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11 なんであいつが
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正座して俺の前に座っている史也の耳くらいの高さに、俺の手を掲げた。
「史也より背はちょっと低いくらい? 肌はちょっと浅黒い感じだった?」
「うん、なんか男臭いイケメンって感じ」
史也は真剣な表情で頷き返す。まさかそんなことないよなと思いたかったけど、悲しいことに俺には知り合いなんてほぼいないに等しい。俺を探す可能性がある人物といったら、父親か涼真のどちらかしか考えられなかった。
俺を探していたのがチャラい男なら、残る選択肢は涼真しかいない。
……涼真だ。絶対涼真だ。
なんだよ、なんで二週間も経ってから探してるんだよ。あの後すぐに大慌てで探し出して、泣いて土下座でもしてくれたらもしかして俺だって仏心を出して帰ったかもしれないのに。
その程度には、あの時はまだ涼真への未練がたらたらだった。好きで信じていた涼真に、浮気された上にセックスは家賃代わりだなんて言われて傷ついたのは事実だったけど。
それでも、俺が行く場所なんてたかが知れているのは涼真だって分かってた筈なのに、探しにすら来なかった。多分、相手の男が家にいたからだ。
俺なんてすぐに泣いて戻ってくると思った? どうせ行く所がないんだから、ひと晩ネカフェかどこかで過ごしたら戻ってくるだろうと高を括ってた?
随分と馬鹿にされたものだ。だけど、それだけあの家の中で俺の立場は弱かったし、俺は滅多なことでは涼真に逆らおうとせず、可愛くて従順な恋人を演じていた。それだけ、涼真の傍にいたかった。
それにしたって、何でわざわざ『斎川って奴ここでバイトしてない?』なんて聞いたんだろう。
ぐるぐると混乱状態になった頭で考えて考えて――俺はとんでもないことに気付いてしまった。
そうだ。涼真は俺がコンビニでバイトをしていたことは、勿論知っていた。でも、一度だって顔を見せたことはなかった。コンビニの所在地なんて、そういや聞かれたこともなかったかもしれない。
涼真は、本当に知らなかったんだ。知らなくて、でも知りたいとも思ってなくて、だからいざ探そうと思ってヒントであるこの町のコンビニを片っ端から回ってるんだろうか。
あの日だって、コンビニのケーキを買って帰ったのに。俺がなんて名前のコンビニで働いているか、ラベルを見れば書いてあっただろうに。
「嘘……」
そこまで俺に興味がなかったんだ。その事実に気付かされた俺は、思わず呟きを漏らす。
それを、多分史也は違う意味に捉えたんだろう。こくりと頷くと、暗い声を出した。
「……やっぱりその涼真って人だった?」
「多分涼真だとは思うけど……」
それだけ俺に興味がなかったなら、乳繰り合っていた男と付き合い始めたんじゃないのか。俺の方が本命っぽいことは言ってたけど、あれだってよく考えたら咄嗟についた嘘の可能性だってある。いや、むしろそうとしか考えられない。
涼真にとって、俺は便利な家政婦だった。好きな時に抱ける特典付きの。
史也が俺に任せっきりにせず、家事を一緒に分け合おうとしてくれるのを見て、思ったんだ。
涼真にとって、俺はやっぱり恋人じゃなかった。俺は便利な存在、ただそれだけだったと。
史也が、どんよりとした雲が見えそうなくらい凹んだ顔でボソボソと聞く。
「ごめんな……。すぐに言えばよかったんだけど、言い訳をさせてもらうとさ、陸に酷いことした奴が今更のうのうと何より戻そうとしてるんだよって思ったら、腹立っちゃって……」
史也からは、そんな素振りは全く窺えなかった。目が細い所為かな。
史也の話は衝撃的ではあったけど、今更戻れと言われてももう戻る気はない。涼真は時間を置きすぎた。
だから俺は、小さな笑みを浮かべながら首を横に振る。
「ううん。全然いいよ。よりを戻す気なんてないし」
「……本当に全然ない? 大丈夫? 怒ってない?」
悲しそうな史也の表情。これはもしかして、俺が涼真に未練たらたらで、迎えに来たら戻る気だったと思ってたんだろうか。
史也の案外整ってるんだけど目の所為でやっぱり少しのっぺりして見える顔を見ている内に、ムカムカと怒りが湧いてきた。
「史也より背はちょっと低いくらい? 肌はちょっと浅黒い感じだった?」
「うん、なんか男臭いイケメンって感じ」
史也は真剣な表情で頷き返す。まさかそんなことないよなと思いたかったけど、悲しいことに俺には知り合いなんてほぼいないに等しい。俺を探す可能性がある人物といったら、父親か涼真のどちらかしか考えられなかった。
俺を探していたのがチャラい男なら、残る選択肢は涼真しかいない。
……涼真だ。絶対涼真だ。
なんだよ、なんで二週間も経ってから探してるんだよ。あの後すぐに大慌てで探し出して、泣いて土下座でもしてくれたらもしかして俺だって仏心を出して帰ったかもしれないのに。
その程度には、あの時はまだ涼真への未練がたらたらだった。好きで信じていた涼真に、浮気された上にセックスは家賃代わりだなんて言われて傷ついたのは事実だったけど。
それでも、俺が行く場所なんてたかが知れているのは涼真だって分かってた筈なのに、探しにすら来なかった。多分、相手の男が家にいたからだ。
俺なんてすぐに泣いて戻ってくると思った? どうせ行く所がないんだから、ひと晩ネカフェかどこかで過ごしたら戻ってくるだろうと高を括ってた?
随分と馬鹿にされたものだ。だけど、それだけあの家の中で俺の立場は弱かったし、俺は滅多なことでは涼真に逆らおうとせず、可愛くて従順な恋人を演じていた。それだけ、涼真の傍にいたかった。
それにしたって、何でわざわざ『斎川って奴ここでバイトしてない?』なんて聞いたんだろう。
ぐるぐると混乱状態になった頭で考えて考えて――俺はとんでもないことに気付いてしまった。
そうだ。涼真は俺がコンビニでバイトをしていたことは、勿論知っていた。でも、一度だって顔を見せたことはなかった。コンビニの所在地なんて、そういや聞かれたこともなかったかもしれない。
涼真は、本当に知らなかったんだ。知らなくて、でも知りたいとも思ってなくて、だからいざ探そうと思ってヒントであるこの町のコンビニを片っ端から回ってるんだろうか。
あの日だって、コンビニのケーキを買って帰ったのに。俺がなんて名前のコンビニで働いているか、ラベルを見れば書いてあっただろうに。
「嘘……」
そこまで俺に興味がなかったんだ。その事実に気付かされた俺は、思わず呟きを漏らす。
それを、多分史也は違う意味に捉えたんだろう。こくりと頷くと、暗い声を出した。
「……やっぱりその涼真って人だった?」
「多分涼真だとは思うけど……」
それだけ俺に興味がなかったなら、乳繰り合っていた男と付き合い始めたんじゃないのか。俺の方が本命っぽいことは言ってたけど、あれだってよく考えたら咄嗟についた嘘の可能性だってある。いや、むしろそうとしか考えられない。
涼真にとって、俺は便利な家政婦だった。好きな時に抱ける特典付きの。
史也が俺に任せっきりにせず、家事を一緒に分け合おうとしてくれるのを見て、思ったんだ。
涼真にとって、俺はやっぱり恋人じゃなかった。俺は便利な存在、ただそれだけだったと。
史也が、どんよりとした雲が見えそうなくらい凹んだ顔でボソボソと聞く。
「ごめんな……。すぐに言えばよかったんだけど、言い訳をさせてもらうとさ、陸に酷いことした奴が今更のうのうと何より戻そうとしてるんだよって思ったら、腹立っちゃって……」
史也からは、そんな素振りは全く窺えなかった。目が細い所為かな。
史也の話は衝撃的ではあったけど、今更戻れと言われてももう戻る気はない。涼真は時間を置きすぎた。
だから俺は、小さな笑みを浮かべながら首を横に振る。
「ううん。全然いいよ。よりを戻す気なんてないし」
「……本当に全然ない? 大丈夫? 怒ってない?」
悲しそうな史也の表情。これはもしかして、俺が涼真に未練たらたらで、迎えに来たら戻る気だったと思ってたんだろうか。
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