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47 ネムリバナ同盟
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騎士科の生徒が将来の仕事として目指すことの多い騎士団は、王都では花形の職業だ。
騎士としての矜持は勿論、身体的な強さ、洗練された立ち振る舞いの三拍子が揃ってなければ相応しくないらしい。王族や来賓の護衛として式典などに参列する機会も多いらしいから、教養と清潔感は必須なんだろうな。
そんな騎士科は、とにかく実技が多い。一日の終わりに演習場で汗と土まみれになった後は、もれなく全員で風呂に直行するのが不文律になっていた。見目の精悍さや麗しさ、それに清潔さも騎士の条件のひとつなんだって。要は、汚くて臭い奴は論外ってことだ。言われてみれば確かに、山賊みたいな騎士団員は嫌かも。
専科が違えば、授業の終わり時間も違ってくる。更に騎士科特有の理由もあって、僕とアリが一緒にお風呂に入る機会はぱったりなくなってしまった。
アリは毎日ちゃんと湯殿に浸かってるのかな。耐えられなくなって三十を数えるくらいで出てない? と僕はここのところ心配ばかりしている。大分早い時間にお風呂に入るから、寝る頃には身体が冷えちゃってるんだよね。以前よりも入眠まで時間がかかっているみたいだし。
毎日身体を酷使しているせいもあって朝まで眠れないといったことはないみたいだけど、やっぱり心配だよ。僕の身体がもっと大きければ、アリを包んで温めてあげることができるのに。自分の成長速度の遅さが憎い。
だけど、時間帯がズレることで得られる利点もあった。
アリが騎士科に拘束されている間、心置きなくネムリバナの研究に時間を割くことができるようになったんだ。
夏季休暇期間中、ゲロルドさんは約束通り、知り合いにあれこれ聞き回ってくれた。結果、僕たちと同じく精油と香水まで候補を絞っていた。
だけど、お城でも学校でも、ネムリバナは少量しか育てていない。株を増やすには種から育てればいいけど、王都近郊の環境はネムリバナの繁殖に適していないのか、種が落ちて自然に――とはなかなかならなかったんだ。
アリの誕生日に乾燥花を作った個体は、たまたまうまく勝手に育ってくれたものだったらしい。芽が出た大半のその他のネムリバナは、小さいまま途中で枯れてしまったりしていた。増やす他の手段としては挿し木という方法もあるけど、殿下用のネムリバナを大きく切って万が一枯らしでもしたら大事になってしまうから、迂闊にはできない。
つまり、この先の段階に進むには、殿下用のもの以外のネムリバナを多く入手する他なくなっていた。
そんな中、クリストフ先輩が約束通り大量のネムリバナを持って帰ってきてくれた。その数、なんと十株。株数を知った瞬間、僕とゲロルドさんは抱き合って喜んだ。
僕たちに光明を与えてくれたクリストフ先輩は、ゲロルドさんと新学期初日に初顔合わせを行い、すぐに打ち解けた。先輩は読書好きなことからも分かるように、好奇心旺盛だ。会って早々ゲロルドさんを質問攻めにしちゃったんだよね。答えるゲロルドさんも、どこか嬉しそうな雰囲気だった。目を輝かせながら会話する二人を見て、二人を会わせてよかったなあって思えた。
僕たち三人は、早速温室を拡張していくことにした。先輩が持参してくれたナムリバナの花壇が出来上がる頃には、僕たちは「何としてでも完成させてみせる」という強い思いを共有するようになっていた。これはもう、ネムリバナ同盟と呼んでもいいんじゃないかな!
ゲロルドさんはこれまでの月に一回から月に二回顔を出すことに決め、こうして僕たちのネムリバナ香り抽出作戦が本格的に始まる。
そして、ああでもないこうでもないと実験を繰り返すこと、半年。
「できた……!」
冬季休暇が目前に迫ったある日、とうとう僕たちはネムリバナの精油の抽出に成功したのだった。
騎士としての矜持は勿論、身体的な強さ、洗練された立ち振る舞いの三拍子が揃ってなければ相応しくないらしい。王族や来賓の護衛として式典などに参列する機会も多いらしいから、教養と清潔感は必須なんだろうな。
そんな騎士科は、とにかく実技が多い。一日の終わりに演習場で汗と土まみれになった後は、もれなく全員で風呂に直行するのが不文律になっていた。見目の精悍さや麗しさ、それに清潔さも騎士の条件のひとつなんだって。要は、汚くて臭い奴は論外ってことだ。言われてみれば確かに、山賊みたいな騎士団員は嫌かも。
専科が違えば、授業の終わり時間も違ってくる。更に騎士科特有の理由もあって、僕とアリが一緒にお風呂に入る機会はぱったりなくなってしまった。
アリは毎日ちゃんと湯殿に浸かってるのかな。耐えられなくなって三十を数えるくらいで出てない? と僕はここのところ心配ばかりしている。大分早い時間にお風呂に入るから、寝る頃には身体が冷えちゃってるんだよね。以前よりも入眠まで時間がかかっているみたいだし。
毎日身体を酷使しているせいもあって朝まで眠れないといったことはないみたいだけど、やっぱり心配だよ。僕の身体がもっと大きければ、アリを包んで温めてあげることができるのに。自分の成長速度の遅さが憎い。
だけど、時間帯がズレることで得られる利点もあった。
アリが騎士科に拘束されている間、心置きなくネムリバナの研究に時間を割くことができるようになったんだ。
夏季休暇期間中、ゲロルドさんは約束通り、知り合いにあれこれ聞き回ってくれた。結果、僕たちと同じく精油と香水まで候補を絞っていた。
だけど、お城でも学校でも、ネムリバナは少量しか育てていない。株を増やすには種から育てればいいけど、王都近郊の環境はネムリバナの繁殖に適していないのか、種が落ちて自然に――とはなかなかならなかったんだ。
アリの誕生日に乾燥花を作った個体は、たまたまうまく勝手に育ってくれたものだったらしい。芽が出た大半のその他のネムリバナは、小さいまま途中で枯れてしまったりしていた。増やす他の手段としては挿し木という方法もあるけど、殿下用のネムリバナを大きく切って万が一枯らしでもしたら大事になってしまうから、迂闊にはできない。
つまり、この先の段階に進むには、殿下用のもの以外のネムリバナを多く入手する他なくなっていた。
そんな中、クリストフ先輩が約束通り大量のネムリバナを持って帰ってきてくれた。その数、なんと十株。株数を知った瞬間、僕とゲロルドさんは抱き合って喜んだ。
僕たちに光明を与えてくれたクリストフ先輩は、ゲロルドさんと新学期初日に初顔合わせを行い、すぐに打ち解けた。先輩は読書好きなことからも分かるように、好奇心旺盛だ。会って早々ゲロルドさんを質問攻めにしちゃったんだよね。答えるゲロルドさんも、どこか嬉しそうな雰囲気だった。目を輝かせながら会話する二人を見て、二人を会わせてよかったなあって思えた。
僕たち三人は、早速温室を拡張していくことにした。先輩が持参してくれたナムリバナの花壇が出来上がる頃には、僕たちは「何としてでも完成させてみせる」という強い思いを共有するようになっていた。これはもう、ネムリバナ同盟と呼んでもいいんじゃないかな!
ゲロルドさんはこれまでの月に一回から月に二回顔を出すことに決め、こうして僕たちのネムリバナ香り抽出作戦が本格的に始まる。
そして、ああでもないこうでもないと実験を繰り返すこと、半年。
「できた……!」
冬季休暇が目前に迫ったある日、とうとう僕たちはネムリバナの精油の抽出に成功したのだった。
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