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2 ホームシックは味覚から

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 染料を使ったような色鮮やかな髪色を持つ人々が住む世界。

 空には小型竜の影が見えるし、人々の手からは魔法によって様々なものが生み出される。

『精霊の森』にある小さな泉の横。そこで呑気に寝ていたのが、僕だったそうだ。

 この世界には時折異世界転移者が現れることがあって、世界各地に発現スポットがあるらしい。僕がいる国にもそういった場所が何箇所かあって、毎日兵隊さんが巡回して異世界人が現れてないかチェックをしている。

 年端も行かない子が転移してくることもあれば、怪我人が転移してくることもある。中には時折とんでもない奴もいて、何度かこの辺りに危機が訪れたこともあったとか。

 まあ色んな人がいるしね、というのが僕の率直な感想だった。

 近くの村がカリスマ性があった異世界人を頭領とした犯罪者集団のアジトになりかけて、「異世界人は監視及び管理すべき」との方針が定まったのが十年前のこと。ちなみに集団は今はもうなくて、その異世界人も処刑されたそうだ。仲間に引き入れられなくてよかったと思う。荒々しいのは苦手だし。

 まあそんな訳で、巡回した兵隊さんに保護された僕は、ここが異世界であることと、今後はこの国の監視下に置かれて生活を送ることになると説明された。転移者は数年に一度くらいの頻度で現れるらしくて、向こうは手慣れていて結構事務的なのが助かった。

 漫画やラノベでよく見かけるような「異世界召喚して勇者や聖女にさせられる」なんてことがあったら、覇気を全て元の世界に置いてきた僕には対処できる気がしなかったから。

 僕の見た目がひょろひょろで、何を言われても終始「はあ」とか「そうなんですねえ」なんて間抜けな返答しかできなかったからか。監視はついているものの、早々に「こいつは放っておいても大丈夫」だと認識されたっぽい。

 その後すぐに、精霊の泉からはちょっと離れた場所にある村に連れて行かれ、「ここに住むように」と村長に引き渡されて、兵隊さんとはさよならをした。

 異世界人ひとりひとりには監督者がつき、異世界人同士の交流は監督者同士の許可制となっている。ちなみに他にも日本人が何人かいると聞いて僕が最初に思ったのは、「誰か醤油を作ってないかな」だった。なんだったらお味噌でもいい。

 こちらの世界は、どちらかと言わなくても西洋風といえば聞こえがいいけど、焼く、タレかける、以上! みたいなシンプルレシピが殆どを占めていたからだ。

 野菜と肉を使った煮込み料理は出汁が出るからまだいいけど、他は基本的に素材の味。旨味成分を味わえる日本人からしてみたら、どうしたって物足りなさが残る。

 元の世界に未練は何ひとつ残してきていないと思っていた。唯一大切だった母さんはあの世にいるし、と思っていた時が僕にもありました。

「……和食食べたい」

 はあー、と大きな溜息と共に、ぼやきが漏れる。

 ホームシックというのは、味覚からくるものなのかもしれない。

 異世界にきて、僕が学んだことだった。
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