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9 いただきます
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「おお、今日は随分と豪華だなあ」
ローランさんが厳つい顔を穏やかに緩ませる。
「すっげえ! この家で未だかつて見たことのない美味そうな料理が並んでる!」
ユージーンさんの言葉に、ローランさんがぶすっとしてユージーンさんの頭を後ろからぽかりと叩いた。
「俺は料理が苦手なんだよっ! 悪かったな!」
「食えるギリギリの味だったもんなあ、まじで」
ユージーンさんがカラカラと笑う。
「長旅から帰ってきてクタクタなのに、『今夜はお前が作るか?』って毎回言われる俺の身にもなってくれよなあ、本当。断るとギリギリ食べ物かな? て物が出てくるし。かといって折角作ってくれた物を前にして買いに行こうかって言うのも悪いかなって気を使うしさ」
「ぐ……っ、お前、まさかそれが嫌でいつも一泊しかしなかったのか?」
日頃落ち着き払っているローランさんが、見事にやり込められている。珍しいものを見たなあ、というのが僕の率直な感想だった。親子のこの気を使わない距離感が、見ていて微笑ましい。
ユージーンさんが呆れた目でローランさんを見た。
「他に何の理由があるよ?」
「くう……っ」
ローランさんはとても悔しそうだけど、かといって言い返せないところをみるとメシマズな自覚はあるらしい。
なるほど、ユージーンさんが実家から足が遠のいている理由はご飯にあったのか、と納得する。確かに、長旅の途中で寄った実家のご飯が不味かったら足が遠のくのも仕方ないかも、と僕だって思ってしまう。
「俺も料理の才能はどうもないしさ。まあ親父よりはマシだけど。どっちが作ってもヤバいってかなりヤバいよなーうちら」
まさかのユージーンさんもメシマズタイプだったのか。おかしくなったけど、こういうのは繊細な問題だから笑わないように下を向いて堪えた。
「ユージーンの方がまだマシだろ」
「比較すればの話だろ。世間一般から言ったら同じクソマズに分類されるぞ」
「違いない」
深く頷くローランさん。否定しないところが潔い。
食卓に肘を突いたユージーンさんが、切なそうに溜息を吐いた。
「なんで不味くなるか分かんないんだよなー」
「それは俺も同じだ。不思議だと思う」
二人して首を傾げている。ぐ……っ、笑いを堪えるのが辛くなってきた。ぷぷ、苦しい……!
確かに、最初の内はローランさんがお肉を焼いてくれたりしてくれたけど、毎回焦げたり生焼けだったりと、まあ正直言って微妙な物が大半だった。結局すぐに「実は……普段は惣菜を買ってるんだ」と白状したローランさんを見兼ねて、「じゃあ僕が作りますよ。料理できるんで」って言って料理担当になったのが、ここに来て三日目のこと。懐かしい。
まあでも、お惣菜を買っても基本的には素材の味だから、グルメというのはもっともっとと渇望する人がいないと発展しないんだなあと思う。米作りを頑張る異世界人然り、岩塩をひたすら欲した僕然り。
「はい、じゃあいただきましょうね」
どうにか笑いを微笑にまで抑えると、向かいの定位置に座るローランさんと僕の横に座るユージーンさんを交互に見て、両手を合わせる。
「いただきまーす」
「いただきます」
ローランさんはすっかり僕の習慣に慣らされてしまって、当たり前のように手を合わせていただきますをした。だけどユージーンさんは「え?」みたいな顔をすると、見様見真似で手を合わせて慌てて「いただきます?」と言う。
その様子が微笑ましくて目で笑いかけると、ユージーンさんも笑い返してくれた。
ローランさんが厳つい顔を穏やかに緩ませる。
「すっげえ! この家で未だかつて見たことのない美味そうな料理が並んでる!」
ユージーンさんの言葉に、ローランさんがぶすっとしてユージーンさんの頭を後ろからぽかりと叩いた。
「俺は料理が苦手なんだよっ! 悪かったな!」
「食えるギリギリの味だったもんなあ、まじで」
ユージーンさんがカラカラと笑う。
「長旅から帰ってきてクタクタなのに、『今夜はお前が作るか?』って毎回言われる俺の身にもなってくれよなあ、本当。断るとギリギリ食べ物かな? て物が出てくるし。かといって折角作ってくれた物を前にして買いに行こうかって言うのも悪いかなって気を使うしさ」
「ぐ……っ、お前、まさかそれが嫌でいつも一泊しかしなかったのか?」
日頃落ち着き払っているローランさんが、見事にやり込められている。珍しいものを見たなあ、というのが僕の率直な感想だった。親子のこの気を使わない距離感が、見ていて微笑ましい。
ユージーンさんが呆れた目でローランさんを見た。
「他に何の理由があるよ?」
「くう……っ」
ローランさんはとても悔しそうだけど、かといって言い返せないところをみるとメシマズな自覚はあるらしい。
なるほど、ユージーンさんが実家から足が遠のいている理由はご飯にあったのか、と納得する。確かに、長旅の途中で寄った実家のご飯が不味かったら足が遠のくのも仕方ないかも、と僕だって思ってしまう。
「俺も料理の才能はどうもないしさ。まあ親父よりはマシだけど。どっちが作ってもヤバいってかなりヤバいよなーうちら」
まさかのユージーンさんもメシマズタイプだったのか。おかしくなったけど、こういうのは繊細な問題だから笑わないように下を向いて堪えた。
「ユージーンの方がまだマシだろ」
「比較すればの話だろ。世間一般から言ったら同じクソマズに分類されるぞ」
「違いない」
深く頷くローランさん。否定しないところが潔い。
食卓に肘を突いたユージーンさんが、切なそうに溜息を吐いた。
「なんで不味くなるか分かんないんだよなー」
「それは俺も同じだ。不思議だと思う」
二人して首を傾げている。ぐ……っ、笑いを堪えるのが辛くなってきた。ぷぷ、苦しい……!
確かに、最初の内はローランさんがお肉を焼いてくれたりしてくれたけど、毎回焦げたり生焼けだったりと、まあ正直言って微妙な物が大半だった。結局すぐに「実は……普段は惣菜を買ってるんだ」と白状したローランさんを見兼ねて、「じゃあ僕が作りますよ。料理できるんで」って言って料理担当になったのが、ここに来て三日目のこと。懐かしい。
まあでも、お惣菜を買っても基本的には素材の味だから、グルメというのはもっともっとと渇望する人がいないと発展しないんだなあと思う。米作りを頑張る異世界人然り、岩塩をひたすら欲した僕然り。
「はい、じゃあいただきましょうね」
どうにか笑いを微笑にまで抑えると、向かいの定位置に座るローランさんと僕の横に座るユージーンさんを交互に見て、両手を合わせる。
「いただきまーす」
「いただきます」
ローランさんはすっかり僕の習慣に慣らされてしまって、当たり前のように手を合わせていただきますをした。だけどユージーンさんは「え?」みたいな顔をすると、見様見真似で手を合わせて慌てて「いただきます?」と言う。
その様子が微笑ましくて目で笑いかけると、ユージーンさんも笑い返してくれた。
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