3 / 21
3 監督者のローランさん
しおりを挟む
終始無気力な僕だったけど、監督者である村長さんの家に一緒住まわせてもらっている以上は、タダ飯を喰っている訳にもいかない。
村長さんは名前をローランさんと言って、コバルトブルーの短髪に白髪が混じった厳つい五十路手前の男性だった。見た目はちょっとおっかないけど気のいいおじさんで、僕が暇を持て余しているのを見て、「手伝ってくれるか?」とニカッと笑ってやることを与えてくれた。
僕が家事全般できることを知ると、ローランさんは大喜びした。実は、家事が大の苦手だったらしい。
ローランさんは、僕が転がり込むまでひとり暮らしをしていた。元々は前村長のお父さんと奥さんとの三人暮らしをしていたけど、奥さんが子供を産んですぐに儚くなってしまった。とっても元気な息子さんを男二人で必死に育てていたけど、息子さんの年齢が二桁になった頃に、ローランさんのお父さんがぽっくり逝ってしまう。
ローランさんは村長の仕事と段々と反抗期に差し掛かってきてしまった息子の対応に追われ、目まぐるしい日々を過ごしたらしい。聞いているだけで頭がくらくらしてきた。
そんな息子さんはお年頃になると、「こんな田舎で燻ってなんかいられない! 俺は冒険者になって華々しく凱旋してやる!」といずれは村長を譲り受ける意志をそこはかとなく匂わした発言をした後、本当に家を出て冒険者になってしまった。行動派ってすごいと思う。僕には無理だ。
以降、息子さんは年に一度くらいフラッと戻ってきては顔を見せてすぐに立ち去ってしまうみたいだけど、前回帰ってきた時は中級冒険者から上級冒険者へランクアップしたと言っていたらしい。有言実行の人なんだろう。
「都会に毒されたのか、やけに派手な服装になってたのは驚いたけどなあ」
と酒をちびちび飲みながら笑うローランさんの顔は、自慢の息子を語るお父さんの顔だった。ちなみに僕と住む前までは大酒飲みだったらしいけど、僕の母さんが酒が原因の病気で亡くなったと聞いて以来、飲む量を減らすようになった。優しい人なんだ、ローランさんって。
「僕にはこの先何かを成し遂げられるとも思えないから、行動的な息子さんは心底尊敬しちゃいますよ」
どうしてこの世界に転移されてきたのかは、誰にも分からない。こちらの世界の人は「女神様の采配で意味があるもの」だって口を揃えて言うけど、すでに僕の心は元の世界で空っぽになってしまっている。空っぽな僕にこの世界でできることなんて、たかが知れてるだろう。
この世界で、僕の存在に意味なんてきっとない。あったとしても、和食をもうちょっと広めて欲しいとか、料理の幅をもう少し改善してほしいとか、そんなことしか思いつかなかった。
まあ、それならちょっとは協力できるかもしれないけど。
元の世界での僕の状況を聞いていたローランさんが、同情したような笑みを浮かべる。
「イクト。今はまだ未来のことは考えられないかもしれないけどな、イクトはまだまだ若い。この先沢山出会いがあって、色んな経験ができる」
だから死期を悟った老人のような目をするなよ。
ローランさんに頭を撫でられながら言われて、どう返答すべきか迷った僕は、無言で小さく頷き返した。
村長さんは名前をローランさんと言って、コバルトブルーの短髪に白髪が混じった厳つい五十路手前の男性だった。見た目はちょっとおっかないけど気のいいおじさんで、僕が暇を持て余しているのを見て、「手伝ってくれるか?」とニカッと笑ってやることを与えてくれた。
僕が家事全般できることを知ると、ローランさんは大喜びした。実は、家事が大の苦手だったらしい。
ローランさんは、僕が転がり込むまでひとり暮らしをしていた。元々は前村長のお父さんと奥さんとの三人暮らしをしていたけど、奥さんが子供を産んですぐに儚くなってしまった。とっても元気な息子さんを男二人で必死に育てていたけど、息子さんの年齢が二桁になった頃に、ローランさんのお父さんがぽっくり逝ってしまう。
ローランさんは村長の仕事と段々と反抗期に差し掛かってきてしまった息子の対応に追われ、目まぐるしい日々を過ごしたらしい。聞いているだけで頭がくらくらしてきた。
そんな息子さんはお年頃になると、「こんな田舎で燻ってなんかいられない! 俺は冒険者になって華々しく凱旋してやる!」といずれは村長を譲り受ける意志をそこはかとなく匂わした発言をした後、本当に家を出て冒険者になってしまった。行動派ってすごいと思う。僕には無理だ。
以降、息子さんは年に一度くらいフラッと戻ってきては顔を見せてすぐに立ち去ってしまうみたいだけど、前回帰ってきた時は中級冒険者から上級冒険者へランクアップしたと言っていたらしい。有言実行の人なんだろう。
「都会に毒されたのか、やけに派手な服装になってたのは驚いたけどなあ」
と酒をちびちび飲みながら笑うローランさんの顔は、自慢の息子を語るお父さんの顔だった。ちなみに僕と住む前までは大酒飲みだったらしいけど、僕の母さんが酒が原因の病気で亡くなったと聞いて以来、飲む量を減らすようになった。優しい人なんだ、ローランさんって。
「僕にはこの先何かを成し遂げられるとも思えないから、行動的な息子さんは心底尊敬しちゃいますよ」
どうしてこの世界に転移されてきたのかは、誰にも分からない。こちらの世界の人は「女神様の采配で意味があるもの」だって口を揃えて言うけど、すでに僕の心は元の世界で空っぽになってしまっている。空っぽな僕にこの世界でできることなんて、たかが知れてるだろう。
この世界で、僕の存在に意味なんてきっとない。あったとしても、和食をもうちょっと広めて欲しいとか、料理の幅をもう少し改善してほしいとか、そんなことしか思いつかなかった。
まあ、それならちょっとは協力できるかもしれないけど。
元の世界での僕の状況を聞いていたローランさんが、同情したような笑みを浮かべる。
「イクト。今はまだ未来のことは考えられないかもしれないけどな、イクトはまだまだ若い。この先沢山出会いがあって、色んな経験ができる」
だから死期を悟った老人のような目をするなよ。
ローランさんに頭を撫でられながら言われて、どう返答すべきか迷った僕は、無言で小さく頷き返した。
12
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
[長編版]異世界転移したら九尾の子狐のパパ認定されました
ミクリ21
BL
長編版では、子狐と主人公加藤 純也(カトウ ジュンヤ)の恋愛をメインにします。(BL)
ショートショート版は、一話読み切りとなっています。(ファンタジー)
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました
及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。
※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
神獣様の森にて。
しゅ
BL
どこ、ここ.......?
俺は橋本 俊。
残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。
そう。そのはずである。
いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。
7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる