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16 気付かせるのに
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ユグの首にしがみついて泣きじゃくりながらも、どこか俯瞰した感覚でこれから為すべきことを頭の中で整理を始めていた。
まず最初にすべきことははっきりしている。兎にも角にも、『贄』文化の証拠となる物を探し出すことだ。
今手元にあるのは、ユグの証言だけ。守り人一族が『贄』など知らない、と突っぱねたら、話は終わってしまう。だから、何かしらの物的証拠が必要だった。
もし仮に、僕の推測通り『贄』文化が昔から続けられていたものだとしたら。どこかの石盤に、古代語で記録が残されている可能性は十分にある。まずはそれを見つけ出すのが先決だった。
次に、それらの証拠を元にヨルトとドルグの協力を仰ぐこと。彼らは僕なんかよりも博識だし、僕よりも大人だ。僕の目からは見えないことも、彼らの目には見えることだってあるかもしれない。
ユグの存在を話すかどうかは彼らの反応を見てからになるけど、僕の味方をしてくれる可能性はこれまでの僕に対する態度からみても高いんじゃないかと思っている。
でも、念には念をだ。万が一にもユグを危険な目に遭わせない為には、絶対大丈夫だと確信できるまで、ユグの存在を匂わせてちゃいけないだろう。
そして、一番大事なところ。世界樹が枯れゆく原因を究明して、『贄』との関係性を明確にすることだ。ユグには世界樹の声を聞くことと『贄』に直接的な因果関係はないと思うと伝えたけど、慣習となっているにはそれなりの根拠がある筈。
守り人の「世界樹が枯れる原因を探ってほしい」という依頼の完遂と、『贄』にされたユグをしがらみから自由にしてあげたいという僕の願い。この二つを同時に解決するのが目標だ。
ユグの命を捧げることで世界樹の声が聞こえるようになるんだと、ユグは確かに言った。『贄』になる子供のユグが聞かされていたということは、守り人一族にとってはそれが当然の共通認識なのかもしれない。
守り人がもう少し協力的だったなら詳しい話も聞けそうなものだけど、如何せん革新派の人たちが軒並み外界へ出てしまっているので、守り人の話し相手がおじさん守り人しかいない。あの人から話を聞き出すの、大変そうなんだよなあ。
「……ウィン、アーウィン」
やっぱりここは落ち着いたヨルトと弁の立つドルグに早めの協力を――。
目の前が突然陰り、くちゅ、と唇が柔らかいものに食まれた。
「んっ!?」
思考に入り込んで自然と下がっていた目線を、正面に向ける。
黄金色の瞳が、至近距離で真っ直ぐに覗き込んでいた。……キスと共に。
えっ!? どうして!?
「ユグ――……ッ」
口を開けた瞬間、ぬるりと温かい舌が口腔内に侵入してくる。甘えるようなゆったりとした動きに、次第にとろんと力が抜けていってしまった。昨日まで知らなかったけど、キスってこんなに気持ちいいんだな。どうしよう、ハマっちゃいそうだ。
「ん……っ」
僕の腕はユグの首に巻き付いたままで、ユグは僕の腰を抱いているまま。隙間なんてどこにもないから逃げられないし、と自分によく分からない言い訳をして、気持ちよさに身を任せた。
くちゅくちゅ、と暫くユグに翻弄された後。
「はあ……っ、はあ……っ」
甘いキスからようやく解放された僕は、やっぱり身体の力が抜けてしまい、くたりとユグの肩に体重を預けていた。
「アーウィン、返事なかった」
「あ、またやっちゃった……? あはは、ごめんねえ」
どうやらユグは何度も僕を呼んでいたらしい。いや本当、この集中しすぎちゃう癖、何とかならないものか。
ユグの口許が優しく上がる。
「アーウィン言ってた、本当だった」
「ん? 言ってたことが本当?」
どれのことだろう。ユグの肩の上で顔をずらして、ユグの顔を見上げた。髭もない艷やかな肌だ。
「アーウィン触る、気が付く。これ……キス、したら気付いた。言ってた通り」
「え? いやあの、キスしたら気付くって意味じゃないよ?」
「次から、キスする」
にこにこと無邪気に笑うユグ。……くうっ、僕は無邪気なユグの笑顔に弱いんだよ!
「あ、あのさユグ。一応説明しておくと、キスっていうのは――」
「キスする」
被せ気味に言われても。
「あのねユグ!? ユグは男の僕とキスして何も思わないの!?」
「男? なに、男」
何故か首を傾げるユグ。え、男が分からないなんてさすがにないよね!? と思った後、そういえば守り人一族に女の人がいないことを思い出した。しかもユグは外の世界を知らなさそうだから、となると男女の違いをいちから説明しないといけないかもしれなくて……。うん、ちょっと面倒くさい。
え、いや待てよ。じゃあまさか、守り人にとっては男同士でいちゃつくのが常識ってことなのか!? そもそも女を知らないなら、いくら濃厚なキスを男同士でしたっておかしいなんて思わないってこと!?
ふ、と一瞬気が遠くなった。えー……、男女の違いなんて詳しく説明できる自信がないよ。だって僕、紛うことなき童貞だし……。
「……ユグ、次の場所に移動しよっか」
「うん!」
ユグは嬉しそうに歯を見せて笑うと、僕をひょいと横抱きにして軽々と持ち上げる。事もなげに脚力だけで立ち上がると、「行く!」とひと言告げた後、全速力で駆け出したのだった。
まず最初にすべきことははっきりしている。兎にも角にも、『贄』文化の証拠となる物を探し出すことだ。
今手元にあるのは、ユグの証言だけ。守り人一族が『贄』など知らない、と突っぱねたら、話は終わってしまう。だから、何かしらの物的証拠が必要だった。
もし仮に、僕の推測通り『贄』文化が昔から続けられていたものだとしたら。どこかの石盤に、古代語で記録が残されている可能性は十分にある。まずはそれを見つけ出すのが先決だった。
次に、それらの証拠を元にヨルトとドルグの協力を仰ぐこと。彼らは僕なんかよりも博識だし、僕よりも大人だ。僕の目からは見えないことも、彼らの目には見えることだってあるかもしれない。
ユグの存在を話すかどうかは彼らの反応を見てからになるけど、僕の味方をしてくれる可能性はこれまでの僕に対する態度からみても高いんじゃないかと思っている。
でも、念には念をだ。万が一にもユグを危険な目に遭わせない為には、絶対大丈夫だと確信できるまで、ユグの存在を匂わせてちゃいけないだろう。
そして、一番大事なところ。世界樹が枯れゆく原因を究明して、『贄』との関係性を明確にすることだ。ユグには世界樹の声を聞くことと『贄』に直接的な因果関係はないと思うと伝えたけど、慣習となっているにはそれなりの根拠がある筈。
守り人の「世界樹が枯れる原因を探ってほしい」という依頼の完遂と、『贄』にされたユグをしがらみから自由にしてあげたいという僕の願い。この二つを同時に解決するのが目標だ。
ユグの命を捧げることで世界樹の声が聞こえるようになるんだと、ユグは確かに言った。『贄』になる子供のユグが聞かされていたということは、守り人一族にとってはそれが当然の共通認識なのかもしれない。
守り人がもう少し協力的だったなら詳しい話も聞けそうなものだけど、如何せん革新派の人たちが軒並み外界へ出てしまっているので、守り人の話し相手がおじさん守り人しかいない。あの人から話を聞き出すの、大変そうなんだよなあ。
「……ウィン、アーウィン」
やっぱりここは落ち着いたヨルトと弁の立つドルグに早めの協力を――。
目の前が突然陰り、くちゅ、と唇が柔らかいものに食まれた。
「んっ!?」
思考に入り込んで自然と下がっていた目線を、正面に向ける。
黄金色の瞳が、至近距離で真っ直ぐに覗き込んでいた。……キスと共に。
えっ!? どうして!?
「ユグ――……ッ」
口を開けた瞬間、ぬるりと温かい舌が口腔内に侵入してくる。甘えるようなゆったりとした動きに、次第にとろんと力が抜けていってしまった。昨日まで知らなかったけど、キスってこんなに気持ちいいんだな。どうしよう、ハマっちゃいそうだ。
「ん……っ」
僕の腕はユグの首に巻き付いたままで、ユグは僕の腰を抱いているまま。隙間なんてどこにもないから逃げられないし、と自分によく分からない言い訳をして、気持ちよさに身を任せた。
くちゅくちゅ、と暫くユグに翻弄された後。
「はあ……っ、はあ……っ」
甘いキスからようやく解放された僕は、やっぱり身体の力が抜けてしまい、くたりとユグの肩に体重を預けていた。
「アーウィン、返事なかった」
「あ、またやっちゃった……? あはは、ごめんねえ」
どうやらユグは何度も僕を呼んでいたらしい。いや本当、この集中しすぎちゃう癖、何とかならないものか。
ユグの口許が優しく上がる。
「アーウィン言ってた、本当だった」
「ん? 言ってたことが本当?」
どれのことだろう。ユグの肩の上で顔をずらして、ユグの顔を見上げた。髭もない艷やかな肌だ。
「アーウィン触る、気が付く。これ……キス、したら気付いた。言ってた通り」
「え? いやあの、キスしたら気付くって意味じゃないよ?」
「次から、キスする」
にこにこと無邪気に笑うユグ。……くうっ、僕は無邪気なユグの笑顔に弱いんだよ!
「あ、あのさユグ。一応説明しておくと、キスっていうのは――」
「キスする」
被せ気味に言われても。
「あのねユグ!? ユグは男の僕とキスして何も思わないの!?」
「男? なに、男」
何故か首を傾げるユグ。え、男が分からないなんてさすがにないよね!? と思った後、そういえば守り人一族に女の人がいないことを思い出した。しかもユグは外の世界を知らなさそうだから、となると男女の違いをいちから説明しないといけないかもしれなくて……。うん、ちょっと面倒くさい。
え、いや待てよ。じゃあまさか、守り人にとっては男同士でいちゃつくのが常識ってことなのか!? そもそも女を知らないなら、いくら濃厚なキスを男同士でしたっておかしいなんて思わないってこと!?
ふ、と一瞬気が遠くなった。えー……、男女の違いなんて詳しく説明できる自信がないよ。だって僕、紛うことなき童貞だし……。
「……ユグ、次の場所に移動しよっか」
「うん!」
ユグは嬉しそうに歯を見せて笑うと、僕をひょいと横抱きにして軽々と持ち上げる。事もなげに脚力だけで立ち上がると、「行く!」とひと言告げた後、全速力で駆け出したのだった。
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