上 下
16 / 53

16 学校生活開始

しおりを挟む
 本格的に学校生活が始まった。

 そこで分かったことがある。アリは非常な努力家だということだ。

 勉強はいつも予習復習を欠かさない。殿下の塩対応で凹まされた後も、真剣な眼差しで机に向かっている。お風呂に浸かる時間だって、なんと五十まで数えられるようになったんだよ。

 物凄く我慢して浸かっているのが伝わってくるだけに、努力が偉すぎて毎回涙と拍手が出そうになる。

 だけど折角温まっても、勉強を遅くまでするせいで、寝る前にはすっかり冷えてしまっていた。僕が「もう寝ようよ」と声をかけても、無駄だった。何なら有無を言わさずネムリバナを水面に浮かべてみても、匂いを感じていないのか机に齧り付いたまま。

 どうも最初の日以降、まとまって寝られてないんじゃないか。アリは「それなりに寝ている」と答えるけど、その割には目の下のクマがどす黒いままなんだよね。

 あまりの黒さを見かねて、僕はとうとうアリに詰め寄った。するとアリは、「……実は、ネムリバナの香りを嗅いで眠くなったのは最初の日だけなんだ」と泣きそうな顔で暴露してきたんだ。

「え、そうだったの!? どうしてもっと早く言ってくれなかったんだよ!」
「ルカの期待に応えられていないことが心苦しくて……っ」

 なんと、僕の態度がアリに重圧を与えていたのか。これには僕も衝撃を受けた。良かれと思っていたことが裏目に出ていたなんて……。

 僕が黙り込んでいると、アリが深く項垂れる。

「すまない……折角ルカが俺の為に色々してくれているのに……」
「アリ……」

 黒いクマを目の下に浮かべながら疲れ切った表情で凹むアリの姿を見て、僕は隣で頭を抱えた。うーん、これはかなりの難攻不落具合だぞ。

「――ねえ。だったらどうして僕の布団に入ってこないのさ? 僕が先に寝ちゃっても入ってきていいよって言ってるよね?」

 どうしても先に眠くなってしまう僕は、残念ながらアリの勉強が終わるまで起きていることができない。一応、アリには寝ようと声をかけている。だけどアリの返事はいつも決まっていて、「もう少し勉強をしてから寝る」というものだった。

 どうしても眠くて耐え切れなくなった入学式の日の夜、折衷案として「ちゃんと僕の布団に入ってきてね」と提案した。

 なのに朝に目を覚ますと、アリがいない。あれ? と思い隣の寝台を見ると、目を開いて天井の一点を微動だにせず見つめているアリの姿があった。あの時は、悲鳴が出るかと思った。

 それからも、毎晩寝る前に声をかけた。布団に入って来いと誘いまくった。なのにアリは絶対入ってこなかったんだ。

「……俺の身体の冷たさで起こしてしまうのではと思うと、なんだか申し訳なくて」

 アリが金髪の前髪の隙間から青い目を覗かせる。白すぎる顔は、どう見たって調子がいいようには思えない。黒いクマについては言わずもがなだ。

「だから、僕の眠りは相当深いから起きないってば」
「だが、ただでさえ日頃から気苦労ばかりかけているのに」

 取り付く島もない。僕はいいよって言ってるのにこれだ。アリは遠慮の塊でできているのか、僕に頼るのをとにかく避けたいらしい。うーん、参ったな。

「俺の不甲斐なさにルカに嫌われたらと考えると、余計に寝られなくなってしまって……」

 アリの声がどんどん小さくなっていく。

「だからあ、嫌わないってば! どうしてそういう考えになっちゃうんだよ……っ」
「すまない……」
「責めてる訳じゃないの! それに謝ってほしい訳でもなくて……もう」

 こうなったら、別の作戦を考えるしかない。何か妙案はないものか。

 僕は考えて考えて――。

「あ」
「な、なんだ? どうしたっ!?」

 不安そうに涙目で僕を見るアリに、僕は思いついたとてもいい案を話すことにしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

実の弟が、運命の番だった。

いちの瀬
BL
「おれ、おっきくなったら、兄様と結婚する!」 ウィルとあの約束をしてから、 もう10年も経ってしまった。 約束は、もう3年も前に時効がきれている。 ウィルは、あの約束を覚えているだろうか? 覚えてるわけないか。 約束に縛られているのは、 僕だけだ。 ひたすら片思いの話です。 ハッピーエンドですが、エロ少なめなのでご注意ください 無理やり、暴力がちょこっとあります。苦手な方はご遠慮下さい 取り敢えず完結しましたが、気が向いたら番外編書きます。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

虐げられた王の生まれ変わりと白銀の騎士

ありま氷炎
BL
十四年前、国王アルローはその死に際に、「私を探せ」と言い残す。 国一丸となり、王の生まれ変わりを探すが見つからず、月日は過ぎていく。 王アルローの子の治世は穏やかで、人々はアルローの生まれ変わりを探す事を諦めようとしていた。 そんな中、アルローの生まれ変わりが異世界にいることがわかる。多くの者たちが止める中、騎士団長のタリダスが異世界の扉を潜る。 そこで彼は、アルローの生まれ変わりの少年を見つける。両親に疎まれ、性的虐待すら受けている少年を助け、強引に連れ戻すタリダス。 彼は王の生まれ変わりである少年ユウタに忠誠を誓う。しかし王宮では「王」の帰還に好意的なものは少なかった。 心の傷を癒しながら、ユウタは自身の前世に向き合う。 アルローが残した「私を探せ」の意味はなんだったか。 王宮の陰謀、そして襲い掛かる別の危機。 少年は戸惑いながらも自分の道を見つけていく。

文官Aは王子に美味しく食べられました

東院さち
BL
リンドは姉ミリアの代わりに第三王子シリウスに会いに行った。シリウスは優しくて、格好良くて、リンドは恋してしまった。けれど彼は姉の婚約者で。自覚した途端にやってきた成長期で泣く泣く別れたリンドは文官として王城にあがる。 転載になりまさ

偽物の番は溺愛に怯える

にわとりこ
BL
『ごめんね、君は偽物だったんだ』 最悪な記憶を最後に自らの命を絶ったはずのシェリクスは、全く同じ姿かたち境遇で生まれ変わりを遂げる。 まだ自分を《本物》だと思っている愛する人を前にシェリクスは───?

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

処理中です...