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 卵とじのおかゆは、文句なしにうまかった。

 腹がくちくなり、Tシャツとボクサーブリーフだけの格好で布団の上に大の字になる。さっきまで凹んでいた俺の腹は、ぽっこりと飛び出ていた。うーん、満腹って素晴らしい。

「おかゆ、いいな……」

 幸せに浸っていると、大地も自分の布団に仰向けに寝転がった。部屋は狭いので、勿論布団はぴったりくっついている。

「明日の俺の給料まではこれで乗り切るぞ」

 眉をキリリとさせる大地の頼もしいことといったらこの上ない。

「うん! 大地、マジで頼りにしてるからな!」

 俺の言葉に、大地は顔をくしゃりとさせながら笑う。俺、大地のこの笑い方大好きなんだよな。

「ばーか、こういうのはお互い様だろ? 俺の寮行きを阻止してくれたのはそらだしな、恩返しだって」
「恩返し……俺、大地に沢山してもらってるよ。俺も大地に何か返してやりたい」

 と、また大地が口の中でもごもごと何かを呟く。

「……ほんとそういうとこかわ……」
「ん? 何?」

 大地は、何気に独り言が多い。

「……何でもない」

 別に聞こえたって大地のことは嫌いになんて絶対にならないのに、いつもこうやって誤魔化すんだよな。ちえっ。

 ゴロンと横向きになって、大地を見た。大地の腹筋は鍛えられているからか、俺みたいにぽっこり出ていない。なんだすげえなこれ。

 何気なく腹筋が浮き出る大地の腹に手を伸ばした。うお、固い。さすが大地!

「うひゃっ! び、びっくりしたあ!」

 大地が変な声を漏らす。

「あは、ごめん。同じ量食ったのに俺みたいに出てこないなあって思ってさ」
「え? 見せてみろよ」
「ほら」

 相手は大地だから、何の抵抗もない。Tシャツを胸までまくってみせると、今度は大地が俺の腹に手を伸ばしてきた。しっとりとした暖かい手のひらが、俺の胃の上にぴたりと当てられる。

「うひゃっ! 変な感じ!」

 擽ったいに近い感覚だった。身体を捩って逃げようとすると、大地が「こら、逃げるな! お前だってやっただろ!」と笑いながら半身を起こして、俺の腰を掴んで引き戻す。

「あははっ! 擽ったいってば!」
「逃げるなって! 触らせろー!」
「うひゃひゃっ」

 逃げようとする俺の足に足を絡ませた大地が、俺の腰を掴んだままTシャツをぐいっとまくり上げる。ぽっこりと胃が出た俺の腹にもう一度手を伸ばして、サワサワと撫で回してきた。

「こらっ! もう触っただろー!」
「本当だ、子供の腹みたいだな! 俺の妹、よくこんな腹してたよ」
「うはっ、や、やめろって……!」

 抵抗してはみても、俺と大地じゃ体格も筋肉量も違う。あっさりとマウントポジションを取ると、大地は俺の腹を更に念入りに撫で回した。

 手が滑るのか、時折指が俺の胸のちびっこい突起に当たる。何これ、むずっとする……なんかやばいような気がしてきた!

「ば、ばか! いつまで触ってんだよっ」

 焦りながらTシャツを下ろそうと努力したけど、大地の手は止まらない。こいつ、すぐ調子に乗るところが玉に瑕だぞ! これだから陽キャ野郎は!

 目を細めながら見下ろす大地の目つきが、イタズラを楽しんでいるのか緩みまくっている。

「かっわいー。しかもちょーすべすべなんだけど」

 可愛いって何だよ! 大地の奴、すぐ俺のことを可愛いっていうの、いい加減直せよ!

「やっ、やめろー! 変な気分になったらどーすんだよ!」

 懸命な抵抗を見せる俺を見て、大地が意地悪そうにニヤリと笑った。

 あ、なんか嫌な予感。これ、絶対イタズラを考えている顔だ。

 三年以上毎日過ごしただけあって、俺は大地の性格をよーく知っている。行動的で頼りになる反面、一旦スイッチが入ってしまうと悪ノリが過ぎてしまうことがたまにあるんだ。

 高一の学園祭の時。お化け屋敷で幽霊役をやった俺に、「女子のするメイクじゃ生ぬるい」と気合いの入った特殊メイクを施したのは大地だった。あまりのおどろおどろしさに、俺を見た瞬間客がみんな悲鳴を上げて逃げていった、成功なんだけどちょっぴり悲しかった思い出。

 高二の学園祭の時。演劇で男白雪姫役をやらされた俺に、王子役だった大地がマジでキスして、ステージが拍手喝采に包まれた苦くも懐かしい思い出。思えばあれが俺のファーストキスだった。

 ちなみにその後女子に上書きされて、なんてことは勿論ない。彼女いない歴が年齢ですよ、どうせ。

 高三の学園祭の時。女装メイド喫茶をやることになり、「やるならとことん」と俺のすね毛を綺麗に剃り上げただけでは飽き足りず、俺の心許ない量の陰毛まで剃りやがった小っ恥ずかしい記憶。

 股間は関係ないだろ! と怒ったら、「やるならとことん」と真顔で言われてもう何も言い返せなかったのを未だに悔やんでいる。

 だって、あんなに間近でちんこを友人に見られるとは、マジで想像してなかったんだ。カミソリが当たったら嫌でしょって言われて掴まれたのは、今でも忘れられない。大地の野郎、人のちんこにどうして普通に触れたんだ。信じられねえ。

 そんな大地だから、スイッチが入ったら俺が何か言ったところで止まりはしないことを俺は知っている。

 大地は仰向けの俺に上から重なるように寝転ぶと、俺の両手首を掴んで頭の上に押し上げた。

「ぐえっ」

 重い。

 大地が、俺の顔を覗き込む。

「変な気分ってどんな気分?」

 え、なに。顔がめっちゃ近いんだけど。いやー、近くで見てもいい男だよな、俺の親友は。て、いや、そうじゃない。

「そ、そりゃあ……なあ」

 言わせんなよな。息が吹きかかる距離に顔があるのに耐えられなくなって、目をフッと逸らした。だけど、大地が顔を移動させて俺の目を正面から覗き込む。あ、ニヤついてる。やべえ、スイッチ入ってる顔だ、これ。

「へえ? そらもそんな気分になったりするの?」
「そ、そりゃあ俺だって男だし」
「でも、そらがひとりでヤッてんの見たことないよ」
「ば、ばか! そんなところ、てゆーかそもそもちんこを他人に見せるかっ!」

 噛み付くように言い返すと、大地が何故か口を尖らせた。意味わかんねーよ!

 同居だと、「今からオナニーするぜ」宣言はなかなかしにくい。だから大地がバイトに行ってたり風呂に入ったり、逆に自分が風呂に入ってる時にさささーっと済ませる程度だった。

 咄嗟に返せたのは、こんな言葉だった。

「――お前だって俺にちんこも見せないだろ!」

 大地の目が、キランと光った気がした。

「お、じゃあ俺がちんこを見せたらお前も見せるんだな?」
「……へ?」

 その時、俺は気付いてしまったんだ。

 重なり合っている股間部にある、やけに固いブツの存在に。
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