誕生日前日に恋人に浮気されて家なしになった俺を拾ったのは、ヒョロい細めのモブでした

緑虫

文字の大きさ
上 下
2 / 56

2 家出の理由

しおりを挟む
 涼真の言う通り、俺は家出少年だ。正確には明日で二十歳だから、今となっては家出青年だけど。

 家出の理由は、家庭内不和だ。

 俺が小さい時に母が死んで以来ずっと独り身だった父が再婚したのが、俺が高一の時。離婚歴があり、俺よりふたつ下の娘がいる相手だ。

 継母は、母親よりも女といった雰囲気の持ち主だった。

 学校以外に女に免疫がなかった俺は、家に女が二人もいることになかなか慣れなくて、すぐには敬語も取れなかった。

 それでも、義妹は反抗期真っ最中で親ともろくに口を聞かない状態だったし、だから結構頑張って気を配っていたと思う。

 ぎこちないながらも、少しずつ家族の形になってきた。そう思い始めた矢先のこと。

 何かおかしいと感じたのは、一緒に暮らし始めて半年が経った頃だ。

 女の生態に詳しくなかった俺は、女オンナしている継母がやけに俺に触れてくることに、初めは疑問を覚えていなかった。

 彼女は父にも娘にも同じ距離感で接していたから、馬鹿な俺は血が繋がってなくても家族はそういうもんだと思っていたんだ。

 だけど、反抗期の義妹が俺と継母を汚物でも見るような目で見始める。そこから、これはひょっとしておかしいんじゃないか、と思い始めた。

 改めて考えてみると、学校の仲のいい女子とだってこんなにくっつかない。気にしてみると、二人きりの時に接触が多い。肩や背中に触れ、手を握る。振り返ると物凄い近くにいることもあった。

 ――まさか。

 その疑惑は、怖気と共にやってきた。こうなると、相手にそのつもりはなくとも、二人きりになりたくない。

 手の触れ方が性的なものに思えてきてしまい、俺はなるべくすぐに家に帰らず、晩御飯の時間に帰宅するようになった。

 そんなある日のことだ。いつものように暗くなってから帰宅すると、玄関に父の靴が並んでいる。もう帰ってるんだと思うと、ホッとした。

 何故なら、父が家にいる時は継母は俺に触れてこないからだ。

 食事を済ませたら、さっさと風呂に入って部屋に籠もろう。そう考えると、気分が晴れた。

「ただい――」

 居間に入ろうとした足が止まる。

 俺の視界に映ったのは、絵に描いたような幸せそうな家族団欒の姿だった。

 いつも俺には苦々しげな顔しか見せない義妹が、父の前では照れ臭そうな笑みを浮かべている。継母は女の顔ではなく、母親の顔で二人を微笑ましげに見つめていた。

 ナニコレ。

「やっぱり家に女の子がいると華やかでいいなあ」
「あら、女の子?」
「勿論君もだよ」
「うふふ」

 そんな会話を、常夜灯のみが灯る廊下で佇みながら聞いた俺は。

 俺の存在が、家族の和を乱してるんじゃないか。俺が異物で、俺がいなければこの家は平和なんじゃないか。

 そう思ってしまった。

 その日を境に家に帰るのが怖くなり、更に帰宅時間が遅くなっていく。

 学校の図書室に居座るのも限度があって、やがて俺は時間を潰す為に夜の街を彷徨くようになった。

 あの家に俺がいる理由って何だろう。

 分からなくなって、気が付いたら同じように家に居場所がない連中とつるむようになっていた。

 正直言って、大体皆、素行は良くない。中には家に親が帰ってこないからと泊めてくれる奴もいて、俺はその内のひとりの女子と付き合い始めた。

 どんどん堕ちていく俺を見て、父は何が不満なんだと怒った。不満じゃない、怖いんだとは、口が裂けても言えなかった。

 聞かれない為に、もっと家に帰らなくなった。高校は中退し、バイトをして、親が帰らない彼女の家で彼女を抱き、彼女の都合が悪い時は悪友の家に行ったりネカフェに寝泊まりした。

 そしてある日、彼女に言われた。妊娠したと。下ろしたいから十万払えと。

 ゴムは付けていた筈なのに、嘘だろ。そんな言い訳をしたら、彼女は泣き喚いて、いいから金を持ってこいと俺を家から追い出した。

 俺は焦りに焦って、暫く顔すら見ていなかった父を頼った。

 父は俺を殴り、その後一緒に彼女の家に行き、十万円を父の財布から出してくれた。

 家に帰ってこい。悲しそうな顔で言われてしまい、継母のことももしかしたら俺の勘違いだった可能性もあるんじゃないかと自分に言い聞かせ、他に選択肢もなくて渋々戻った。

 泣きながら歓迎する継母を見て、自分が自意識過剰だったんじゃないかと思い始める。

 高卒認定試験を受けて大学受験だって今から出来るぞ、と父親に励まされて、俺は今度こそいい子になろうと勉強を決意した。

 相変わらず義妹の視線は俺を軽蔑するものだったけど、極力気にしないようにした。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...