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11 親子の優しさ

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 ひと通り泣いた後は二人に「ごめんなさい」と頭を下げて、食事を再開した。

「謝る必要はどこにもないぞ」とか「親父に言いにくいことがあったら後で言えよ。俺がちゃんと言ってやるからなー」とか、二人に慰められてしまう。何だかすごく気を使わせてしまったのが申し訳ない。

 よく考えたら、これまでこちらの世界で一度も涙を流したことはなかった。なのに泣いちゃって、すごく恥ずかしい。多分ホームシックになったと思われてるんだろうな。

 実際はホームシックとはちょっと違うんだけど、僕の語彙力じゃうまく説明できそうにないから笑い返すに留める。

 二人とも、僕に笑顔が戻ったのを見てホッとした様子だった。

「本当にヤバいしか出てこないくらいの旨さだなー! イクトはマジで天才だよな!」

 それにしても、明るい笑顔でとにかく褒めてくれるユージーンさんはすごい。人を褒めることも褒められることも全然慣れていなかった僕は、ユージーンさんに褒められる度に擽ったくて仕方がない。いい意味の擽ったさではあったけど。

 ローランさんが、ユージーンさんをギロリと睨む。

「お前なあ、にしてもちょっと食い過ぎだぞ!」

 ユージーンさんが、笑いながらべーっと舌を出した。こういうのはこっちの世界も同じらしい。

「うっせーよ。親父が食いすぎて病気にならないように俺が食べてやってるんだよ! それにこんな旨いもん、独り占めしたいだろーが」

 ローランさんが、くはっと笑う。

「思い切り本音ダダ漏れしてんじゃねーか」
「素直なのが俺の魅力なの」

 相変わらずポンポン言い合う親子だなあと微笑ましく眺めている間に、大量に作った料理は全てなくなってしまった。予想外だった。

 かなり作った筈だったのに、大半はユージーンさんの腹の中に収まっている。本当にものすごい食べたな、この人。

 三人で横並びになってわいわい言いながら、食器を片付けた。風呂に入って歯磨きもしてさあ寝ようというところで、ユージーンさんが僕の肩を抱き寄せる。風呂上がりでほかほかした手が、温かい。

 まだ濡れた青い髪が、僕のこめかみに触れた。ユージーンさんは大雑把な性格なのかもしれない。

「なあイクト、一緒に寝ようぜ」
「えっ」

 一緒に寝る? え、どういう意味!? えっ、えっ!? と思っていたら。

 ユージーンさんは照れくさそうに頭を掻いた。

「親父は色々と聞いてるんだろうけど、俺は異世界の話をまだ聞いてないからさ。気になっちゃって仕方なくてさあ」
「あ、異世界の話……はは、あはは」

 ちょっとドキッとしてしまった自分が恥ずかしい。単に異世界の話を聞きたいだけなのに、ユージーンさんの距離感がかなり近いのとイケメンさんなこともあって、思わず意識してしまった。うう、穴が入ったら飛び込みたい。

「ま、まあ……いいですけど」
「やったー! じゃあ部屋に行こうなー」

 曇りのない笑顔を向けられて、やっぱりちょっとドギマギしてしまった。かつてこんな距離で母さん以外の人と接触したことがなかったからだ、きっと。

「でも、そんなに面白い話じゃないかもですけど」
「そんなこと言うなって。イクトのこと、もっと詳しく知りたいんだよ」
「……はい、じゃあ」

 小さく微笑むと、ユージーンさんの顔に満面の笑みが広がった。

 ユージーンさんの真っ直ぐな物言いは、日頃あまりはっきりと主張できない僕には羨ましく感じる。押しは強いけど、不思議と嫌だと思わないのは、元の世界の陽キャの人たちと違って僕に対する好意が感じられるからだろうか。

「ほら、行こう行こう!」
「あはは、はい」

 余程楽しみなんだろう。嬉しそうにニコニコ笑う大人の男性なのに子供みたいな顔を見ていたら、自然と笑みがこぼれた。
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