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43 専科選択

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 二学年後期、最終日。

 年度末の総合順位は、アリは安定の一位、僕はまた少し持ち返して五位だった。やっぱり体育が足を引っ張ってるけど、その他で巻き返した感じだ。うん、悪くないよ!

「ルカ、もう寂しくて仕方ない……」

 そんな中、すぐ真上にある青い瞳が、苦しそうに揺れている。

「うん、僕もだよ。でも明日には会えるでしょ? ちょっとの我慢だよ!」
「分かっている、分かってはいるんだ。だけど寂しくて、心が寒くて死にそうだ……!」

 恒例の、帰宅前のお別れの時間。今回も同じように、布団が畳んで積まれた寝台の上に僕は仰向けに押し倒されていた。アリは上から体重をかけて、べったり抱きついてきている。体重、増えたなあ。しっかり寝て食べられている証拠だね!

 季節のお陰もあるかもしれないけど、重なり合う箇所が汗ばむくらい暑く感じられる。確実にアリの基礎体温が上がっている証拠だと思う。これなら僕がいなくても、今夜はちゃんと寝られるんじゃないかな。

「大丈夫。アリの身体はちゃんと温かいよ。今までの長期休暇前で一番だと思う。だから自信を持って。ね?」

 にこりと笑って見せると、アリの潤んだ青い瞳が、切なそうに細まった。

「分かった……。だが、今夜寂しくならないように、ルカの形を腕に記憶させてくれないか?」
「え? うん、いいよ」

 アリの首に、両手を伸ばす。アリはガバッと僕の背中に腕を回すと、ぎゅうぎゅうに締め付けてきた。苦しい。だけど、一所懸命さが窺えて可愛いなあ。折角なら、僕もアリの形を覚えておきたい。アリがするのと同じように背中に腕を回してみたけど、以前は簡単に届いた手が、今はギリギリしか届かない。おお!? アリ、成長したね!

 僕の頬に顔をグリグリ押し当てているアリが、耳朶に熱い息を吹きかけながら言った。

「ルカ……頼む、俺を励ましてくれ。必ずこの休みの間に父様を説得してみせるから……!」
「! うん、勿論当然だよ! アリなら絶対できるよ、大丈夫だから自信を持って!」
「ああ……ルカの言葉が何よりも俺を勇気付けてくれる……!」

 そう。実は今回の夏季休暇の間に、二学年から三学年に進級する生徒は全員してこないといけないことがあった。

 三学年で専攻する専科の意思決定だ。三学年を迎えた最初の日に、親の署名入りの専科申請書を学校に提出することになっている。

 僕は、兄様と同じ官僚科を選ぶ予定。アリもお父さんの後を継ぎたいなら官僚科かなあ? と思って尋ねてみたら、意外な答えが返ってきたんだ。

「俺は騎士科を選択したいと考えている」と。

 まさかの騎士科。亡くなったアリのお母さんは、女性で最初に騎士科を専攻した人だ。関係があるのかと聞いてみたところ、今ではすっかりクマが消えて自信が溢れ出ているアリが「母様が憧れた事柄に俺も触れてみたいんだ。父様には反対されるかもしれないが、これは入学した時からずっと考えていたことなんだ。だから、何としてでも父様を説得してみせる」と強い決意を見せてくれたんだよね。

 アリの大きく成長した姿に、僕は歓喜のあまり泣いてしまった。そうしたら、前と同じように涙を舌で全部舐め取ってくれた擽ったくも幸せなひと時の記憶は、僕の宝物のひとつだ。

 話してくれた時のことを思い出すと、今でも心が温かくなる。

「うん、アリなら絶対できるよ! でも、ちょっとでも困ったらすぐに教えてね?」
「ああ、ルカ……俺の天使様……! あ、……太陽だな」

 もう段々、どっちでもいい気がしてきたかも。

 ついクスッと笑うと、アリが顔を上げて僕の鼻にチュ、と軽いキスを落としてきた。僕を凝視しながら、ゆっくりと形のいい口を軽く開いていく。

 僕の唇の間に舌を差し込んでくると、歯茎をなぞっては甘えるように唇をチュパチュパ吸い始めた。

「ふふ、擽ったいってば」
「ルカが甘いからだ」

 吸うことに夢中な様子のアリが、息苦しそうな声で答える。

「え? 僕甘いの?」
「ネムリバナの甘みがする」

 それは知らなかった……。身体からネムリバナの匂いがするって何度も言われたけど、まさか味までネムリバナなの!? 毎日触ってるからかなあ……。

「あれ、でもネムリバナの味って――んっ」

 喋ろうとしていた僕の口は大きく開いたアリの口の中に閉じ込められて、言葉は行き先を失った。

 これは偶然だと思うけど、服の隙間から入り込んできたアリの手のひらが直接僕の背中や腰に触れてくるものだから、何だかゾクゾクしてきている。こうして直に触れられていると、アリの温かさが実感できるなあ。

 アリの熱を感じて幸せに浸っていると、アリの舌先がトントンと僕の歯を軽く叩いてきた。ん? なんだろうと思って閉じていた歯を開く。

「んぅっ!?」

 なんと、アリの舌がぬるりと僕の口の中に入ってきたじゃないか!

 驚きのあまりくぐもった声が出たけど、アリの侵入は止まらない。探るように僕の上顎を舌でなぞると、僕の舌に舌を絡ませてきた。

 ぬめりを帯びた熱い舌が絡まり、息すらも全てアリの口の中に吸い込まれていき――。

「は……っ、は……っ」

 何故か分からないけど身体中が火照って息切れしながら脱力してしまった僕を見て、アリがうっとりと目を細めたのだった。
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