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2 家出の理由
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涼真の言う通り、俺は家出少年だ。正確には明日で二十歳だから、今となっては家出青年だけど。
家出の理由は、家庭内不和だ。
俺が小さい時に母が死んで以来ずっと独り身だった父が再婚したのが、俺が高一の時。離婚歴があり、俺よりふたつ下の娘がいる相手だ。
継母は、母親よりも女といった雰囲気の持ち主だった。
学校以外に女に免疫がなかった俺は、家に女が二人もいることになかなか慣れなくて、すぐには敬語も取れなかった。
それでも、義妹は反抗期真っ最中で親ともろくに口を聞かない状態だったし、だから結構頑張って気を配っていたと思う。
ぎこちないながらも、少しずつ家族の形になってきた。そう思い始めた矢先のこと。
何かおかしいと感じたのは、一緒に暮らし始めて半年が経った頃だ。
女の生態に詳しくなかった俺は、女オンナしている継母がやけに俺に触れてくることに、初めは疑問を覚えていなかった。
彼女は父にも娘にも同じ距離感で接していたから、馬鹿な俺は血が繋がってなくても家族はそういうもんだと思っていたんだ。
だけど、反抗期の義妹が俺と継母を汚物でも見るような目で見始める。そこから、これはひょっとしておかしいんじゃないか、と思い始めた。
改めて考えてみると、学校の仲のいい女子とだってこんなにくっつかない。気にしてみると、二人きりの時に接触が多い。肩や背中に触れ、手を握る。振り返ると物凄い近くにいることもあった。
――まさか。
その疑惑は、怖気と共にやってきた。こうなると、相手にそのつもりはなくとも、二人きりになりたくない。
手の触れ方が性的なものに思えてきてしまい、俺はなるべくすぐに家に帰らず、晩御飯の時間に帰宅するようになった。
そんなある日のことだ。いつものように暗くなってから帰宅すると、玄関に父の靴が並んでいる。もう帰ってるんだと思うと、ホッとした。
何故なら、父が家にいる時は継母は俺に触れてこないからだ。
食事を済ませたら、さっさと風呂に入って部屋に籠もろう。そう考えると、気分が晴れた。
「ただい――」
居間に入ろうとした足が止まる。
俺の視界に映ったのは、絵に描いたような幸せそうな家族団欒の姿だった。
いつも俺には苦々しげな顔しか見せない義妹が、父の前では照れ臭そうな笑みを浮かべている。継母は女の顔ではなく、母親の顔で二人を微笑ましげに見つめていた。
ナニコレ。
「やっぱり家に女の子がいると華やかでいいなあ」
「あら、女の子?」
「勿論君もだよ」
「うふふ」
そんな会話を、常夜灯のみが灯る廊下で佇みながら聞いた俺は。
俺の存在が、家族の和を乱してるんじゃないか。俺が異物で、俺がいなければこの家は平和なんじゃないか。
そう思ってしまった。
その日を境に家に帰るのが怖くなり、更に帰宅時間が遅くなっていく。
学校の図書室に居座るのも限度があって、やがて俺は時間を潰す為に夜の街を彷徨くようになった。
あの家に俺がいる理由って何だろう。
分からなくなって、気が付いたら同じように家に居場所がない連中とつるむようになっていた。
正直言って、大体皆、素行は良くない。中には家に親が帰ってこないからと泊めてくれる奴もいて、俺はその内のひとりの女子と付き合い始めた。
どんどん堕ちていく俺を見て、父は何が不満なんだと怒った。不満じゃない、怖いんだとは、口が裂けても言えなかった。
聞かれない為に、もっと家に帰らなくなった。高校は中退し、バイトをして、親が帰らない彼女の家で彼女を抱き、彼女の都合が悪い時は悪友の家に行ったりネカフェに寝泊まりした。
そしてある日、彼女に言われた。妊娠したと。下ろしたいから十万払えと。
ゴムは付けていた筈なのに、嘘だろ。そんな言い訳をしたら、彼女は泣き喚いて、いいから金を持ってこいと俺を家から追い出した。
俺は焦りに焦って、暫く顔すら見ていなかった父を頼った。
父は俺を殴り、その後一緒に彼女の家に行き、十万円を父の財布から出してくれた。
家に帰ってこい。悲しそうな顔で言われてしまい、継母のことももしかしたら俺の勘違いだった可能性もあるんじゃないかと自分に言い聞かせ、他に選択肢もなくて渋々戻った。
泣きながら歓迎する継母を見て、自分が自意識過剰だったんじゃないかと思い始める。
高卒認定試験を受けて大学受験だって今から出来るぞ、と父親に励まされて、俺は今度こそいい子になろうと勉強を決意した。
相変わらず義妹の視線は俺を軽蔑するものだったけど、極力気にしないようにした。
家出の理由は、家庭内不和だ。
俺が小さい時に母が死んで以来ずっと独り身だった父が再婚したのが、俺が高一の時。離婚歴があり、俺よりふたつ下の娘がいる相手だ。
継母は、母親よりも女といった雰囲気の持ち主だった。
学校以外に女に免疫がなかった俺は、家に女が二人もいることになかなか慣れなくて、すぐには敬語も取れなかった。
それでも、義妹は反抗期真っ最中で親ともろくに口を聞かない状態だったし、だから結構頑張って気を配っていたと思う。
ぎこちないながらも、少しずつ家族の形になってきた。そう思い始めた矢先のこと。
何かおかしいと感じたのは、一緒に暮らし始めて半年が経った頃だ。
女の生態に詳しくなかった俺は、女オンナしている継母がやけに俺に触れてくることに、初めは疑問を覚えていなかった。
彼女は父にも娘にも同じ距離感で接していたから、馬鹿な俺は血が繋がってなくても家族はそういうもんだと思っていたんだ。
だけど、反抗期の義妹が俺と継母を汚物でも見るような目で見始める。そこから、これはひょっとしておかしいんじゃないか、と思い始めた。
改めて考えてみると、学校の仲のいい女子とだってこんなにくっつかない。気にしてみると、二人きりの時に接触が多い。肩や背中に触れ、手を握る。振り返ると物凄い近くにいることもあった。
――まさか。
その疑惑は、怖気と共にやってきた。こうなると、相手にそのつもりはなくとも、二人きりになりたくない。
手の触れ方が性的なものに思えてきてしまい、俺はなるべくすぐに家に帰らず、晩御飯の時間に帰宅するようになった。
そんなある日のことだ。いつものように暗くなってから帰宅すると、玄関に父の靴が並んでいる。もう帰ってるんだと思うと、ホッとした。
何故なら、父が家にいる時は継母は俺に触れてこないからだ。
食事を済ませたら、さっさと風呂に入って部屋に籠もろう。そう考えると、気分が晴れた。
「ただい――」
居間に入ろうとした足が止まる。
俺の視界に映ったのは、絵に描いたような幸せそうな家族団欒の姿だった。
いつも俺には苦々しげな顔しか見せない義妹が、父の前では照れ臭そうな笑みを浮かべている。継母は女の顔ではなく、母親の顔で二人を微笑ましげに見つめていた。
ナニコレ。
「やっぱり家に女の子がいると華やかでいいなあ」
「あら、女の子?」
「勿論君もだよ」
「うふふ」
そんな会話を、常夜灯のみが灯る廊下で佇みながら聞いた俺は。
俺の存在が、家族の和を乱してるんじゃないか。俺が異物で、俺がいなければこの家は平和なんじゃないか。
そう思ってしまった。
その日を境に家に帰るのが怖くなり、更に帰宅時間が遅くなっていく。
学校の図書室に居座るのも限度があって、やがて俺は時間を潰す為に夜の街を彷徨くようになった。
あの家に俺がいる理由って何だろう。
分からなくなって、気が付いたら同じように家に居場所がない連中とつるむようになっていた。
正直言って、大体皆、素行は良くない。中には家に親が帰ってこないからと泊めてくれる奴もいて、俺はその内のひとりの女子と付き合い始めた。
どんどん堕ちていく俺を見て、父は何が不満なんだと怒った。不満じゃない、怖いんだとは、口が裂けても言えなかった。
聞かれない為に、もっと家に帰らなくなった。高校は中退し、バイトをして、親が帰らない彼女の家で彼女を抱き、彼女の都合が悪い時は悪友の家に行ったりネカフェに寝泊まりした。
そしてある日、彼女に言われた。妊娠したと。下ろしたいから十万払えと。
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高卒認定試験を受けて大学受験だって今から出来るぞ、と父親に励まされて、俺は今度こそいい子になろうと勉強を決意した。
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