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23 誕生日プレゼント
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アリのクマが真っ黒に戻ったことで、一学年前期終わりにはどことなく態度が軟化しているように見えたグスタフ殿下の態度も元に戻ってしまった。
「殿下は俺の顔を見た瞬間『うわ……っ』と言って、花を受け取りそのまま扉を閉じられた」
「そ、そうなんだ……」
だから殿下さ。もうちょっと直接的じゃない表現方法ってあると思うんだよね。あの人は本当、人の心の汲み方をもっと学んだ方がいいと思う。このままだとろくな大人にならないよ?
寝台の端に座りがっくり項垂れているアリの前に立つと、大分恒例になってきたアレをやる。頭を抱き締めて頭頂にキスをする、アレだ。
「ほら、アリ。『辛いのはもう終わったよ、いい子だから泣き止んで』だよ」
「ルカ……ッ、また俺の話を聞いてくれるか……? 俺に呆れてはいないか……?」
僕のお腹に顔面を押し付けているアリが、涙まじりのくぐもった声で聞いてきた。僕の中の庇護欲が、久々にブワッと溢れ返る。
「呆れる訳がないでしょ! アリは心配しすぎだってば!」
「ルカ……! ああ、俺の天使様……あ、太陽」
言い直さなくていいから。
こうして、僕とアリの『クマ撲滅作戦』が再開した。
ネムリバナを浮かべた後、早速アリが後ろから身体をピッタリ寄せて抱き締めてくる。うわあ、ひんやり……。
「ルカは温かいな……」
「それ兄様にも言われた。子どもの体温は高いんだって。酷いよね、もうすぐ十三歳なのになあ」
アリがピクリと反応した。
「ん? ルカはもうすぐ誕生日なのか?」
「そうだよ! 春生まれ! そういえばアリの誕生日は?」
「冬季休暇の間に終わった。俺の方が今だけ年上だな」
「えっ」
こそばゆそうに笑ってるけど、いや、ちょっと待とうか。ぐりんと顔をアリに向けると、アリが薄く微笑む。
「ん? どうしたルカ」
「どうしたじゃないよ。どうして誕生日があったことを手紙で教えてくれなかったのさ!」
アリは何故尋ねられているのか、不思議そうな顔だ。
「ん? だって特に何の変哲もない一日だろう? ああ、勿論ルカの誕生日は盛大に祝おうな」
「待って。待って待って」
「ん?」
詳しく聞いてみたら、なんとアリはここ数年、誕生日にちゃんと祝われたことがなかった。嘘でしょ。ユーネル侯爵、そりゃないよ……!
「だが、何か好きな物を買えばいいとちゃんとお金は渡されるぞ?」
「いや、いやいやいや」
まさかの現金。頼むから、不思議そうに首を傾げないでほしい。
僕はアワアワしながらアリの方に向き直ると、尋ねた。
「あの、アリ! 僕から欲しい誕生日プレゼントはない!? お金がかかるものはちょっと……いや大分あれだけど、それ以外の物なら何でもいいよ!」
「欲しい物?」
「そう! 何でもいいからほら、遠慮せず言ってよ!」
「そうだな……」
アリはうーんと小さく唸った後、何かを思いついたのか、クマがくっきりしている目元を緩ませる。
「じゃあ、ルカからご褒美のキスがほしい」
「え」
ご褒美のキス。それはすなわち、アリが話せたご褒美として、何故か毎回アリからされている唇同士のキスのことだ。
「駄目か……?」
懇願するような真摯な眼差しに、あっさり屈した僕は。
「じゃ、じゃあ……いくよ」
「ああ」
瞼を閉じて微笑んでいるアリに顔を近付けると、息を止めながら恐る恐る唇を重ねる。ひやりとしたアリの唇があまりにも柔らかくて、思わず鼻息を吹きそうになった。どうしよう。このままだと息が保たない。アリに鼻水を吹きかけちゃったら、それこそ問題だ。だけど慌てて離れようとしたら、アリの手が僕の後頭部に伸びてきて僕を軽く押さえてしまう。えっ。
するとなんとアリが、僕の下唇を唇で軽く食んだじゃないか。
「……ッ!?」
思わず目を開ける。アリの青い目が、僕を凝視していた。この距離の凝視はちょっと怖いよ。
アリは穏やかな笑みを浮かべると、顔をゆっくり離していった。
「最高の誕生日プレゼントだった。ありがとう、ルカ」
「へ、あ、ど、どう、致しまして……?」
こうして、僕とアリの一学年後期が幕を開けたのだった。
「殿下は俺の顔を見た瞬間『うわ……っ』と言って、花を受け取りそのまま扉を閉じられた」
「そ、そうなんだ……」
だから殿下さ。もうちょっと直接的じゃない表現方法ってあると思うんだよね。あの人は本当、人の心の汲み方をもっと学んだ方がいいと思う。このままだとろくな大人にならないよ?
寝台の端に座りがっくり項垂れているアリの前に立つと、大分恒例になってきたアレをやる。頭を抱き締めて頭頂にキスをする、アレだ。
「ほら、アリ。『辛いのはもう終わったよ、いい子だから泣き止んで』だよ」
「ルカ……ッ、また俺の話を聞いてくれるか……? 俺に呆れてはいないか……?」
僕のお腹に顔面を押し付けているアリが、涙まじりのくぐもった声で聞いてきた。僕の中の庇護欲が、久々にブワッと溢れ返る。
「呆れる訳がないでしょ! アリは心配しすぎだってば!」
「ルカ……! ああ、俺の天使様……あ、太陽」
言い直さなくていいから。
こうして、僕とアリの『クマ撲滅作戦』が再開した。
ネムリバナを浮かべた後、早速アリが後ろから身体をピッタリ寄せて抱き締めてくる。うわあ、ひんやり……。
「ルカは温かいな……」
「それ兄様にも言われた。子どもの体温は高いんだって。酷いよね、もうすぐ十三歳なのになあ」
アリがピクリと反応した。
「ん? ルカはもうすぐ誕生日なのか?」
「そうだよ! 春生まれ! そういえばアリの誕生日は?」
「冬季休暇の間に終わった。俺の方が今だけ年上だな」
「えっ」
こそばゆそうに笑ってるけど、いや、ちょっと待とうか。ぐりんと顔をアリに向けると、アリが薄く微笑む。
「ん? どうしたルカ」
「どうしたじゃないよ。どうして誕生日があったことを手紙で教えてくれなかったのさ!」
アリは何故尋ねられているのか、不思議そうな顔だ。
「ん? だって特に何の変哲もない一日だろう? ああ、勿論ルカの誕生日は盛大に祝おうな」
「待って。待って待って」
「ん?」
詳しく聞いてみたら、なんとアリはここ数年、誕生日にちゃんと祝われたことがなかった。嘘でしょ。ユーネル侯爵、そりゃないよ……!
「だが、何か好きな物を買えばいいとちゃんとお金は渡されるぞ?」
「いや、いやいやいや」
まさかの現金。頼むから、不思議そうに首を傾げないでほしい。
僕はアワアワしながらアリの方に向き直ると、尋ねた。
「あの、アリ! 僕から欲しい誕生日プレゼントはない!? お金がかかるものはちょっと……いや大分あれだけど、それ以外の物なら何でもいいよ!」
「欲しい物?」
「そう! 何でもいいからほら、遠慮せず言ってよ!」
「そうだな……」
アリはうーんと小さく唸った後、何かを思いついたのか、クマがくっきりしている目元を緩ませる。
「じゃあ、ルカからご褒美のキスがほしい」
「え」
ご褒美のキス。それはすなわち、アリが話せたご褒美として、何故か毎回アリからされている唇同士のキスのことだ。
「駄目か……?」
懇願するような真摯な眼差しに、あっさり屈した僕は。
「じゃ、じゃあ……いくよ」
「ああ」
瞼を閉じて微笑んでいるアリに顔を近付けると、息を止めながら恐る恐る唇を重ねる。ひやりとしたアリの唇があまりにも柔らかくて、思わず鼻息を吹きそうになった。どうしよう。このままだと息が保たない。アリに鼻水を吹きかけちゃったら、それこそ問題だ。だけど慌てて離れようとしたら、アリの手が僕の後頭部に伸びてきて僕を軽く押さえてしまう。えっ。
するとなんとアリが、僕の下唇を唇で軽く食んだじゃないか。
「……ッ!?」
思わず目を開ける。アリの青い目が、僕を凝視していた。この距離の凝視はちょっと怖いよ。
アリは穏やかな笑みを浮かべると、顔をゆっくり離していった。
「最高の誕生日プレゼントだった。ありがとう、ルカ」
「へ、あ、ど、どう、致しまして……?」
こうして、僕とアリの一学年後期が幕を開けたのだった。
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