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103 誤解

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 僕が寝ている時に、アリが僕の身体を触っていた……?

 凹んだ様子のアリが、吐露する。

「ルカが俺に触られることを嫌がるようになったのに、俺はルカが起きないのをいいことに毎晩キスをし、抱きつき、あまつさえルカの胸や性器にも触れ、心ゆくまま存分に堪能してしまった……!」
「え、ちょ、」

 ま、待って……じゃあもしかして、僕がいつも見ていた卑猥な夢ってまさか夢じゃなくて――現実に起きていたことだったのか! あ、だからアリといないとあの夢を見なかった!? ていうか性器って! 確かに夢の中のアリに沢山触られてたけども! しかも堪能!? 僕を堪能したの!?

 アリが続ける。

「いつもはルカがイくと綺麗に拭き取って痕跡を消していた……!」
「嘘でしょ」

 道理でイッた夢を見ても下着が汚れてない筈だよ。

「嘘じゃない……! あと、ルカがトイレの中で自慰をする声を、いつもトイレの扉に耳を当てて聞いていた!」
「は」

 なんてこったい。「あと」ってさり気なく付け加えていたけど、それはちょっと待って。え、僕が感じてる声を聞いてたの? 扉に耳を当てて?

 懺悔の予想外の内容に、頭の中が真っ白になってしまった。何をどう返せばいいのかがさっぱり分からない。僕は今一体何を懺悔されているんだ……?

 アリが僕の前の床に膝を突く。僕の両手を握り締めると、潤んだ瞳で僕を見つめながら言った。

「俺は大嘘吐きの最低な男だ。ルカが思っていたような立派な人間なんかじゃない。しかも臆病で、今回だってルカを失うのが怖くて『身体が治ったら言おう』と先延ばしにしていた」
「ん? 今回?」
「だけどひとつだけ信じてほしいんだ」
「な、なにを……?」
「俺はルカに初めて会った時に、ルカに恋した。それからずっとルカに恋している。ルカに対する愛の大きさだけは誰にも負けない。本当なんだ、信じてくれ!」
「え? アリが僕に……恋してる……?」

 そんな、嘘だ。じゃあ今まで僕がやってきたことって一体――。

 とそこまで考えて、僕はアリの言葉の中に矛盾点を見つけてしまった。

 ……なんだ。やっぱり僕に恋なんかしてないじゃないか。きっとアリは僕という親友を失いたくなくて、それで自分も恋をしてるなんて嘘を吐いてしまったんだ。こんな酷い嘘を吐かせてしまったのも、僕がアリに恋してるなんて言ってしまったからだ。なら、あんなことは言わなきゃよかった。

「……ルカ?」

 不安げな眼差しで、アリが僕を見つめている。

 笑え、僕。笑ってしまえ。そうすればきっと、アリも「そうだ、冗談だった」って言ってくれる筈だから。

 震えそうになりながら、必死で口角を上げた。

「や、やだなあ……っ。そんな嘘吐いても、僕には分かるよ?」

 アリの目が大きく見開かれる。

「ルカ? ま、待ってくれ! これに関しては俺は嘘なんて……!」
「――だって!」

 あ、嫌だな。泣くつもりなんてなかったのに、勝手に涙が出てくる。アリと喧嘩別れなんて絶対嫌なのに、アリを責めるようなことなんて言いたくないのに、止まらない。

「だって、アリは一度だって僕に……欲情してくれなかったじゃないか!」
「えっ!? し、した! いつだってしていた!」
「だって僕に抱きついてもキスしても、絶対勃たなかったじゃないか!」

 途端、アリの顔がぐしゃりと歪んだ。ああ、やっぱり――、という諦観に襲われて、自暴自棄になってくる。

「相手に性欲を感じるって恋愛対象だってことだって聞いたんだ! 僕はアリに触れられるといっつも反応して、僕がアリのことをそういう目で見てるのを知られるのが怖くて、いつだって怯えてた!」
「待てルカ! 誰にそんなことを」
「クリストフ先輩が言ってたんだよ! だからアリが反応してなかったのって、僕が恋愛対象じゃないからじゃないか! なのにそんな嘘まで吐いて、さすがに僕だって怒るよ!?」
「――違う!」

 アリの大声に、ビクッと反応してしまった。アリが悲痛な表情で訴える。

「違う、違うんだルカ!」
「何が違うんだよっ」

 アリの手を振りほどこうとしても、逆に強く握られてしまった。

「それは俺が臆病だったせいなんだ! 俺は天使のような無垢なルカを汚していっている自分の欲深さが怖かった! いつルカに俺の邪な性欲まみれの想いがバレるかと、俺がルカを深く愛していると知ったら俺を軽蔑するんじゃないかと思ったら怖くて、取り繕うのに必死だったんだ!」
「ど、どういうことだよ……っ」

 アリが胸を僕の膝にくっつけてくる。真っ直ぐすぎる視線に、目が逸らせなくなっていた。

「俺は……! 俺は、ルカが風呂に行っている間、空っぽになるまで毎日出し切ってたんだッ!」
「――はい?」

 ちょっと待って、アリは今何の話を……?

 アリが泣きながら言い募る。

「ルカに後ろから抱きついている時に股間を硬くしたら、ルカはもう二度と俺に抱き締めさせてくれないかもしれない! そう考えたら恐ろしくて、毎日ルカが戻って来るまでに空っぽにして、ルカに抱きついても勃つことがないようにしていたんだ!」
「嘘でしょ」

 最後の最後にとんでもない事実が判明したよ。

「嘘じゃない! ルカの私物に頬擦りするだけでいくらでも達することができた!」
「いや待ってそういうことを言ってるんじゃなくて……」

 え、待って。私物ってどれとか聞きたいけど、そうじゃなくて。だって、それじゃアリは本当に僕のことを……?

 アリがキッと睨むように僕を見た。

「本当だ、信じてくれ! 俺はいつだってルカを抱きたいと思っている!」
「え」
「俺がルカ相手に勃たないと疑っているのなら、それが事実じゃないことを今ここで証明してみせる!」
「しょ、証明って」

 アリが、僕の手をアリの口元に引き寄せてキスをする。

「で、でも、僕のことが好きだなんてやっぱり信じられないよ……エルフリーデさんとの噂の時だってアリは否定しなかったじゃないか……!」

 すると、アリがきょとんとした顔になった。

「噂? なんだそれは」
「へ? だから、アリがエルフリーデさんと恋仲でっていう……否定もしないから、だから僕はてっきり」
「……すまない。その噂を全く把握していないんだが、いつの話だ……?」
「嘘でしょ」
「すまない」

 アリが情けなく眉を垂らす。

「俺は基本グスタフとしか会話をしていなかったからな。グスタフはあの通りで、人の話なんぞろくに聞かないで寝てるか食ってるかだけだったし」
「あの人、本当はネムリバナなくても全然平気だよね」
「それは間違いない」

 アリが深く頷いた。

 ……でも、そっか。そうだったんだ。言われてみれば、アリって他の人と全然会話なんてしなかったもんね。そもそも噂を知らなかったとか、はは、あはは……。

「これで信じてくれるか?」
「アリ……」
「ルカ。証明させてくれ。今すぐルカを抱きたい」

 僕の頬を、涙がひと筋伝っていく。

「うん、アリ――んっ」

 アリは僕を寝台に押し倒すと、荒々しいキスをしてきた。
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