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6 イタズラ好き

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 地面に直置きされていた大きなリュックを片手で軽々と持つと、ユージーンさんは僕の背中を軽く押しながら言う。

「親父を驚かせたいから、俺が帰ってきたことは黙ったまま家の中に入ってくれ」
「わ、分かりました」

 ユージーンさんは随分とイタズラ好きな人みたいだ。でも久々の再会だから驚かせたいって気持ちは、僕にも分からなくはない。

 玄関のドアを開けて中に入ると、広々としたリビングがある。暖炉と布を張った長椅子があって、夜はここでローランさんと会話をして過ごしたりしていた。

 その奥に行くとキッチンがあって、四人がけのよくバーベキュー場とかにあるようなテーブルとベンチが一体型の食卓がある。

 ローランさんは温かいお茶をすすりながら、ここで書類仕事をしているところだった。

「ローランさん、ゴミを埋めてきました」
「ああ、ありがとう。そうだ、イクトも温かい茶を飲まないか? 朝晩と冷え込むようになってきたしな、万が一イクトが風邪でも引いてしまったら俺の心が休まらな……」

 書類から顔を上げたローランさんの顔が、驚きに染まる。笑顔が固まるってこういうことなんだろうなあ、とちょっとした罪悪感に襲われた。

 僕の後ろから静かについてきていたユージーンさんが、僕の両肩を掴んだ状態で僕の頭に顎を乗せる。この人、初対面なのに随分と距離が近い……あ、でも岩塩。岩塩大事。岩塩を手に入れるまでは、僕は従順に従うつもりだった。だって塩分欲しいし。

「お、おま……っ!」

 ローランさんはガタッと音を立てて立ち上がると、慌てに慌てだした。

「待て! お前まさか今のを聞いてたのか!?」
「聞いてたよー。これが本当にあの親父かって驚いていたところ」
「くそう……っ!」

 何故か悔しがるローランさん。ローランさんが落ち着いてないところなんて、初めて見たかもしれない。やっぱり親子っていいなあ、なんて二人のやり取りを聞いて思った。

 ローランさんがビシッと指を差す。

「あっ! ユージーンお前、何さり気なくイクトに接触してるんだ! イクトが汚れる! 離れろ!」
「自分の息子に対して酷くね?」
「イクト、ユージーンは節操なしだからうつったら大変だ! すぐに離れてこっちへおいで!」

 ローランさんが切羽詰まった表情で手招きをした。ユージーンさんが、くははと楽しそうに笑う。

「親父ってば馬鹿だなー。そんなんがうつるかよ。しかも節操なしって。俺は毎回真剣だったぞ? 相手が俺に飽きるだけでさあ」
「お前が冒険って聞くと相手がいるのも忘れて何ヶ月も放置するからだろうがっ」
「だって冒険ってワクワクしない?」

 ユージーンさんは僕の肩に置いていた手を僕の身体の前に回すと、人の頭に口を押し当てた。……近い。こっちの世界の人たちは人と人との距離が日本よりも大分近いから、意識しちゃいけない。平常心だ僕。うん、岩塩だよ、岩塩。

「なあイクト、岩塩見せてやるからあっち行こうぜ。それがあったら美味しい飯を作ってくれるんだろ?」
「岩塩! ……はい!」

 しまった、返事のつもりで『岩塩』と言ってしまった。

 ローランさんが、何故か寂しそうな顔になる。あ、折角ユージーンさんが帰ってきたのにさっさとどこかに行こうとしてるからかな?

 でもごめんなさい。今は岩塩を優先させて下さい。

「ま……っ」
「すみませんローランさん! 岩塩なんです!」

 こちらの世界に来てから何ヶ月もの間渇望していた調味料がすぐそこにあるのだ。異世界転移した時よりも興奮している自覚はあった。

「が、岩塩……? なんのことだ……?」

 ローランさんが首を傾げてしまったのが見えたけど、背中から抱きついたままのユージーンさんが僕ごと方向転換したので見えなくなる。

「じゃあイクト、俺の部屋に行こうか!」
「はいっ! ――あ、ローランさん! 今夜のご飯は楽しみにしていて下さいね!」
「へっ!? あ、ああ……?」

 うわあ、今夜はどんな料理にしようかな。わくわくしながら、ユージーンさんに肩を抱かれつつ彼の部屋に向かったのだった。
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