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3 涼真との出会い
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彼女と会いづらくなって発散できないと、そりゃ溜まる。
ある日、俺は自分の部屋で自分を慰めていた。ふと、視線を感じて振り返る。
ドアの隙間から、継母が俺の様子をじっと伺っていた。あの時の恐怖は、今でも時折夢に見て飛び起きるくらいだ。
驚きのあまり固まると、継母は色欲にまみれた笑みを浮かべながら言ったのだ。
「彼女はもうさせてくれないんでしょう? 十代だものねえ、相手がいないと大変よね」
「は……?」
「私が、出すのを手伝ってあげるわよ」
それは日中のことで、義妹は学校へ行っていて不在だった。父は会社だ。
どうしよう、どうしたらいい。
継母は、そのまま俺の部屋に入ってくる。欲情にまみれた笑みを浮かべたまま。
「……う、うわあああっ!」
その瞬間、俺は金縛りが解けたかのように立ち上がり、継母を突き飛ばして部屋の外に飛び出した。
「待って陸くん! 心配しないでも、お父さんには黙っていてあげるからっ!」
継母が金切り声で喚いていた内容が怖くて、無我夢中で靴を履いて家の外に出る。
泣きながら、彼女の元へと走った。怖かった。ひたすら怖かった。
彼女の温かい身体に縋り付きたかった。その一心で、ひた走る。
いつも彼女の家は鍵が開いている。チャイムなしにそのまま飛び込むと、目に飛び込んできたのは、俺の友人のひとりに抱かれている彼女。
「え……」
唖然と立ち尽くしていると、彼女は俺を見て笑った。友人に揺さぶられながら。
「あ、お財布3号が来たー。あの時はありがと、陸」
「は……?」
彼女を貫いている友人が、俺を見て鼻で笑う。
「なに、こいつも騙したの? 悪い女だよなあ」
「だってえー。ヴィトンのバッグ欲しかったんだもおーん」
なに。何を言ってるんだ、こいつら。
俺が何も喋られないでいると、二人は俺が見ているにも関わらず動きながら話を続けた。
「合計で五十万だっけ? 俺の作戦よかっただろー?」
「セフレ整理にもなったしねー!」
「皆妊娠って聞いたら離れたんだろ? あはは、ばっかだよなあ」
「そんなヘマする訳ないじゃんってね! あんっあ、ああんっもっと激しくしてっ!」
嬌声を上げて足を友人の腰に巻きつける彼女の痴態と友人の金玉を後ろから見せられて、俺の心は痺れたかのように麻痺し。
気が付いた時には、もう日は暮れて辺りは真っ暗。
街を当て所なく歩いていたらお姉さんに声を掛けられ、お金がないことを伝えると奢ってあげるから、とホテルに連れて行かれた。もう何でもいい。何もかもがどうでもいい。
もう家には帰れない。彼女だと思ってたのに、俺はセフレでしかも財布だって言われた。
目の前の女を抱いたら、少しはスッキリするかな。
現実逃避をしたくて、女の服を乱暴に剥ぎ取る。
だけど、剥き出しの女の股を見た瞬間、吐き気が襲ってきたのだ。
具合が悪いと言ってトイレに駆け込むと、興ざめした女は俺に三千円だけ渡して去っていく。俺は身支度をすると、フラフラと外に出た。
俺は、女を抱けない身体になったらしい。俺の陰茎は、硬さすら帯びなかった。
どうしよう。この先どうしたらいいんだろう。
父に連絡を取ろうかとも考えた。だけど、携帯も財布も何もない。皆俺の部屋に置いてきてしまった。
あの家には戻れない。怖いよ、どうしたらいいんだよ。
ガードレールにもたれかかりながらしゃがみ込むと、涙が出てきた。
それと同時に、嗚咽も。
俺が我慢したらよかったのか。俺の何がいけなかったのか。どうして俺ばっかりこんな目に遭うんだよ。
泣いて泣いて、道行く人が俺を遠巻きに眺めては通り過ぎる。
どれくらいそうしていただろう。
「――これ飲む?」
隣から、男の声が話しかけてきた。涙でぐしゃぐしゃの顔を上げると、そこにいたのは二十代前半か半ばくらいの若い男。チャラそうな長めの茶髪に、耳には大量のピアスをしている。
顔はかなり整っていて、精悍な顔つきと言ったらぴったりのちょっと浅黒い肌の持ち主だった。
男が俺に差し出していたのは、缶ビール。
男はビニール袋からもう一本取り出すと、「飲もうぜ」と言って俺の横でケツを地面に付ける。
「……なんで」
俺の問いに、男はアハハと楽しそうに笑った。
「だって、こんな可愛い子が泣いてたら放っておけないじゃん?」
「可愛い子……?」
「うわあ、自覚なし?」
男が大袈裟に驚く。何言ってんのこの人。
「俺、男だけど」
「そんなん見りゃ分かるよ。ほら、乾杯!」
「……?」
訳が分からないまま、俺は缶ビールのプルトップを開けた。ゴン、と音を立てて乾杯すると、飲んだことのないアルコールを一気に口に含む。もうどうにでもなれ。そういう気持ちで。
あまりの苦さに俺の顔が歪むと、男はまた可笑しそうに笑った。
「俺、涼真。君の名前は?」
「……陸」
「俺と陸の出会いにかんぱーい!」
「……はは……ナニソレ。――う、ぐす……」
「ああ、泣かないの! ほらいい子いい子」
これが、陽気な男、涼真と俺の出会いだった。
泣きながら事情を洗いざらい話した俺を、涼真は家に連れて帰った。
自暴自棄になっていた俺はその日の内に処女を失い、そして――涼真の恋人になったのだった。
ある日、俺は自分の部屋で自分を慰めていた。ふと、視線を感じて振り返る。
ドアの隙間から、継母が俺の様子をじっと伺っていた。あの時の恐怖は、今でも時折夢に見て飛び起きるくらいだ。
驚きのあまり固まると、継母は色欲にまみれた笑みを浮かべながら言ったのだ。
「彼女はもうさせてくれないんでしょう? 十代だものねえ、相手がいないと大変よね」
「は……?」
「私が、出すのを手伝ってあげるわよ」
それは日中のことで、義妹は学校へ行っていて不在だった。父は会社だ。
どうしよう、どうしたらいい。
継母は、そのまま俺の部屋に入ってくる。欲情にまみれた笑みを浮かべたまま。
「……う、うわあああっ!」
その瞬間、俺は金縛りが解けたかのように立ち上がり、継母を突き飛ばして部屋の外に飛び出した。
「待って陸くん! 心配しないでも、お父さんには黙っていてあげるからっ!」
継母が金切り声で喚いていた内容が怖くて、無我夢中で靴を履いて家の外に出る。
泣きながら、彼女の元へと走った。怖かった。ひたすら怖かった。
彼女の温かい身体に縋り付きたかった。その一心で、ひた走る。
いつも彼女の家は鍵が開いている。チャイムなしにそのまま飛び込むと、目に飛び込んできたのは、俺の友人のひとりに抱かれている彼女。
「え……」
唖然と立ち尽くしていると、彼女は俺を見て笑った。友人に揺さぶられながら。
「あ、お財布3号が来たー。あの時はありがと、陸」
「は……?」
彼女を貫いている友人が、俺を見て鼻で笑う。
「なに、こいつも騙したの? 悪い女だよなあ」
「だってえー。ヴィトンのバッグ欲しかったんだもおーん」
なに。何を言ってるんだ、こいつら。
俺が何も喋られないでいると、二人は俺が見ているにも関わらず動きながら話を続けた。
「合計で五十万だっけ? 俺の作戦よかっただろー?」
「セフレ整理にもなったしねー!」
「皆妊娠って聞いたら離れたんだろ? あはは、ばっかだよなあ」
「そんなヘマする訳ないじゃんってね! あんっあ、ああんっもっと激しくしてっ!」
嬌声を上げて足を友人の腰に巻きつける彼女の痴態と友人の金玉を後ろから見せられて、俺の心は痺れたかのように麻痺し。
気が付いた時には、もう日は暮れて辺りは真っ暗。
街を当て所なく歩いていたらお姉さんに声を掛けられ、お金がないことを伝えると奢ってあげるから、とホテルに連れて行かれた。もう何でもいい。何もかもがどうでもいい。
もう家には帰れない。彼女だと思ってたのに、俺はセフレでしかも財布だって言われた。
目の前の女を抱いたら、少しはスッキリするかな。
現実逃避をしたくて、女の服を乱暴に剥ぎ取る。
だけど、剥き出しの女の股を見た瞬間、吐き気が襲ってきたのだ。
具合が悪いと言ってトイレに駆け込むと、興ざめした女は俺に三千円だけ渡して去っていく。俺は身支度をすると、フラフラと外に出た。
俺は、女を抱けない身体になったらしい。俺の陰茎は、硬さすら帯びなかった。
どうしよう。この先どうしたらいいんだろう。
父に連絡を取ろうかとも考えた。だけど、携帯も財布も何もない。皆俺の部屋に置いてきてしまった。
あの家には戻れない。怖いよ、どうしたらいいんだよ。
ガードレールにもたれかかりながらしゃがみ込むと、涙が出てきた。
それと同時に、嗚咽も。
俺が我慢したらよかったのか。俺の何がいけなかったのか。どうして俺ばっかりこんな目に遭うんだよ。
泣いて泣いて、道行く人が俺を遠巻きに眺めては通り過ぎる。
どれくらいそうしていただろう。
「――これ飲む?」
隣から、男の声が話しかけてきた。涙でぐしゃぐしゃの顔を上げると、そこにいたのは二十代前半か半ばくらいの若い男。チャラそうな長めの茶髪に、耳には大量のピアスをしている。
顔はかなり整っていて、精悍な顔つきと言ったらぴったりのちょっと浅黒い肌の持ち主だった。
男が俺に差し出していたのは、缶ビール。
男はビニール袋からもう一本取り出すと、「飲もうぜ」と言って俺の横でケツを地面に付ける。
「……なんで」
俺の問いに、男はアハハと楽しそうに笑った。
「だって、こんな可愛い子が泣いてたら放っておけないじゃん?」
「可愛い子……?」
「うわあ、自覚なし?」
男が大袈裟に驚く。何言ってんのこの人。
「俺、男だけど」
「そんなん見りゃ分かるよ。ほら、乾杯!」
「……?」
訳が分からないまま、俺は缶ビールのプルトップを開けた。ゴン、と音を立てて乾杯すると、飲んだことのないアルコールを一気に口に含む。もうどうにでもなれ。そういう気持ちで。
あまりの苦さに俺の顔が歪むと、男はまた可笑しそうに笑った。
「俺、涼真。君の名前は?」
「……陸」
「俺と陸の出会いにかんぱーい!」
「……はは……ナニソレ。――う、ぐす……」
「ああ、泣かないの! ほらいい子いい子」
これが、陽気な男、涼真と俺の出会いだった。
泣きながら事情を洗いざらい話した俺を、涼真は家に連れて帰った。
自暴自棄になっていた俺はその日の内に処女を失い、そして――涼真の恋人になったのだった。
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