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16 学校生活開始
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本格的に学校生活が始まった。
そこで分かったことがある。アリは非常な努力家だということだ。
勉強はいつも予習復習を欠かさない。殿下の塩対応で凹まされた後も、真剣な眼差しで机に向かっている。お風呂に浸かる時間だって、なんと五十まで数えられるようになったんだよ。
物凄く我慢して浸かっているのが伝わってくるだけに、努力が偉すぎて毎回涙と拍手が出そうになる。
だけど折角温まっても、勉強を遅くまでするせいで、寝る前にはすっかり冷えてしまっていた。僕が「もう寝ようよ」と声をかけても、無駄だった。何なら有無を言わさずネムリバナを水面に浮かべてみても、匂いを感じていないのか机に齧り付いたまま。
どうも最初の日以降、まとまって寝られてないんじゃないか。アリは「それなりに寝ている」と答えるけど、その割には目の下のクマがどす黒いままなんだよね。
あまりの黒さを見かねて、僕はとうとうアリに詰め寄った。するとアリは、「……実は、ネムリバナの香りを嗅いで眠くなったのは最初の日だけなんだ」と泣きそうな顔で暴露してきたんだ。
「え、そうだったの!? どうしてもっと早く言ってくれなかったんだよ!」
「ルカの期待に応えられていないことが心苦しくて……っ」
なんと、僕の態度がアリに重圧を与えていたのか。これには僕も衝撃を受けた。良かれと思っていたことが裏目に出ていたなんて……。
僕が黙り込んでいると、アリが深く項垂れる。
「すまない……折角ルカが俺の為に色々してくれているのに……」
「アリ……」
黒いクマを目の下に浮かべながら疲れ切った表情で凹むアリの姿を見て、僕は隣で頭を抱えた。うーん、これはかなりの難攻不落具合だぞ。
「――ねえ。だったらどうして僕の布団に入ってこないのさ? 僕が先に寝ちゃっても入ってきていいよって言ってるよね?」
どうしても先に眠くなってしまう僕は、残念ながらアリの勉強が終わるまで起きていることができない。一応、アリには寝ようと声をかけている。だけどアリの返事はいつも決まっていて、「もう少し勉強をしてから寝る」というものだった。
どうしても眠くて耐え切れなくなった入学式の日の夜、折衷案として「ちゃんと僕の布団に入ってきてね」と提案した。
なのに朝に目を覚ますと、アリがいない。あれ? と思い隣の寝台を見ると、目を開いて天井の一点を微動だにせず見つめているアリの姿があった。あの時は、悲鳴が出るかと思った。
それからも、毎晩寝る前に声をかけた。布団に入って来いと誘いまくった。なのにアリは絶対入ってこなかったんだ。
「……俺の身体の冷たさで起こしてしまうのではと思うと、なんだか申し訳なくて」
アリが金髪の前髪の隙間から青い目を覗かせる。白すぎる顔は、どう見たって調子がいいようには思えない。黒いクマについては言わずもがなだ。
「だから、僕の眠りは相当深いから起きないってば」
「だが、ただでさえ日頃から気苦労ばかりかけているのに」
取り付く島もない。僕はいいよって言ってるのにこれだ。アリは遠慮の塊でできているのか、僕に頼るのをとにかく避けたいらしい。うーん、参ったな。
「俺の不甲斐なさにルカに嫌われたらと考えると、余計に寝られなくなってしまって……」
アリの声がどんどん小さくなっていく。
「だからあ、嫌わないってば! どうしてそういう考えになっちゃうんだよ……っ」
「すまない……」
「責めてる訳じゃないの! それに謝ってほしい訳でもなくて……もう」
こうなったら、別の作戦を考えるしかない。何か妙案はないものか。
僕は考えて考えて――。
「あ」
「な、なんだ? どうしたっ!?」
不安そうに涙目で僕を見るアリに、僕は思いついたとてもいい案を話すことにしたのだった。
そこで分かったことがある。アリは非常な努力家だということだ。
勉強はいつも予習復習を欠かさない。殿下の塩対応で凹まされた後も、真剣な眼差しで机に向かっている。お風呂に浸かる時間だって、なんと五十まで数えられるようになったんだよ。
物凄く我慢して浸かっているのが伝わってくるだけに、努力が偉すぎて毎回涙と拍手が出そうになる。
だけど折角温まっても、勉強を遅くまでするせいで、寝る前にはすっかり冷えてしまっていた。僕が「もう寝ようよ」と声をかけても、無駄だった。何なら有無を言わさずネムリバナを水面に浮かべてみても、匂いを感じていないのか机に齧り付いたまま。
どうも最初の日以降、まとまって寝られてないんじゃないか。アリは「それなりに寝ている」と答えるけど、その割には目の下のクマがどす黒いままなんだよね。
あまりの黒さを見かねて、僕はとうとうアリに詰め寄った。するとアリは、「……実は、ネムリバナの香りを嗅いで眠くなったのは最初の日だけなんだ」と泣きそうな顔で暴露してきたんだ。
「え、そうだったの!? どうしてもっと早く言ってくれなかったんだよ!」
「ルカの期待に応えられていないことが心苦しくて……っ」
なんと、僕の態度がアリに重圧を与えていたのか。これには僕も衝撃を受けた。良かれと思っていたことが裏目に出ていたなんて……。
僕が黙り込んでいると、アリが深く項垂れる。
「すまない……折角ルカが俺の為に色々してくれているのに……」
「アリ……」
黒いクマを目の下に浮かべながら疲れ切った表情で凹むアリの姿を見て、僕は隣で頭を抱えた。うーん、これはかなりの難攻不落具合だぞ。
「――ねえ。だったらどうして僕の布団に入ってこないのさ? 僕が先に寝ちゃっても入ってきていいよって言ってるよね?」
どうしても先に眠くなってしまう僕は、残念ながらアリの勉強が終わるまで起きていることができない。一応、アリには寝ようと声をかけている。だけどアリの返事はいつも決まっていて、「もう少し勉強をしてから寝る」というものだった。
どうしても眠くて耐え切れなくなった入学式の日の夜、折衷案として「ちゃんと僕の布団に入ってきてね」と提案した。
なのに朝に目を覚ますと、アリがいない。あれ? と思い隣の寝台を見ると、目を開いて天井の一点を微動だにせず見つめているアリの姿があった。あの時は、悲鳴が出るかと思った。
それからも、毎晩寝る前に声をかけた。布団に入って来いと誘いまくった。なのにアリは絶対入ってこなかったんだ。
「……俺の身体の冷たさで起こしてしまうのではと思うと、なんだか申し訳なくて」
アリが金髪の前髪の隙間から青い目を覗かせる。白すぎる顔は、どう見たって調子がいいようには思えない。黒いクマについては言わずもがなだ。
「だから、僕の眠りは相当深いから起きないってば」
「だが、ただでさえ日頃から気苦労ばかりかけているのに」
取り付く島もない。僕はいいよって言ってるのにこれだ。アリは遠慮の塊でできているのか、僕に頼るのをとにかく避けたいらしい。うーん、参ったな。
「俺の不甲斐なさにルカに嫌われたらと考えると、余計に寝られなくなってしまって……」
アリの声がどんどん小さくなっていく。
「だからあ、嫌わないってば! どうしてそういう考えになっちゃうんだよ……っ」
「すまない……」
「責めてる訳じゃないの! それに謝ってほしい訳でもなくて……もう」
こうなったら、別の作戦を考えるしかない。何か妙案はないものか。
僕は考えて考えて――。
「あ」
「な、なんだ? どうしたっ!?」
不安そうに涙目で僕を見るアリに、僕は思いついたとてもいい案を話すことにしたのだった。
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