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史也が契約する格安携帯を所持することを了承した後、史也は次の議題に移った。
このコンビニでは俺が働いていないと言われた涼真が俺を探しにくることは、もうないかもしれない。
だけど、この町のコンビニを全て回って該当が一件もなければ、どこかの店員が嘘を吐いたことはバレる。
果たしてそこまであの涼真が根気よく俺を探し続けるかは疑問だったけど、史也は「可能性がある限りは排除出来ない!」と力強く拳を握り締めて主張した。
ということで、俺と史也は額を合わせてどの時間がベストなのかの検証を始めることになった。史也って案外心配性なんだな。
俺を拾ったあの町の繁華街にあるバーで涼真が働いている時間は、平日は仕込みが始める三時から店が十二時に閉まって片付けをする、深夜十二時半までの間。暇だと早く帰ってくることもある。
休前日は営業が始発までになっていて、前半後半にシフトが分かれている。前半だと夜の十時までだし、後半だと朝の五時までだ。
休みは日曜日だけで、時折有給を使って平日に休むことはあるけど、休み自体は少ない。
帰ってきて飯を食いながら海外ドラマとかお笑い番組を見て、気分によっては俺を抱いてそのまま昼まで寝るのが涼真の大体のスケジュールだった。
俺のシフトは、基本涼真に合わせていた。だから、お昼ご飯を用意して夜ご飯の仕込みもしたら、片付けが終わり次第俺は午後のシフトに向かう。コンビニの深夜シフトの時間が夜の十時から翌朝の六時までなので、夜十時に交代が完了したら家に帰って夜ご飯を完成させて、というのがこれまでの俺のスケジュールだった。
「つまり、俺が遭遇した深夜は一番危険な時間帯ってことだな」
細い目の間にある眉間に皺を寄せながら、腕を組みつつ史也が唸る。
「朝六時から午後三時までのシフトも危険だし、そうなると今入っている午後シフトが一番遭遇率は低いよね」
「まあそうだな。元々涼真が働いている時間に合わせた感じだったから」
だから別にそのままでいいんじゃないかと思ったけど、史也はまだ心配らしい。
「シフトはそのままでいいと思う。だけど、日曜日はシフトを入れない様にしよう」
「まあ……それはそうかもね」
元々人がいなくて頼まれない限りは入れてなかったけど、史也の表情があまりにも真剣そのものだったので、言えなかった。だって、俺のことでこんなに考えてくれてるなんて――嬉しいし。
「だけど、いつ平日休みが入るか分からない」
死刑宣告をしているみたいな重苦しい雰囲気で、史也が言った。
「そりゃまーそうだけど」
「となると、それは危険だ」
「まあそうだけどさ……」
そんなことを気にしていたら、職を変えた方が早いんじゃ。そんな考えが過ぎったけど、新たな人間関係を一から作り直すのは億劫だし、このコンビニには愛着もあって何の不満もない。転職はなしにしたいなあ、と思っていたら。
史也が拳を握り締めながら宣言した。
「分かった! 俺が同じシフトに入る! 行き帰りもこれで安心でしょ!」
史也は興奮すると声が大きくなる。声でかいよ、と内心笑いながら、史也に尋ねる。
「いや、学校は?」
「殆ど午前中の講義ばっかりだから大丈夫! 大丈夫大丈夫!」
いいのかそれで。俺が呆れて史也を見つめていると、史也はエヘヘ、と頭を掻いた。あ、今の笑顔も可愛い。やっぱ和み系だよな、史也って。
「就職活動が本格的になってきたらバイトも今まで通りにはいかないかもしれないけど、送り迎えはするから!」
「そんな大袈裟な」
さすがにやり過ぎだろうと俺が若干引き気味になると、史也は俺の膝に膝を付けんばかりに近付いてきて、物凄く真剣な顔で言った。
「駄目。絶対駄目。俺が心配だから」
おかん再び。CMとかで時折見る、キッズ携帯のGPSで居場所を探る親みたいだ。
そしてそういう愛に飢えている自覚がある俺は、それを悪くないと思ってしまうんだ。
「……へへ、心配性だなあ史也は」
膝を抱えて、照れくさくて顔半分を内側に隠す。そんな俺を見て、史也は穏やかな笑みを浮かべた。
「陸のこと、俺にも心配させてよ」
「は……」
なんていう決め台詞。イケメンが吐くと臭すぎるセリフだろうけど、穏やかな顔の史也が言うと温かみを感じるから不思議なもんだ。
「……うん」
俺の顔、赤くなってないかな。
「あ! でもちょっと束縛キツイとか思ったらちゃんと言ってよ!?」
「彼氏彼女かよ」
茶化して言ったけど、史也は誤魔化されなかった。
「ちゃんと嫌なことは嫌って言うこと! 俺と過ごす時の約束! ね!」
凄い近くにいるのに大声出すなって。
史也が、心配そうに俺の顔を覗き込む。
「……俺は怒らないし、ちゃんと話を聞くから」
「史也……」
史也は、俺の心の傷がまだ塞ぎ切ってないことを知ってるのかもしれない。だからこうやって、俺がほしいと思う言葉ばかりを選んでくれるんじゃないか。
「約束、ね?」
そう言って差し出された、俺よりも長くて太い小指。
「……ん、ありがと」
俺はこんなに優しくされていいんだろうかなんて思いながらも、俺はその指に自分の小指を絡めたのだった。
このコンビニでは俺が働いていないと言われた涼真が俺を探しにくることは、もうないかもしれない。
だけど、この町のコンビニを全て回って該当が一件もなければ、どこかの店員が嘘を吐いたことはバレる。
果たしてそこまであの涼真が根気よく俺を探し続けるかは疑問だったけど、史也は「可能性がある限りは排除出来ない!」と力強く拳を握り締めて主張した。
ということで、俺と史也は額を合わせてどの時間がベストなのかの検証を始めることになった。史也って案外心配性なんだな。
俺を拾ったあの町の繁華街にあるバーで涼真が働いている時間は、平日は仕込みが始める三時から店が十二時に閉まって片付けをする、深夜十二時半までの間。暇だと早く帰ってくることもある。
休前日は営業が始発までになっていて、前半後半にシフトが分かれている。前半だと夜の十時までだし、後半だと朝の五時までだ。
休みは日曜日だけで、時折有給を使って平日に休むことはあるけど、休み自体は少ない。
帰ってきて飯を食いながら海外ドラマとかお笑い番組を見て、気分によっては俺を抱いてそのまま昼まで寝るのが涼真の大体のスケジュールだった。
俺のシフトは、基本涼真に合わせていた。だから、お昼ご飯を用意して夜ご飯の仕込みもしたら、片付けが終わり次第俺は午後のシフトに向かう。コンビニの深夜シフトの時間が夜の十時から翌朝の六時までなので、夜十時に交代が完了したら家に帰って夜ご飯を完成させて、というのがこれまでの俺のスケジュールだった。
「つまり、俺が遭遇した深夜は一番危険な時間帯ってことだな」
細い目の間にある眉間に皺を寄せながら、腕を組みつつ史也が唸る。
「朝六時から午後三時までのシフトも危険だし、そうなると今入っている午後シフトが一番遭遇率は低いよね」
「まあそうだな。元々涼真が働いている時間に合わせた感じだったから」
だから別にそのままでいいんじゃないかと思ったけど、史也はまだ心配らしい。
「シフトはそのままでいいと思う。だけど、日曜日はシフトを入れない様にしよう」
「まあ……それはそうかもね」
元々人がいなくて頼まれない限りは入れてなかったけど、史也の表情があまりにも真剣そのものだったので、言えなかった。だって、俺のことでこんなに考えてくれてるなんて――嬉しいし。
「だけど、いつ平日休みが入るか分からない」
死刑宣告をしているみたいな重苦しい雰囲気で、史也が言った。
「そりゃまーそうだけど」
「となると、それは危険だ」
「まあそうだけどさ……」
そんなことを気にしていたら、職を変えた方が早いんじゃ。そんな考えが過ぎったけど、新たな人間関係を一から作り直すのは億劫だし、このコンビニには愛着もあって何の不満もない。転職はなしにしたいなあ、と思っていたら。
史也が拳を握り締めながら宣言した。
「分かった! 俺が同じシフトに入る! 行き帰りもこれで安心でしょ!」
史也は興奮すると声が大きくなる。声でかいよ、と内心笑いながら、史也に尋ねる。
「いや、学校は?」
「殆ど午前中の講義ばっかりだから大丈夫! 大丈夫大丈夫!」
いいのかそれで。俺が呆れて史也を見つめていると、史也はエヘヘ、と頭を掻いた。あ、今の笑顔も可愛い。やっぱ和み系だよな、史也って。
「就職活動が本格的になってきたらバイトも今まで通りにはいかないかもしれないけど、送り迎えはするから!」
「そんな大袈裟な」
さすがにやり過ぎだろうと俺が若干引き気味になると、史也は俺の膝に膝を付けんばかりに近付いてきて、物凄く真剣な顔で言った。
「駄目。絶対駄目。俺が心配だから」
おかん再び。CMとかで時折見る、キッズ携帯のGPSで居場所を探る親みたいだ。
そしてそういう愛に飢えている自覚がある俺は、それを悪くないと思ってしまうんだ。
「……へへ、心配性だなあ史也は」
膝を抱えて、照れくさくて顔半分を内側に隠す。そんな俺を見て、史也は穏やかな笑みを浮かべた。
「陸のこと、俺にも心配させてよ」
「は……」
なんていう決め台詞。イケメンが吐くと臭すぎるセリフだろうけど、穏やかな顔の史也が言うと温かみを感じるから不思議なもんだ。
「……うん」
俺の顔、赤くなってないかな。
「あ! でもちょっと束縛キツイとか思ったらちゃんと言ってよ!?」
「彼氏彼女かよ」
茶化して言ったけど、史也は誤魔化されなかった。
「ちゃんと嫌なことは嫌って言うこと! 俺と過ごす時の約束! ね!」
凄い近くにいるのに大声出すなって。
史也が、心配そうに俺の顔を覗き込む。
「……俺は怒らないし、ちゃんと話を聞くから」
「史也……」
史也は、俺の心の傷がまだ塞ぎ切ってないことを知ってるのかもしれない。だからこうやって、俺がほしいと思う言葉ばかりを選んでくれるんじゃないか。
「約束、ね?」
そう言って差し出された、俺よりも長くて太い小指。
「……ん、ありがと」
俺はこんなに優しくされていいんだろうかなんて思いながらも、俺はその指に自分の小指を絡めたのだった。
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