると嬉しい相手であるユグと、抱き締め合ってキスをして。触れ合う度に心臓がドキドキすることは、一体どこに繋がっているんだろうか。
これまで僕は、いつか女の人と結婚をして、子供を作って家族になるんだろうって漠然と考えていた。誰かをこんなに可愛いと思ったことはこれまでなかったし、放っておけなくて構ってしまうことも、会いたいと言われて飛びつかれるのが嬉しいなんて思うことも一度だってなかった。
どうやって確かめたらいいんだろう。何もかもが未知すぎて、方法が分からない。
こんなこと、過保護全開のヨルトやドルグにだって聞けやしない。聞いた瞬間、根掘り葉掘り聞きたがって、白状するまで拘束されることは目に見えていた。
どうしよう。本当にどうすればいい――?
混乱しつつも、離れ難くてユグの濃厚なキスを受け続けていると。
「……ん?」
僕の腰骨辺りに、何か固いものが当たっていることに気付いた。ん? んん? と思って、目線を下に向けて隙間から覗き込むと。
「――うぇッ!?」
「? アーウィン?」
ユグは顔を離すと、不思議そうに僕を見た。
「ユ、ユ、ユグ……?」
「うん?」
なんてこった。ユグが四つん這いになって少し前かがみになっているせいで、腰布の隙間からとんでもないものが覗いているじゃないか。
腰布を上に上げてこんにちはしているもの。
それは、しっかりと勃ち上がったユグの陰茎だった。うわあ、黒い……。
「た、勃ってる、ね?」
「あ、痛い、と、思ってた」
ユグは事もなげに前の腰布を捲くり上げ、大事な部分を空気に晒した。ええ!? 見せちゃうの!?
「ユグ!?」
「ここ、たまに痛くなる」
「そ、そんなになってりゃあ、そりゃあね……っ」
ユグの陰茎は、天高く勃ち上がっていた。僕のよりもひと回り、いや下手したらふた回りほど立派なそれの先端からは透明な液体が盛り上がり、ぷっくりとした水の玉を作っている。
そして、決壊してぽたりと地面に落ちた。
ユグが困ったような笑みを浮かべると、「ちょっと待ってて」と言う。
「え、あの、ユグ?」
「いつもこうしてる、出ると収まる」
唖然と眺めている間に、ユグはその場にうつ伏せになった。下は草が生えているとはいえ、固い。前掛けになっている腰布だって、結構ゴワゴワだ。
な、なのに――。
「……ふ、ふ、」
僕の目の前で、ユグがうつ伏せのまま身体を上下に動かし、よりによって陰茎を地面に擦りつけ始めたじゃないか!
僕は叫んだ。叫ばざるを得なかった。
「何やってんのユグうううぅっ!」
慌ててユグの肩を掴む。ユグは少し火照った眼差しで、にこりと笑った。
「うん? いつもこうしてる、大丈夫」
「大丈夫じゃないからああっ! 痛い、絶対痛い! やめてくれえっ!」
柔らかい布団ならいざ知らず、固い地面にゴワゴワな服だ。傷が付く! 嘘、自慰の仕方知らないのか!? あっ、『守り人の村』を出たのは八歳の時じゃないか! 知ってる筈がなーい!
僕は慌てに慌てた。万が一傷がついてバイキンでも入ったら、化膿して最悪もげ落ちるなんてことだって考えられるんだぞ!
「ユグ! 駄目、それ絶対駄目! 危ないから!」
ユグの動きが止まる。僕を見上げる顔は、不服そうだ。上気した目元の色気が半端ない。
「でも」
「切れたら大変だからね!? もっと安全な方法あるから!」
下唇を突き出したユグが、のろのろと起き上がると僕の隣にどかりと座った。前掛けの下の中心部は、盛り上がったままだ。
「分からない」
ですよねー! と心の中で大きな声を出した。
不貞腐れ顔のユグが、ボソボソと続ける。
「挿れていいの、伴侶、に、だけ」
「ぶはっ!」
この子は突然何を言い出したのか。
「ユ、ユグ、そこの使い方は知ってるんだね?」
こくりと頷くユグ。
「子供作る時使う、違う?」
至って真面目な表情だけに、どう反応していいか分からなくなった。身体がカアーッと暑くなる。
「いや、合ってます……」
ユグは痛そうに時折ビクッとしていた。多分痛いんだろうなあ、と推測する。
「……アーウィン、どうしたらいい? オレ、分からない」
ユグの切れ長の瞳が、じわりと潤んだ。あああああっ!
縋るようなユグの目。
僕の喉が、ごくりと音を立てる。
……今ここでちゃんと教えてあげないと、いつ化膿して大変なことになるか分からないのは確かだ。ユグの健康の為、ひいてはユグの笑顔の為だから。
僕は覚悟を決めた。
キッと顔を上げてユグを見る。
「ぼっ、僕に任せなさい!」
「アーウィン!」
……ああ、言っちゃった。
もう後戻りできないところに来てしまったことを悟った僕だった。
ユグは寝そべった僕に体重を掛けない為か、僕の横に肘をついて身体を浮かせていた。
「アーウィン……ッ」
「ユ、ユグ……、あ、」
喋ろうとすると、ユグの口が追いかけてきて僕の言葉を奪っていく。
ユグの言葉に、僕は只々驚いていた。
ユグは、名前を与えてくれた僕のもの。
確かにユグは、そう言った。その後に、「大好き」だとも。
え、ユグは僕のものなの? その上で、ユグは僕のことが大好きだと認識しているらしい。そこに更に、毎日の濃厚なキス。
ここまで示されて、間抜けにも僕はようやく思い至った。もしかして、ユグの僕に対する好意は保護者や友人に対するようなものじゃなくて、もっと男女のそれに近いものなんじゃないかって。
とすると。こうやってユグのキスを受け入れているのって、ユグの愛を受け止めているってことになる!? と気付く。
と、とにかくユグと話をしないと!
慌ててユグを押し返そうとした。すると、ユグの手が僕の手に重なり、指と指が絡み合う。大切な宝物だと言わんばかりの柔らかい掴み方に、涙が出そうになった。
「ユグ、ま……っ、んんっ」
「好き、アーウィン大好き」
「んんーっ」
拙い、非常に拙いと思う。それでもユグは可愛いしキスは全然嫌じゃなくて、むしろもっとしていたい。これってどういう気持ちなんだろう? 自分が全く分からない。でも、何の覚悟もなしに気軽にユグの好意を受けるだけじゃ絶対駄目なことだけは、分かった。
それに。
もし今僕がユグを考えなしに拒絶してしまったら、ユグの考えがまた『贄』の任務を完遂する方向に揺れ動くんじゃないか。僕に好かれたいが為に。
――想像した瞬間、ゾッとした。
ユグが死ぬ? 僕の為に? ……嫌だ、絶対許せない。
僕にとって、ユグはもう赤の他人じゃない。可愛くて守ってあげたい大切な人だ。大切な人が僕の寵愛を得たい一心で命を投げ打つなんてこと、絶対あってはならないことだから。
「んう……っ」
ちゃんとユグの目を見て話がしたい。その上で、僕もちゃんと考えないといけないんだ。どうして僕は他の人に近寄られると嫌なのに、ユグとキスをしていても平気なのか、どうしてユグの笑顔をこんなにも愛しいと思えてしまうのか。
まさか、これが恋というもの――?
一瞬考えた。だけど、僕には恋愛が何かが分からない。だから答えは出なかった。僕に幼い頃の記憶は一切なく、以降は研究に明け暮れる日々が続いたから、誰かに恋焦がれた経験なんてなかった。次の日に会える人のことを考えて嬉しくなることも、なかった。
笑顔を見ると嬉しい相手であるユグと、抱き締め合ってキスをして。触れ合う度に心臓がドキドキすることは、一体どこに繋がっているんだろうか。
これまで僕は、いつか女の人と結婚をして、子供を作って家族になるんだろうって漠然と考えていた。誰かをこんなに可愛いと思ったことはこれまでなかったし、放っておけなくて構ってしまうことも、会いたいと言われて飛びつかれるのが嬉しいなんて思うことも一度だってなかった。
どうやって確かめたらいいんだろう。何もかもが未知すぎて、方法が分からない。
こんなこと、過保護全開のヨルトやドルグにだって聞けやしない。聞いた瞬間、根掘り葉掘り聞きたがって、白状するまで拘束されることは目に見えていた。
どうしよう。本当にどうすればいい――?
混乱しつつも、離れ難くてユグの濃厚なキスを受け続けていると。
「……ん?」
僕の腰骨辺りに、何か固いものが当たっていることに気付いた。ん? んん? と思って、目線を下に向けて隙間から覗き込むと。
「――うぇッ!?」
「? アーウィン?」
ユグは顔を離すと、不思議そうに僕を見た。
「ユ、ユ、ユグ……?」
「うん?」
なんてこった。ユグが四つん這いになって少し前かがみになっているせいで、腰布の隙間からとんでもないものが覗いているじゃないか。
腰布を上に上げてこんにちはしているもの。
それは、しっかりと勃ち上がったユグの陰茎だった。うわあ、黒い……。
「た、勃ってる、ね?」
「あ、痛い、と、思ってた」
ユグは事もなげに前の腰布を捲くり上げ、大事な部分を空気に晒した。ええ!? 見せちゃうの!?
「ユグ!?」
「ここ、たまに痛くなる」
「そ、そんなになってりゃあ、そりゃあね……っ」
ユグの陰茎は、天高く勃ち上がっていた。僕のよりもひと回り、いや下手したらふた回りほど立派なそれの先端からは透明な液体が盛り上がり、ぷっくりとした水の玉を作っている。
そして、決壊してぽたりと地面に落ちた。
ユグが困ったような笑みを浮かべると、「ちょっと待ってて」と言う。
「え、あの、ユグ?」
「いつもこうしてる、出ると収まる」
唖然と眺めている間に、ユグはその場にうつ伏せになった。下は草が生えているとはいえ、固い。前掛けになっている腰布だって、結構ゴワゴワだ。
な、なのに――。
「……ふ、ふ、」
僕の目の前で、ユグがうつ伏せのまま身体を上下に動かし、よりによって陰茎を地面に擦りつけ始めたじゃないか!
僕は叫んだ。叫ばざるを得なかった。
「何やってんのユグうううぅっ!」
慌ててユグの肩を掴む。ユグは少し火照った眼差しで、にこりと笑った。
「うん? いつもこうしてる、大丈夫」
「大丈夫じゃないからああっ! 痛い、絶対痛い! やめてくれえっ!」
柔らかい布団ならいざ知らず、固い地面にゴワゴワな服だ。傷が付く! 嘘、自慰の仕方知らないのか!? あっ、『守り人の村』を出たのは八歳の時じゃないか! 知ってる筈がなーい!
僕は慌てに慌てた。万が一傷がついてバイキンでも入ったら、化膿して最悪もげ落ちるなんてことだって考えられるんだぞ!
「ユグ! 駄目、それ絶対駄目! 危ないから!」
ユグの動きが止まる。僕を見上げる顔は、不服そうだ。上気した目元の色気が半端ない。
「でも」
「切れたら大変だからね!? もっと安全な方法あるから!」
下唇を突き出したユグが、のろのろと起き上がると僕の隣にどかりと座った。前掛けの下の中心部は、盛り上がったままだ。
「分からない」
ですよねー! と心の中で大きな声を出した。
不貞腐れ顔のユグが、ボソボソと続ける。
「挿れていいの、伴侶、に、だけ」
「ぶはっ!」
この子は突然何を言い出したのか。
「ユ、ユグ、そこの使い方は知ってるんだね?」
こくりと頷くユグ。
「子供作る時使う、違う?」
至って真面目な表情だけに、どう反応していいか分からなくなった。身体がカアーッと暑くなる。
「いや、合ってます……」
ユグは痛そうに時折ビクッとしていた。多分痛いんだろうなあ、と推測する。
「……アーウィン、どうしたらいい? オレ、分からない」
ユグの切れ長の瞳が、じわりと潤んだ。あああああっ!
縋るようなユグの目。
僕の喉が、ごくりと音を立てる。
……今ここでちゃんと教えてあげないと、いつ化膿して大変なことになるか分からないのは確かだ。ユグの健康の為、ひいてはユグの笑顔の為だから。
僕は覚悟を決めた。
キッと顔を上げてユグを見る。
「ぼっ、僕に任せなさい!」
「アーウィン!」
……ああ、言っちゃった。
もう後戻りできないところに来てしまったことを悟った僕だった。
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