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41 調査の進捗状況
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一緒に調べていくにあたって、実は最初にクリストフ先輩に怯えた表情で訴えられていた。
「図書室みたいな目立つ場所で毎日会っていたら、あっという間に噂になるかもしれない……! いや、間違いなくなる! もしリヒャルト先輩とアルフレートの耳に入りでもしたら……! どうしよう、方法を考えないと!」と。
兄様はともかくとして、本当にアルフレートと何があったの? 怯え方が半端ないんだけど。だけど尋ねてみても、首を横に振るだけで教えてくれなかった。気になるけど、本人が語りたくないなら仕方ない。……ものすごく気になるけど!
僕としては、できる限り早く調査を進めたい。だって、少しでもアリを安心させてあげたいもんね。
でも、協力者である先輩の事情は考慮しないといけない。ということで話し合いの結果、週に二回会って進捗を確認していくことに落ち着いた。
まず、図書室の目立たない場所で落ち合い、事前に借りて読んでおいた本から得た知識を交換する。議論を交わした後、次に探すものの当たりをつける――という感じだ。これなら図書室にいる時間は限られるから、先輩を怯えさせなくても済む。
ただこの場合、寮の部屋に借りた本を持っていくことになる。なので事前対策として、アリに「兄様に新しい副収入になりそうなネタがないかって相談を受けてるんだよね」と伝えておいた。
実はこれは、先輩からの入れ知恵だった。アリは素直だから「そうか、根は詰めすぎないようにな」と言ってくれたんだよね。こんなに優しいのに、アリの一体どこが怖いっていうんだろう。絶対誤解があると思う。
正直、アリに嘘を吐くのは心苦しい。だけどこれは、アリに心理的負担をかけない為に吐いている嘘だ。あとで種明かしをする時に、笑って許してほしいな。アリのことだから、絶対許してくれるのは分かってるけど。
それにしても、驚いたのは先輩の存在だ。先輩は頭の回転が早くて、僕にはない着眼点を持っていた。僕が行き詰まる度に別の道を示してくれるのは、決まって先輩の意外な視点だったんだよね。
僕がしきりに感心していたら、実は三学年の首席なことを恥ずかしそうに教えてくれた。その上、先輩は図書案内係をやっているだけあって、本にとても詳しかった。なんでも小さい頃から読書が好きすぎて、夜も暗い中延々と読んでいたら視力が落ちちゃったんだって。
ひとつのことに夢中になれるって、それだけで尊敬できる。それをそのまま本人に伝えたら、先輩は何故か真っ赤な顔になった後、「……これあげる」と最近王都で流行っていると先輩が言っていた琥珀糖を、瓶ごと丸々くれた。
えっ、太っ腹! さっき話の流れでお値段をチラリと聞いてひっくり返りそうになったものじゃないか!
僕とアリの会話には、基本流行りについての話題は上ってこない。アリは自分に厳しいから、娯楽や自分を甘やかす為の物は買ったりしないんだよね。
だから結果として、どうしてもお金の心配が拭えない僕にとっては出費が増えなくて助かったけど、興味は……ある! 食べてみたい!
「あ。誰から貰ったのかとかルカはうっかりしゃべっちゃいそうだから、今この場で食べて」と頼まれて、勿体ないけどその場で全部いただくことになった。……あっま! なにこれー!
思わずニコニコしながら口に含んでいると、何故か先輩が「美味しい? よかったねえ」と僕の頭を撫でてくる。え、もしかして子ども扱いされてる? はっ! そういえば初対面の時に「小動物感」があるって言われてた! てことはこれって餌付け……?
それにしても、こんな美味しい存在は是非アリにも教えてあげたい。だからアリにも名前を伏せた状態で教えていいか聞いたら、引き攣った笑顔で「絶対やめて」と言われてしまった。いや本当、アリと何があったの……。
そんな感じで、少しずつ先輩とも打ち解けられるようになってきた。
色々調べていく中で、様々な案が出た。だけど、どれもあまり実用的じゃない。僕が最初に思いついた香水も案のひとつとして出たけど、やっぱり「お酒は学校に持ち込めないかなあ」という理由で却下となった。ですよね。
そんな中、ひとつ「これは!」という案が出た。
それは、『精油』精製だった。精油には香りが濃く移るので、使用する時に振りかけて使えばいつでも香りを楽しむことができるんだって。保存期間は冷暗所でひと月程度。二ヶ月ある長期休暇でも、間に一回渡せば大丈夫な計算になる。おお、いいかも!
クリストフ先輩が、精油精製について書かれた項目を指でなぞっていく。
「抽出方法は色々あるねえ。水蒸気で蒸す方法、圧搾する方法、あとは油に漬け込む方法もあるみたいだよ」
「へえ」
「原材料は結構使うみたいだけど、検討する価値はあるんじゃない? ほら、ここ見て」
「はい」
先輩の指差す部分を読んでみた。水蒸気で蒸して抽出する方法の項目だ。材料を蒸して、油分が含まれた水蒸気を別の器で受ける。そこに溜まったものを冷やして置いておくと、水と油に分離する。そこから油分を掬い取ったものが精油になる、という仕組みらしい。
「鍋いっぱい程度のものから小瓶程度の量が取れるらしいよ。これなら求めてるものができるんじゃないかな?」
にこりとする先輩の言葉に、僕は目の前が真っ暗になる錯覚を覚えた。
-----
週末なので今日も夜にもう一話投稿します。
「図書室みたいな目立つ場所で毎日会っていたら、あっという間に噂になるかもしれない……! いや、間違いなくなる! もしリヒャルト先輩とアルフレートの耳に入りでもしたら……! どうしよう、方法を考えないと!」と。
兄様はともかくとして、本当にアルフレートと何があったの? 怯え方が半端ないんだけど。だけど尋ねてみても、首を横に振るだけで教えてくれなかった。気になるけど、本人が語りたくないなら仕方ない。……ものすごく気になるけど!
僕としては、できる限り早く調査を進めたい。だって、少しでもアリを安心させてあげたいもんね。
でも、協力者である先輩の事情は考慮しないといけない。ということで話し合いの結果、週に二回会って進捗を確認していくことに落ち着いた。
まず、図書室の目立たない場所で落ち合い、事前に借りて読んでおいた本から得た知識を交換する。議論を交わした後、次に探すものの当たりをつける――という感じだ。これなら図書室にいる時間は限られるから、先輩を怯えさせなくても済む。
ただこの場合、寮の部屋に借りた本を持っていくことになる。なので事前対策として、アリに「兄様に新しい副収入になりそうなネタがないかって相談を受けてるんだよね」と伝えておいた。
実はこれは、先輩からの入れ知恵だった。アリは素直だから「そうか、根は詰めすぎないようにな」と言ってくれたんだよね。こんなに優しいのに、アリの一体どこが怖いっていうんだろう。絶対誤解があると思う。
正直、アリに嘘を吐くのは心苦しい。だけどこれは、アリに心理的負担をかけない為に吐いている嘘だ。あとで種明かしをする時に、笑って許してほしいな。アリのことだから、絶対許してくれるのは分かってるけど。
それにしても、驚いたのは先輩の存在だ。先輩は頭の回転が早くて、僕にはない着眼点を持っていた。僕が行き詰まる度に別の道を示してくれるのは、決まって先輩の意外な視点だったんだよね。
僕がしきりに感心していたら、実は三学年の首席なことを恥ずかしそうに教えてくれた。その上、先輩は図書案内係をやっているだけあって、本にとても詳しかった。なんでも小さい頃から読書が好きすぎて、夜も暗い中延々と読んでいたら視力が落ちちゃったんだって。
ひとつのことに夢中になれるって、それだけで尊敬できる。それをそのまま本人に伝えたら、先輩は何故か真っ赤な顔になった後、「……これあげる」と最近王都で流行っていると先輩が言っていた琥珀糖を、瓶ごと丸々くれた。
えっ、太っ腹! さっき話の流れでお値段をチラリと聞いてひっくり返りそうになったものじゃないか!
僕とアリの会話には、基本流行りについての話題は上ってこない。アリは自分に厳しいから、娯楽や自分を甘やかす為の物は買ったりしないんだよね。
だから結果として、どうしてもお金の心配が拭えない僕にとっては出費が増えなくて助かったけど、興味は……ある! 食べてみたい!
「あ。誰から貰ったのかとかルカはうっかりしゃべっちゃいそうだから、今この場で食べて」と頼まれて、勿体ないけどその場で全部いただくことになった。……あっま! なにこれー!
思わずニコニコしながら口に含んでいると、何故か先輩が「美味しい? よかったねえ」と僕の頭を撫でてくる。え、もしかして子ども扱いされてる? はっ! そういえば初対面の時に「小動物感」があるって言われてた! てことはこれって餌付け……?
それにしても、こんな美味しい存在は是非アリにも教えてあげたい。だからアリにも名前を伏せた状態で教えていいか聞いたら、引き攣った笑顔で「絶対やめて」と言われてしまった。いや本当、アリと何があったの……。
そんな感じで、少しずつ先輩とも打ち解けられるようになってきた。
色々調べていく中で、様々な案が出た。だけど、どれもあまり実用的じゃない。僕が最初に思いついた香水も案のひとつとして出たけど、やっぱり「お酒は学校に持ち込めないかなあ」という理由で却下となった。ですよね。
そんな中、ひとつ「これは!」という案が出た。
それは、『精油』精製だった。精油には香りが濃く移るので、使用する時に振りかけて使えばいつでも香りを楽しむことができるんだって。保存期間は冷暗所でひと月程度。二ヶ月ある長期休暇でも、間に一回渡せば大丈夫な計算になる。おお、いいかも!
クリストフ先輩が、精油精製について書かれた項目を指でなぞっていく。
「抽出方法は色々あるねえ。水蒸気で蒸す方法、圧搾する方法、あとは油に漬け込む方法もあるみたいだよ」
「へえ」
「原材料は結構使うみたいだけど、検討する価値はあるんじゃない? ほら、ここ見て」
「はい」
先輩の指差す部分を読んでみた。水蒸気で蒸して抽出する方法の項目だ。材料を蒸して、油分が含まれた水蒸気を別の器で受ける。そこに溜まったものを冷やして置いておくと、水と油に分離する。そこから油分を掬い取ったものが精油になる、という仕組みらしい。
「鍋いっぱい程度のものから小瓶程度の量が取れるらしいよ。これなら求めてるものができるんじゃないかな?」
にこりとする先輩の言葉に、僕は目の前が真っ暗になる錯覚を覚えた。
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週末なので今日も夜にもう一話投稿します。
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