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10 懐かしさ
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ということで、早速念願の和食第一号、おにぎりに手を伸ばす。
「これは僕の国の食べ物で、おにぎりとかおむすびって言う食べ物です」
こうやって食べるんですよ、と実演してみせた。口の中に入った瞬間広がる塩味と旨味の甘さに、頬の横が一瞬痛くなる。
――ああ、これだ、これなんだよ。
しみじみと味わっていると、残りの二人がやけに静かなことに気付いていつの間にか閉じていた瞼を開く。
すると、二人は驚いた顔をして、無言のまま恐ろしい勢いで塩入りの料理を頬張っているじゃないか。
口に詰め込んだのが詰まったのかユージーンさんが胸元をトントンと叩いているので、慌てて背中を撫でて水を差し出した。
「大丈夫ですかっ?」
しばらくさすっていると、うまく飲み込めたのか、ユージーンさんが水をクイッと飲んだ後に僕を振り向く。驚いたような顔をしていた。
「イクト、お前は天才だ……!」
「はい?」
ローランさんが口を挟む。
「いつももすごく美味いが、今日のは格別だな! まさか、これがイクトが言っていた岩塩の効果なのか?」
「あ、はい。塩を加えるとですね、旨味成分というものが出てくるので、」
ローランさんの方を見ようとしたら頬に手が伸びてきて、ユージーンさんの方を向かされる。青い目がキラキラしていて、顔面がいいだけに直視するのがちょっと辛い。
「こりゃあ、親父がずっと一緒に暮らしたいって言う筈だよ……。うわ、俺ももうイクトから片時も離れたくない……!」
ユージーンさんはそう言いながら、僕の頬を撫で回した。目が血走ってる。怖いよ。
「決めた……! 俺、暫くここにいる!」
「あ? お前なあ、イクトの負担を増やすんじゃ……」
「怪我もしてるしさ! ほら、ここ!」
そう言ってユージーンさんが指差したのは、手の甲に付いた引っかき傷。ローランさんは思い切り顔を歪ませると、「お前馬鹿か?」とこれまで僕が聞いたことのないおざなりな口調でユージーンさんに向かって言った。身内と他人の僕との差は致し方ないけど、ちょっとだけ寂しく感じる。
「なんだよ、いーじゃねーか! それにイクトは他の調味料にも興味津々なんだぞ!」
「えっ! イ、イクトが興味津々!? なんで今日会ったばっかりのお前がそんなことを知ってるんだ!」
するとユージーンさんがふふんとふんぞり返った。
「そりゃあ俺はイクトと会話が弾んだからな! 親父はあれだろ? どーせ自分の自慢話ばっかりしてイクトの話なんざろくに聞いちゃいねえんだろ?」
「ぐ……っ!」
ローランさんは詰まると、「そうだったのか?」みたいな不安そうな目で僕を見る。まあ……基本喋っているのはローランさんではあるよね。
「少し足を伸ばすのだって、冒険者の俺が付いてりゃ安全だしイクトも喜ぶだろうし」
「お前、そう言って独占しようとしてないかっ」
「うるせーうるせー。でもまあこんだけ可愛いイクトがこっちの世界で無知だからって言い包めて親父の恋人にしなかったのは偉い偉い」
「ばっ、俺はなー! そりゃ凄い可愛いとは思ってるが、そういう邪な目じゃなくてもっとなあっ!」
ポンポンと言い返し合う親子の会話。
口の中に残ったおにぎりの味。
どうしてだろう。全然違う世界にいる筈なのに。
二人とも男の人だから、母さんとは全然違うのに。
急に込み上げてきたのは、耐え難いほどの懐かしさだった。
「――えっ!? イクト!?」
最初に気付いたのは、僕の頬を撫でたままのユージーンさんだった。
次いで、ユージーンさんの目線を追ったローランさんも僕を見てぎょっとする。
「ど、どうした!?」
ユージーンさんが、急にオロオロしだした。ローランさんは立ち上がると、僕の顔を覗き込んで見当違いに慰めようとする。
「ち、違うぞ!? ユージーンとのこれは別に喧嘩じゃないからな!? ただの、そ、そう、じゃれ合い! な、ユージーン!」
「そ、そうだぞ!? ああ、泣くなよ、うわ、よしよし……っ」
「ご、ごめんなざい……っ」
なんとか謝ってはみたものの、情けない鼻声と嗚咽しか出てこない。
ユージーンさんが、あやすように僕を腕の中に引き寄せる。
「イクトはなーんも悪くない! 悪いのは親父だ!」
「えっ俺か!? ま、まあそうだ! 俺が悪い! ああ、泣くなイクト……!」
あは、なにそれ。
でも、温かいよ。
無性に母さんに会いたくなった。
「今後イクトは俺が傍にいて守ってやるからなーー!」
「お、おい! お前まさかイクトを……!」
「うっせー親父。シッシッ」
「うわ、お前実の父親に酷すぎるぞ!」
わあわあと賑やかに騒ぐ親子に挟まれ、切なくて苦しくなるほどの郷愁の思いに駆られながら。
なんでか止まってくれない涙をユージーンさんのオシャレな服に染み込ませつつ、僕はこの世界に来てから初めて心からの安堵を覚えていたのだった。
「これは僕の国の食べ物で、おにぎりとかおむすびって言う食べ物です」
こうやって食べるんですよ、と実演してみせた。口の中に入った瞬間広がる塩味と旨味の甘さに、頬の横が一瞬痛くなる。
――ああ、これだ、これなんだよ。
しみじみと味わっていると、残りの二人がやけに静かなことに気付いていつの間にか閉じていた瞼を開く。
すると、二人は驚いた顔をして、無言のまま恐ろしい勢いで塩入りの料理を頬張っているじゃないか。
口に詰め込んだのが詰まったのかユージーンさんが胸元をトントンと叩いているので、慌てて背中を撫でて水を差し出した。
「大丈夫ですかっ?」
しばらくさすっていると、うまく飲み込めたのか、ユージーンさんが水をクイッと飲んだ後に僕を振り向く。驚いたような顔をしていた。
「イクト、お前は天才だ……!」
「はい?」
ローランさんが口を挟む。
「いつももすごく美味いが、今日のは格別だな! まさか、これがイクトが言っていた岩塩の効果なのか?」
「あ、はい。塩を加えるとですね、旨味成分というものが出てくるので、」
ローランさんの方を見ようとしたら頬に手が伸びてきて、ユージーンさんの方を向かされる。青い目がキラキラしていて、顔面がいいだけに直視するのがちょっと辛い。
「こりゃあ、親父がずっと一緒に暮らしたいって言う筈だよ……。うわ、俺ももうイクトから片時も離れたくない……!」
ユージーンさんはそう言いながら、僕の頬を撫で回した。目が血走ってる。怖いよ。
「決めた……! 俺、暫くここにいる!」
「あ? お前なあ、イクトの負担を増やすんじゃ……」
「怪我もしてるしさ! ほら、ここ!」
そう言ってユージーンさんが指差したのは、手の甲に付いた引っかき傷。ローランさんは思い切り顔を歪ませると、「お前馬鹿か?」とこれまで僕が聞いたことのないおざなりな口調でユージーンさんに向かって言った。身内と他人の僕との差は致し方ないけど、ちょっとだけ寂しく感じる。
「なんだよ、いーじゃねーか! それにイクトは他の調味料にも興味津々なんだぞ!」
「えっ! イ、イクトが興味津々!? なんで今日会ったばっかりのお前がそんなことを知ってるんだ!」
するとユージーンさんがふふんとふんぞり返った。
「そりゃあ俺はイクトと会話が弾んだからな! 親父はあれだろ? どーせ自分の自慢話ばっかりしてイクトの話なんざろくに聞いちゃいねえんだろ?」
「ぐ……っ!」
ローランさんは詰まると、「そうだったのか?」みたいな不安そうな目で僕を見る。まあ……基本喋っているのはローランさんではあるよね。
「少し足を伸ばすのだって、冒険者の俺が付いてりゃ安全だしイクトも喜ぶだろうし」
「お前、そう言って独占しようとしてないかっ」
「うるせーうるせー。でもまあこんだけ可愛いイクトがこっちの世界で無知だからって言い包めて親父の恋人にしなかったのは偉い偉い」
「ばっ、俺はなー! そりゃ凄い可愛いとは思ってるが、そういう邪な目じゃなくてもっとなあっ!」
ポンポンと言い返し合う親子の会話。
口の中に残ったおにぎりの味。
どうしてだろう。全然違う世界にいる筈なのに。
二人とも男の人だから、母さんとは全然違うのに。
急に込み上げてきたのは、耐え難いほどの懐かしさだった。
「――えっ!? イクト!?」
最初に気付いたのは、僕の頬を撫でたままのユージーンさんだった。
次いで、ユージーンさんの目線を追ったローランさんも僕を見てぎょっとする。
「ど、どうした!?」
ユージーンさんが、急にオロオロしだした。ローランさんは立ち上がると、僕の顔を覗き込んで見当違いに慰めようとする。
「ち、違うぞ!? ユージーンとのこれは別に喧嘩じゃないからな!? ただの、そ、そう、じゃれ合い! な、ユージーン!」
「そ、そうだぞ!? ああ、泣くなよ、うわ、よしよし……っ」
「ご、ごめんなざい……っ」
なんとか謝ってはみたものの、情けない鼻声と嗚咽しか出てこない。
ユージーンさんが、あやすように僕を腕の中に引き寄せる。
「イクトはなーんも悪くない! 悪いのは親父だ!」
「えっ俺か!? ま、まあそうだ! 俺が悪い! ああ、泣くなイクト……!」
あは、なにそれ。
でも、温かいよ。
無性に母さんに会いたくなった。
「今後イクトは俺が傍にいて守ってやるからなーー!」
「お、おい! お前まさかイクトを……!」
「うっせー親父。シッシッ」
「うわ、お前実の父親に酷すぎるぞ!」
わあわあと賑やかに騒ぐ親子に挟まれ、切なくて苦しくなるほどの郷愁の思いに駆られながら。
なんでか止まってくれない涙をユージーンさんのオシャレな服に染み込ませつつ、僕はこの世界に来てから初めて心からの安堵を覚えていたのだった。
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