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3 監督者のローランさん

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 終始無気力な僕だったけど、監督者である村長さんの家に一緒住まわせてもらっている以上は、タダ飯を喰っている訳にもいかない。

 村長さんは名前をローランさんと言って、コバルトブルーの短髪に白髪が混じった厳つい五十路手前の男性だった。見た目はちょっとおっかないけど気のいいおじさんで、僕が暇を持て余しているのを見て、「手伝ってくれるか?」とニカッと笑ってやることを与えてくれた。

 僕が家事全般できることを知ると、ローランさんは大喜びした。実は、家事が大の苦手だったらしい。

 ローランさんは、僕が転がり込むまでひとり暮らしをしていた。元々は前村長のお父さんと奥さんとの三人暮らしをしていたけど、奥さんが子供を産んですぐに儚くなってしまった。とっても元気な息子さんを男二人で必死に育てていたけど、息子さんの年齢が二桁になった頃に、ローランさんのお父さんがぽっくり逝ってしまう。

 ローランさんは村長の仕事と段々と反抗期に差し掛かってきてしまった息子の対応に追われ、目まぐるしい日々を過ごしたらしい。聞いているだけで頭がくらくらしてきた。

 そんな息子さんはお年頃になると、「こんな田舎で燻ってなんかいられない! 俺は冒険者になって華々しく凱旋してやる!」といずれは村長を譲り受ける意志をそこはかとなく匂わした発言をした後、本当に家を出て冒険者になってしまった。行動派ってすごいと思う。僕には無理だ。

 以降、息子さんは年に一度くらいフラッと戻ってきては顔を見せてすぐに立ち去ってしまうみたいだけど、前回帰ってきた時は中級冒険者から上級冒険者へランクアップしたと言っていたらしい。有言実行の人なんだろう。

「都会に毒されたのか、やけに派手な服装になってたのは驚いたけどなあ」

 と酒をちびちび飲みながら笑うローランさんの顔は、自慢の息子を語るお父さんの顔だった。ちなみに僕と住む前までは大酒飲みだったらしいけど、僕の母さんが酒が原因の病気で亡くなったと聞いて以来、飲む量を減らすようになった。優しい人なんだ、ローランさんって。

「僕にはこの先何かを成し遂げられるとも思えないから、行動的な息子さんは心底尊敬しちゃいますよ」

 どうしてこの世界に転移されてきたのかは、誰にも分からない。こちらの世界の人は「女神様の采配で意味があるもの」だって口を揃えて言うけど、すでに僕の心は元の世界で空っぽになってしまっている。空っぽな僕にこの世界でできることなんて、たかが知れてるだろう。

 この世界で、僕の存在に意味なんてきっとない。あったとしても、和食をもうちょっと広めて欲しいとか、料理の幅をもう少し改善してほしいとか、そんなことしか思いつかなかった。

 まあ、それならちょっとは協力できるかもしれないけど。

 元の世界での僕の状況を聞いていたローランさんが、同情したような笑みを浮かべる。

「イクト。今はまだ未来のことは考えられないかもしれないけどな、イクトはまだまだ若い。この先沢山出会いがあって、色んな経験ができる」

 だから死期を悟った老人のような目をするなよ。

 ローランさんに頭を撫でられながら言われて、どう返答すべきか迷った僕は、無言で小さく頷き返した。
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