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48 三学年前期終了
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三学年前期の結果が出た。
アリは、いつも通り堂々の首位。僕はというと、全体的に少し落としてしまって七位止まりだった。
でも、ネムリバナの香り抽出にかなりの時間を割いてしまったのが原因なのは分かっていたので、僕自身に後悔はない。それに、奨学金が貰える十位以内にはちゃんと入ってるしね!
そして、明日はいよいよ帰省という日の夜。
食事も風呂も終えて、布団に横になり僕が来るのを待っているアリに、僕はネムリバナ同盟の叡智と努力の結晶であるネムリバナの精油が入った小瓶を手渡した。
「アリ。少し早いけど、これ、僕からの十五歳の誕生日プレゼント。受け取ってくれる?」
「えっ?」
アリは、まさか誕生日を迎える前に僕がプレゼントを用意しているとは考えていなかったみたいだ。驚いたように目を瞠りながらも、すぐに嬉しそうにはにかんだ笑顔を見せてくれた。
アリが、チャプン、と透明の液体が入った硝子瓶を軽く振る。
「それで……ルカ。これは?」
よくぞ聞いてくれました! 僕は満面の笑みになると、興奮気味に語り始めた。
「聞いて聞いて! これはね、ネムリバナから作った精油なんだよ!」
「精油……?」
精油が何なのかが分からないんだろう。首を傾げているアリに、精油とはどういうものかをざっと説明する。
「今回もゲロルドさんに沢山協力して貰ったんだよ」
「そうか……いつもゲロルドさんには頭が上がらないな」
感極まった様子のアリが、涙ぐみながら僕の手をそっと握った。持ち上げられた僕の手に、アリが愛おしげに頬を擦り付ける。ふふ、ここまで喜んでくれるなんて、頑張った甲斐があるなあ。
「ほら、休みの間は会えないことも、ネムリバナを摘めない時もあったでしょ? だから何か方法はないかなって考えてたんだよね」
「それで俺の為にここまで……? ああ、ルカはなんて優しい心の持ち主なんだ……!」
「だって、アリは僕の親友じゃないか! アリのことを一番に考えるのは当然でしょ?」
「ああ、ルカ、俺は今この瞬間死んでもいい……!」
いや、死なないで。僕の努力を無駄にしないで、お願いだから。
アリは僕の手をぐいっと引っ張り寄せると、体勢を崩した僕を膝の上に乗せ、ぎゅう、ときつく抱き締めた。僕もアリの身体に腕を回して、キュッとくっついて隙間を埋める。
「俺は……世界一幸せだ」
「へへ、こんなに喜んでくれて、僕もものすごく嬉しいよ」
本当だったら、功労者のひとりであるクリストフ先輩の協力がなければ叶わなかったとアリにも伝えたかった。だけど、クリストフ先輩に「絶対にアルフレートにボクが関わってるって言わないでね!? 頼むからお願いだよ!」って必死な形相で言われちゃったんだよね。
アリは全然怖くないよっていくら伝えても、ちっとも信じてくれない。アリの方こそ天使様じゃないかって思っちゃうくらい、優しくて可愛いのになあ。
アリの真顔にも色々違いがあると力説してみたけど、引き攣り笑いで目を逸らされただけだった。本当、先輩ってばアリと何があったの?
「それで使い方なんだけどね――」
と、いつも花びらを浮かせているのと同じ程度の水に二、三滴垂らして使えばいいと説明する。僕が説明している間中、アリがずっと唇に啄むようなキスを落としてくるから、説明に時間がかかっちゃったよ。
「だけど、正直まだこれって実験段階のものなんだ。実際の使い心地がどうだったのか、休み明けに教えてくれたら嬉しいな」
「勿論だ。きちんと報告する。絶対だ」
アリは真剣な眼差しで深く頷くと、僕を布団に押し倒して上に跨り、深いキスを始めた。半年間の苦労が報われて肩の力が抜けた僕は、そのままアリの熱烈なキスを甘受することにした。アリとのキスは、僕へのご褒美でもあるから。
なお、僕がこんなにも性急にアリに精油を手渡したのには、ちゃんと理由がある。
実は今回の冬季休暇は、僕とアリは別々に過ごすことが既に決まっていた。
アリは再び、ユーネル侯爵の視察についていく。行き先は、去年視察に行ったバルツァー子爵家の領地だ。
去年はちゃんとした商売になるかの検討と、試作品を確認してからの契約締結の為に行った。今年は本格的に量産に移行するそうで、製造工程がきちんと管理されているかの確認が、今回の視察の主だった内容なんだって。
「去年は途中から失敗して、もう駄目かと思っていた。だが、今年も父様に声をかけていただけた……! 今年こそ、ちゃんと期待に応えたいと思う」
「ん……、アリなら大丈夫だよ、絶対うまくいくから気負わず頑張って!」
「……本当は、ルカも連れて行きたい」
アリが、熱くなった息を吐きながら、切なそうに言った。僕の庇護欲が、キュンという心臓の小さな痛みと共に溢れ出す。
「僕も、アリがいないとものすごく寂しいよ。でも、我慢する。アリのいい報告を新学期に聞けることを、楽しみにしてるからね!」
「ルカ……! 俺の天使様……!」
アリが、上から体重を乗せてくる。重いけど、アリを支えているのが僕なんだと思うと、多幸感で頭がおかしくなりそうだった。
アリの首に腕を回して、今度は自分から唇を重ねていく。
「アリ、休みの間寂しくならないように、もっとぎゅってして……」
「! ああルカ、勿論だ! 今日はずっとこのまま……!」
「嬉しい……っ」
アリは宣言通り、朝までずっと僕をキツく抱き締め、離さないでいてくれたのだった。
アリは、いつも通り堂々の首位。僕はというと、全体的に少し落としてしまって七位止まりだった。
でも、ネムリバナの香り抽出にかなりの時間を割いてしまったのが原因なのは分かっていたので、僕自身に後悔はない。それに、奨学金が貰える十位以内にはちゃんと入ってるしね!
そして、明日はいよいよ帰省という日の夜。
食事も風呂も終えて、布団に横になり僕が来るのを待っているアリに、僕はネムリバナ同盟の叡智と努力の結晶であるネムリバナの精油が入った小瓶を手渡した。
「アリ。少し早いけど、これ、僕からの十五歳の誕生日プレゼント。受け取ってくれる?」
「えっ?」
アリは、まさか誕生日を迎える前に僕がプレゼントを用意しているとは考えていなかったみたいだ。驚いたように目を瞠りながらも、すぐに嬉しそうにはにかんだ笑顔を見せてくれた。
アリが、チャプン、と透明の液体が入った硝子瓶を軽く振る。
「それで……ルカ。これは?」
よくぞ聞いてくれました! 僕は満面の笑みになると、興奮気味に語り始めた。
「聞いて聞いて! これはね、ネムリバナから作った精油なんだよ!」
「精油……?」
精油が何なのかが分からないんだろう。首を傾げているアリに、精油とはどういうものかをざっと説明する。
「今回もゲロルドさんに沢山協力して貰ったんだよ」
「そうか……いつもゲロルドさんには頭が上がらないな」
感極まった様子のアリが、涙ぐみながら僕の手をそっと握った。持ち上げられた僕の手に、アリが愛おしげに頬を擦り付ける。ふふ、ここまで喜んでくれるなんて、頑張った甲斐があるなあ。
「ほら、休みの間は会えないことも、ネムリバナを摘めない時もあったでしょ? だから何か方法はないかなって考えてたんだよね」
「それで俺の為にここまで……? ああ、ルカはなんて優しい心の持ち主なんだ……!」
「だって、アリは僕の親友じゃないか! アリのことを一番に考えるのは当然でしょ?」
「ああ、ルカ、俺は今この瞬間死んでもいい……!」
いや、死なないで。僕の努力を無駄にしないで、お願いだから。
アリは僕の手をぐいっと引っ張り寄せると、体勢を崩した僕を膝の上に乗せ、ぎゅう、ときつく抱き締めた。僕もアリの身体に腕を回して、キュッとくっついて隙間を埋める。
「俺は……世界一幸せだ」
「へへ、こんなに喜んでくれて、僕もものすごく嬉しいよ」
本当だったら、功労者のひとりであるクリストフ先輩の協力がなければ叶わなかったとアリにも伝えたかった。だけど、クリストフ先輩に「絶対にアルフレートにボクが関わってるって言わないでね!? 頼むからお願いだよ!」って必死な形相で言われちゃったんだよね。
アリは全然怖くないよっていくら伝えても、ちっとも信じてくれない。アリの方こそ天使様じゃないかって思っちゃうくらい、優しくて可愛いのになあ。
アリの真顔にも色々違いがあると力説してみたけど、引き攣り笑いで目を逸らされただけだった。本当、先輩ってばアリと何があったの?
「それで使い方なんだけどね――」
と、いつも花びらを浮かせているのと同じ程度の水に二、三滴垂らして使えばいいと説明する。僕が説明している間中、アリがずっと唇に啄むようなキスを落としてくるから、説明に時間がかかっちゃったよ。
「だけど、正直まだこれって実験段階のものなんだ。実際の使い心地がどうだったのか、休み明けに教えてくれたら嬉しいな」
「勿論だ。きちんと報告する。絶対だ」
アリは真剣な眼差しで深く頷くと、僕を布団に押し倒して上に跨り、深いキスを始めた。半年間の苦労が報われて肩の力が抜けた僕は、そのままアリの熱烈なキスを甘受することにした。アリとのキスは、僕へのご褒美でもあるから。
なお、僕がこんなにも性急にアリに精油を手渡したのには、ちゃんと理由がある。
実は今回の冬季休暇は、僕とアリは別々に過ごすことが既に決まっていた。
アリは再び、ユーネル侯爵の視察についていく。行き先は、去年視察に行ったバルツァー子爵家の領地だ。
去年はちゃんとした商売になるかの検討と、試作品を確認してからの契約締結の為に行った。今年は本格的に量産に移行するそうで、製造工程がきちんと管理されているかの確認が、今回の視察の主だった内容なんだって。
「去年は途中から失敗して、もう駄目かと思っていた。だが、今年も父様に声をかけていただけた……! 今年こそ、ちゃんと期待に応えたいと思う」
「ん……、アリなら大丈夫だよ、絶対うまくいくから気負わず頑張って!」
「……本当は、ルカも連れて行きたい」
アリが、熱くなった息を吐きながら、切なそうに言った。僕の庇護欲が、キュンという心臓の小さな痛みと共に溢れ出す。
「僕も、アリがいないとものすごく寂しいよ。でも、我慢する。アリのいい報告を新学期に聞けることを、楽しみにしてるからね!」
「ルカ……! 俺の天使様……!」
アリが、上から体重を乗せてくる。重いけど、アリを支えているのが僕なんだと思うと、多幸感で頭がおかしくなりそうだった。
アリの首に腕を回して、今度は自分から唇を重ねていく。
「アリ、休みの間寂しくならないように、もっとぎゅってして……」
「! ああルカ、勿論だ! 今日はずっとこのまま……!」
「嬉しい……っ」
アリは宣言通り、朝までずっと僕をキツく抱き締め、離さないでいてくれたのだった。
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