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75 濡れ衣を着せる
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僕が「友達とのキス」なんて言い出したので、クリストフ先輩に思い切り怪しまれてしまった。
「ねえルカ。誰が君に『友達はキスをする』なんて唆したの?」
先輩の笑顔が怖い。
僕は心の中で「兄様ごめんなさい!」と先に謝った。兄様のこれまでの行いのお陰でこうして誤魔化せることについては、かなり複雑な心境だけど、今は感謝だ。
「に、兄様が……っ! あの、友達に抜き合いっこに誘われることがあるとか、その、色々と……っ」
「リヒャルト先輩……」
先輩が遠い目になった。うう……罪悪感……!
先輩が、深い溜息を吐く。
「あのね、ルカ。リヒャルト先輩が何を言おうが、ただの友達とはキスなんてしないから」
「はい」
僕は素直に答えると、先輩はくしゃりとした笑顔でもう一度僕の頭を撫でてくれたのだった。
◇
恋を自覚した瞬間、僕は失恋した。
勿論、凄く悲しくはあった。だけど、僕にはアリと過ごした四年半の思い出がある。この先は以前ほどの距離ではいられないけど、でもまだあと一年半アリの隣に堂々と立っていられる。
だから、僕はまだ幸せな方なんだと思うことにした。想いは通じ合わずとも、普通の友達だったらしないだろうことも沢山経験させてもらえたんだから。
だけど、『親友のキス』が普通ではないことを、アリに将来他の親友ができた時にキスを迫ってしまうことがないように、釘を刺しておかなければならない。
だけど、どうやって切り出せばいいんだよ……! と頭を抱えていたら、僕の些細な変化に目敏いアリが、心配そうに尋ねてきた。
「ルカ。何か悩み事でもあるのか? 俺たちは親友だろう? 何でも話してほしい」
あんなに冷たく突き放してしまったというのに、アリはやっぱり底抜けに優しい。
「あ、あのね……」
クリストフ先輩に聞いたことだけは絶対バレないように、級友たちの話の流れで知ってしまったという風に取り繕いながら説明した。
説明を終える頃には、アリは驚愕の表情になっていた。
「そう……だったのか……?」
「やっぱりアリも知らなかったんだ?」
神妙な表情で、アリが頷く。
「以前、家にある古い本で読んでいたんだ。だから信じ切っていたんだが、ひょっとするとあれは他国の習慣を書き綴ったものだったのかもしれない」
「あ、なるほど! そういうことだったのか!」
なんだ! アリが嘘を吐く筈がないから不思議に思っていたけど、それならば僕も理解できる。
「うちは父様が宰相補佐を務めているせいで、訳書が多くてな……。悪かった」
僕は慌ててブンブン首を横に振る。
「ううんっ! 僕は全然! むしろアリに申し訳なかったなって、」
「そんなことはない。嫌だなんて一度も思ったことはない。この命に誓う」
おっと、久々にアリの重ーい発言がきたぞ。命は大袈裟だってば。
――でも、嬉しい。アリはそれでも僕としたのは嫌じゃなかったんだ。へへ。
「……そっか。ならよかった」
「それは俺の台詞だ」
アリの青い瞳が、僕を真っ直ぐに見つめる。……どうしよう。逸らせない。
アリの顔が、少しずつ近付いてくる。ダメだ、このままだとキスしてしまう。折角突き放したのに――……。
お互いの吐息だけが吸える距離に来たところで、ハッと我に返った。
「あっ、そ、そうだ! 新しい香水ができたんだ! 渡すのを忘れてた!」
急いで立ち上がる。アリは真顔のままだったけど、どこか寂しげだった。
……できることなら、抱き締めてあげたい。だけどアリにはエルフリーデ嬢という、僕は取って代われない愛する人がいるから。
「――でね、今回はネムリバナの他にも少し足してみたものがあってね!」
無理やり笑顔を作りながら話題を切り替える。
居た堪れない雰囲気を払拭しようと、懸命に明るく振る舞うしかなかった。
「ねえルカ。誰が君に『友達はキスをする』なんて唆したの?」
先輩の笑顔が怖い。
僕は心の中で「兄様ごめんなさい!」と先に謝った。兄様のこれまでの行いのお陰でこうして誤魔化せることについては、かなり複雑な心境だけど、今は感謝だ。
「に、兄様が……っ! あの、友達に抜き合いっこに誘われることがあるとか、その、色々と……っ」
「リヒャルト先輩……」
先輩が遠い目になった。うう……罪悪感……!
先輩が、深い溜息を吐く。
「あのね、ルカ。リヒャルト先輩が何を言おうが、ただの友達とはキスなんてしないから」
「はい」
僕は素直に答えると、先輩はくしゃりとした笑顔でもう一度僕の頭を撫でてくれたのだった。
◇
恋を自覚した瞬間、僕は失恋した。
勿論、凄く悲しくはあった。だけど、僕にはアリと過ごした四年半の思い出がある。この先は以前ほどの距離ではいられないけど、でもまだあと一年半アリの隣に堂々と立っていられる。
だから、僕はまだ幸せな方なんだと思うことにした。想いは通じ合わずとも、普通の友達だったらしないだろうことも沢山経験させてもらえたんだから。
だけど、『親友のキス』が普通ではないことを、アリに将来他の親友ができた時にキスを迫ってしまうことがないように、釘を刺しておかなければならない。
だけど、どうやって切り出せばいいんだよ……! と頭を抱えていたら、僕の些細な変化に目敏いアリが、心配そうに尋ねてきた。
「ルカ。何か悩み事でもあるのか? 俺たちは親友だろう? 何でも話してほしい」
あんなに冷たく突き放してしまったというのに、アリはやっぱり底抜けに優しい。
「あ、あのね……」
クリストフ先輩に聞いたことだけは絶対バレないように、級友たちの話の流れで知ってしまったという風に取り繕いながら説明した。
説明を終える頃には、アリは驚愕の表情になっていた。
「そう……だったのか……?」
「やっぱりアリも知らなかったんだ?」
神妙な表情で、アリが頷く。
「以前、家にある古い本で読んでいたんだ。だから信じ切っていたんだが、ひょっとするとあれは他国の習慣を書き綴ったものだったのかもしれない」
「あ、なるほど! そういうことだったのか!」
なんだ! アリが嘘を吐く筈がないから不思議に思っていたけど、それならば僕も理解できる。
「うちは父様が宰相補佐を務めているせいで、訳書が多くてな……。悪かった」
僕は慌ててブンブン首を横に振る。
「ううんっ! 僕は全然! むしろアリに申し訳なかったなって、」
「そんなことはない。嫌だなんて一度も思ったことはない。この命に誓う」
おっと、久々にアリの重ーい発言がきたぞ。命は大袈裟だってば。
――でも、嬉しい。アリはそれでも僕としたのは嫌じゃなかったんだ。へへ。
「……そっか。ならよかった」
「それは俺の台詞だ」
アリの青い瞳が、僕を真っ直ぐに見つめる。……どうしよう。逸らせない。
アリの顔が、少しずつ近付いてくる。ダメだ、このままだとキスしてしまう。折角突き放したのに――……。
お互いの吐息だけが吸える距離に来たところで、ハッと我に返った。
「あっ、そ、そうだ! 新しい香水ができたんだ! 渡すのを忘れてた!」
急いで立ち上がる。アリは真顔のままだったけど、どこか寂しげだった。
……できることなら、抱き締めてあげたい。だけどアリにはエルフリーデ嬢という、僕は取って代われない愛する人がいるから。
「――でね、今回はネムリバナの他にも少し足してみたものがあってね!」
無理やり笑顔を作りながら話題を切り替える。
居た堪れない雰囲気を払拭しようと、懸命に明るく振る舞うしかなかった。
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