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18 深く知るには
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アリの睡眠障害の、根本的原因。
それを知るには、アリのことを深く知るしかないと思う。アリ自身には、「何故か寝られない」という認識しかない。つまり、本人は原因を全く把握していない。なら隣にいる僕が聞き出していくしかないじゃないか。
今はまだいい。僕が隣にいれば、アリを温めてあげられるから。だけど一生このままとはいかないのは、ちょっと考えれば分かることだった。遅くともこの学校を十八歳で卒業する時までにひとりでもちゃんと寝られるようになっておかないと、将来絶対アリが困る。
僕は医者でも何でもない、しがない男爵令息にすぎない。だけど、目下アリの一番近くにいる人間だという自負がある。小っ恥ずかしいけど、アリが僕を天使様とか太陽だとか思ってくれている間は、きっと僕にだけは心の中に抱えているものを教えてくれる気がしていた。
という訳で、僕はアリともっと話をしてみることにした。質問は、寝る前の時間を充てる。普段はなかなか言えないことも、寝る前の気が抜けた時間はつい口が軽くなってしまうのを、僕は身を以て知っていたから。
実は以前、兄様に内緒で誕生日プレゼントを用意したことがあった。だけど僕の演技がよほど下手っぴだったのか、兄様に「兄様に隠し事をしてるね? 怒らないから言ってごらん」と抱き枕をされている時に問い詰められてしまったんだ。
勿論、僕は言うつもりはなかった。なのに気が付けばいつの間にか喋ってしまっていたんだ。話したご褒美に兄様が僕にキスの雨を降らして――ということがあったんだよね。
アリは僕が頭にキスをしても嫌がらない。むしろちょっと嬉しそうだ。つまりアルがいい子にお話しできたら、ご褒美のキスをすればいいんじゃないか。なんせアリにとって、僕は天使様で太陽だ。言われる度に、むず痒くて仕方なくなるけど。
とにかく、これでアリは話すのが嫌なことも進んで話すようになるんじゃないかと考えたんだ。
ということで、早速提案してみる。
「ねえアリ。僕ね、アリがどうして寝られないかの答えは、アリの心の中にあると思うんだ」
「俺の心の中?」
ひゃっ、アリの息が僕の首筋に吹きかかって、擽ったい。後ろから抱きつかれた状態で会話すると、こうなるのか。擽ったさに力が抜けちゃうよ。ふにゃふにゃになって話にならなそう。
「うん。だからね、これからは寝る前に僕がアリに質問して、アリがそれに答える形にしようかと思うんだけど、どう? いいかな?」
「それはいいが……俺の話など、ルカにはきっと面白くもなんとも」
「ううん! そんなことない!」
ちゃんと目を見て伝えたくて、振り返る。アリは突然僕が振り返ったからか、挙動不審げに目線を泳がせた。あれ? 驚かせちゃったかな。
「アリ、僕はアリのことがもっと知りたいよ!」
アリの頬に、僕の手のひらを当てる。やっぱりひんやりしている。これを早く温かいものに変えてあげたい。
「ル、ルカ……本当か……?」
ようやくアリと目が合った。微笑みながら、小さく頷く。
「うん。でもね、アリが言いたくないことも、きっと中にはあると思うんだ」
「ああ……それはあるだろうな……」
「だからね、僕からの提案なんだけど」
「提案?」
「うん。アリが上手に言えたら、僕がアリにご褒美のキスをするってどう?」
僕の提案にアリが目を大きく見開いた後――。
「勿論だ。それでいこう」
と深く頷いてくれた。
アリの表情を見ながら聞けるよう、正面に向き直る。首が擽ったいと集中できないしね。
アリは緊張してしまったのか、小刻みに呼吸をしながら唾を呑み込んだ。そうだよね、何を聞かれるか怖いのは分かる。
できるだけ安心してもらう為、アリの頭に手を伸ばしていいこいいこする。アリが気持ちよさそうに目を細めた。うん、これでちょっとは落ち着いてくれたかな?
ということで、早速質問開始だ。
「じゃあ……僕とアリが初めて会った時、アリは泣いてたよね。あれはどうして?」
「ああ……あれか」
アリは目を細めたまま、ポツリポツリと話し始めた。
それを知るには、アリのことを深く知るしかないと思う。アリ自身には、「何故か寝られない」という認識しかない。つまり、本人は原因を全く把握していない。なら隣にいる僕が聞き出していくしかないじゃないか。
今はまだいい。僕が隣にいれば、アリを温めてあげられるから。だけど一生このままとはいかないのは、ちょっと考えれば分かることだった。遅くともこの学校を十八歳で卒業する時までにひとりでもちゃんと寝られるようになっておかないと、将来絶対アリが困る。
僕は医者でも何でもない、しがない男爵令息にすぎない。だけど、目下アリの一番近くにいる人間だという自負がある。小っ恥ずかしいけど、アリが僕を天使様とか太陽だとか思ってくれている間は、きっと僕にだけは心の中に抱えているものを教えてくれる気がしていた。
という訳で、僕はアリともっと話をしてみることにした。質問は、寝る前の時間を充てる。普段はなかなか言えないことも、寝る前の気が抜けた時間はつい口が軽くなってしまうのを、僕は身を以て知っていたから。
実は以前、兄様に内緒で誕生日プレゼントを用意したことがあった。だけど僕の演技がよほど下手っぴだったのか、兄様に「兄様に隠し事をしてるね? 怒らないから言ってごらん」と抱き枕をされている時に問い詰められてしまったんだ。
勿論、僕は言うつもりはなかった。なのに気が付けばいつの間にか喋ってしまっていたんだ。話したご褒美に兄様が僕にキスの雨を降らして――ということがあったんだよね。
アリは僕が頭にキスをしても嫌がらない。むしろちょっと嬉しそうだ。つまりアルがいい子にお話しできたら、ご褒美のキスをすればいいんじゃないか。なんせアリにとって、僕は天使様で太陽だ。言われる度に、むず痒くて仕方なくなるけど。
とにかく、これでアリは話すのが嫌なことも進んで話すようになるんじゃないかと考えたんだ。
ということで、早速提案してみる。
「ねえアリ。僕ね、アリがどうして寝られないかの答えは、アリの心の中にあると思うんだ」
「俺の心の中?」
ひゃっ、アリの息が僕の首筋に吹きかかって、擽ったい。後ろから抱きつかれた状態で会話すると、こうなるのか。擽ったさに力が抜けちゃうよ。ふにゃふにゃになって話にならなそう。
「うん。だからね、これからは寝る前に僕がアリに質問して、アリがそれに答える形にしようかと思うんだけど、どう? いいかな?」
「それはいいが……俺の話など、ルカにはきっと面白くもなんとも」
「ううん! そんなことない!」
ちゃんと目を見て伝えたくて、振り返る。アリは突然僕が振り返ったからか、挙動不審げに目線を泳がせた。あれ? 驚かせちゃったかな。
「アリ、僕はアリのことがもっと知りたいよ!」
アリの頬に、僕の手のひらを当てる。やっぱりひんやりしている。これを早く温かいものに変えてあげたい。
「ル、ルカ……本当か……?」
ようやくアリと目が合った。微笑みながら、小さく頷く。
「うん。でもね、アリが言いたくないことも、きっと中にはあると思うんだ」
「ああ……それはあるだろうな……」
「だからね、僕からの提案なんだけど」
「提案?」
「うん。アリが上手に言えたら、僕がアリにご褒美のキスをするってどう?」
僕の提案にアリが目を大きく見開いた後――。
「勿論だ。それでいこう」
と深く頷いてくれた。
アリの表情を見ながら聞けるよう、正面に向き直る。首が擽ったいと集中できないしね。
アリは緊張してしまったのか、小刻みに呼吸をしながら唾を呑み込んだ。そうだよね、何を聞かれるか怖いのは分かる。
できるだけ安心してもらう為、アリの頭に手を伸ばしていいこいいこする。アリが気持ちよさそうに目を細めた。うん、これでちょっとは落ち着いてくれたかな?
ということで、早速質問開始だ。
「じゃあ……僕とアリが初めて会った時、アリは泣いてたよね。あれはどうして?」
「ああ……あれか」
アリは目を細めたまま、ポツリポツリと話し始めた。
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