ツイノベ集

緑虫

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16 昔から囲みまくっていた独占欲強めの攻めx弱そうに見えて指摘してAを矯正できるほんわり受け(2023.07.30)

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 幼い頃からいつも隣にいて自分を守ってくれたずっと同じクラスのA。

「あいつがお前のこと悪口言ってたから話しかけても返事してするな」

 とか、

「あの女子はお前にやったのは義理チョコなのに喜んでたって影で笑ってた」

 とかだ。

 勉強ができて人気者のA♂が言うなら確かだろうと、受けは疑いもせずに「うん! A、いつも守ってくれてありがと!」

 と地味な自分を大切にしてくれる幼馴染みの親友を信じていた。

 小学校、中学校も二人の関係は変わらなかった。それが変わったのが、高校に進学する春休みのこと。

 同じ都立高校に進学が決まっていた受けは、今日もAに誘われてAの家に遊びに行っていた。しかもお泊まりだったから、Aのお母さんの作る唐揚げが大好きな受けは楽しみにしていた。

 だけど、専業主婦のAのお母さんが家にいない。

「あれ? おばさんお買い物?」
「ううん。今日は父さんと一泊温泉旅館に行って帰って来ないよ」

「え? じゃあ唐揚げ……」
「今日は俺の手料理食べてよ。頑張って練習したんだぞ?」

 なんてちょっぴり悲しそうに言われたから、すぐに

 「あ、うん! 僕も手伝うね!」

 とフォローする受けだった。

 どうして教えてくれなかったんだろう? と不思議に思いながらも、ゲームをしたり遊んでいる内に疑問も薄れていった。夕飯の支度をするからと言われ、何故か受けに手渡されたのはフリフリの白いエプロン。Aのエプロンは普通のシンプルなデニムだ。

「え!? おばさんてこんなエプロンしてるの!?」
「え? うん、そうだよ!」

 本当かなあと思いながらも、フリフリエプロンを身につけた。二人でキッチンに並ぶ。

 Aは手際よくパスタとガーリックトーストにスープまで作ってしまう。

 なのに受けが任されたのは、サラダの野菜を千切ったりスライスしただけだ。

 しかもスライサーで指を切ってしまう有様だった。

「見せて! ……あー血が出ちゃってる」

 Aは受けの指を口に含んで吸ってしまう。驚いて固まる受けの目の前には、自分の指を咥えて吸っている幼馴染みの顔。

 なんでAは吸い終わった後も自分の指を舌で舐めてるんだろう、と受けはAの奇行を見ていることしかできなかった。

 関係ない指の間まで舐めたAは、受けの視線に気付くと目を細めて微笑む。

「顔、真っ赤だよ」
「えっ!?」

 受けが慌てて手を引っこ抜くと、Aはにっこりしてそれ以上はなにもしてこなかった。

(なんだ、心配してくれただけなのに僕ってば)

 友達に取る行動には思えなかったけど、周りの意地悪な同級生から守ろうと必死でいてくれたAだ。これまで受けの心配ばかりしていたから、心配性になったのだろうと無理やり理解した。

「いただきまーす!」

 ご飯は美味しく食べて、次はお風呂の時間だ。

「先に入って」

 とAが言うので素直に従う受け。

 なのにいつもと違うことが起こる。

 受けがシャンプーをしている時に脱衣所で物音がしたかと思うと、突然Aが風呂に入ってきたのだ。「えっなんで!?」と受けが驚く。

 小さい時は一緒にお風呂に入ることもあったけど、中学に入って以降は同性でも裸を見せるのは恥ずかしくて、泊まりの日も別々に入るようになっていたからだ。

 Aは、

 「映画見ようって言っただろ。あれすごく楽しみにしててさ」

 と急いで洗い始める。あ、映画が楽しみなのか、と幼馴染みの無邪気さにホッとして、先に湯船に浸かる。

 何年もまともに見てなかったけど、Aはすっかり体つきは男らしくなり、腹筋も割れている。その下に付いているモノも立派に育っているのに、反面自分は……と貧相な自分の身体を見下ろした。さっさと洗い終わったAが、二人で入るには窮屈な湯船に入ってくる。

「あ、じゃあ僕先に出て……」
「まだあったまってないだろ」

 Aは強引に受けの腰を抱くと、自分の足の間に受けを座らせてしまった。背中を向けて座っている受けは、「なにこの体勢!?」とパニック状態。

 それもその筈。腰に時折触れるモノが、異様に固い気がするのだ。

 これはAの手だよね? でも手がなんだって自分の腰に? とアワアワする受け。

 今日はやけにAからの接触が多い気がする。でもAの態度はいつもと変わらないから、もしかして自分がAを急に意識してるんじゃ? と思い始める。

 残念ながら受けは、恋愛と友情の違いがよく分かっていない。何故なら、好きという感情を誰かに認識するほど、A以外の人物と接してきていなかったからだ。

「ね、ねえ、近くない?」
「こんなの親友なら普通だろ」
「そ、そうだよね、あは、あはは……」

 友達はA以外にいないので普通がわからない。お風呂から上がると、今度は「風邪ひいちゃうよ」と足の間に受けを挟んでドライヤーをするA。

こんなこと前はしなかったのに、とさすがに受けが

「いやいや、Aってばどうしたの!?」

 と抵抗する。

 するとAは

「実は助けてほしいんだ……!」

 と語り始めた。

「ほら、俺って世話焼きだろ?」

「うん」
「ストレス溜まると世話焼いて可愛がりたくなって。でもできる相手がいないから、ストレス溜まって……」

 詳しく聞けば、Aの友達は皆他校に進学してしまうらしく、見えない高校生活に緊張してストレスを感じていたらしい。

 A、拝むように手を合わせる。

「頼む! 受けだけが頼りなんだ!」

「えっ!」

 フリフリエプロンは、実は受けを見て可愛いと思えるかを確認する為に着せたらしい。結果、受けは見事に合格。

「こんなこと、お前以外に頼めないんだ! 俺の相手になって!」
「え……でも、すぐに彼女とかできるんじゃ」

 なんせAはもてる。今までは受験を理由に告白は全部断っていたけど、付き合おうと思えば今だって引くてはあまただ。

「じゃあ、俺に彼女ができるまででいいから!」

 としつこく食い下がられ、

「……まあ、Aのストレスが減るなら、いいよ」

 と答える受け。

「本当!? ありがとう!」

 Aは大喜びで、その日はせっせと受けの世話を焼いた。

 まあどうせ少しのこと、と考えていた受けだったけど、春休みの間はモーニングコールから始まり学用品で足りなさそうなものを一緒に買いに行ったり、お昼を一緒に食べれば口元を拭われる。

 手袋を忘れてきたら「冷えると拙いから」と手を掴まれてAのポケットに入れられるし、くしゃみをすれば「温める」と言われてバックハグ。

「ほ、他の人に見られたらAの評判が悪くなるよ!」

 と伝えても、Aはきょとんとして

「世話を焼いてることの何がいけないんだ?」

 と言う。

 そんな風に過ごした春休みは終わり、入学式を迎える。

 ここで初めてクラスが分かれると、Aは不安そうな様子。
「Aは明るいしいい奴だからすぐに友達できるよ」

 と励ますも、Aの表情は晴れない。

「じゃあまた放課後ね!」

 と笑顔で別れた。実は受け、今度こそA以外にも友達を作るぞ! と意気込んでいたのだ。

 クラスに行ってみて、早速隣の席の明るくて優しそうな奴に話しかけられ、仲良くなる。

(スタート好調!)

 と喜ぶ受けだった。放課後になり、受けのクラスまで迎えに来たA。

「受け、帰ろう……」

 ちょっと疲れ気味の顔のA。

「友達?」

 と尋ねる明るい友達Bに幼馴染みだと説明すると、Aがイラついた声を出した。

「受け! 帰ろうってば!」

驚く 受けとB。

「じゃ、じゃあまた明日ね」
「お、おう」

 とぎこちなく別れる。なんでAは怒ってるんだろう? と不思議に思う受け。

 Aは受けの腕を掴んでぐいぐい引っ張って行くと、人気のない校舎裏に連れていく。

 そして突然ガバッとハグをされてしまった。

 目を白黒させる受け。Aが何を考えているのか、さっぱり分からなかったのだ。

「あ、あの、A? どうしたの?」
「……自分の心の狭さに驚いてる」

 と答えるA。答えを聞いてもやっぱりよく分からない受け、

「嫌なことでもあったの? 話聞くよ」

 と自分よりも背の高いAの頭をよしよしする。

 すると、抱きついたままぽつりぽつりと吐露をし始めたA。

「……実は、好きな子がいるんだけど」
「えっ! そうだったの?」

 これまでAから恋バナを聞いたことがなかった受けは驚く。

 これまでずっと一緒だったから、Aに彼女ができたらきっと自分の心にも時間にもぽっかりと穴が開くのは考えなくても分かった。

 でも、ここは自分の寂しさよりもこれまで受けに尽くしてくれたAの希望に寄り添うべき、と判断する。

「ぜ、全然知らなかったよ! 水臭いなあ!」

 努めて明るい声を出した。

「……受けはどう思うの」

 抱きつかれたままなのでAの表情は分からない。

「どうって……」
「正直に言ってよ」

 どうしようと迷った受けだったけど、Aは性癖も晒している。

 ならば、と言葉を選びながら伝えることにした。

「僕さ、友達が他にいないでしょ」
「……ああ」
「Aは気兼ねなく付き合えるし、Aに彼女が出来たら最初はすごい寂しいかもしれないけど」

 でも、Aは受けの面倒を見続けていた。うまく友達付き合いできない自分のせいで、沢山迷惑をかけてきた。

「でも……Aを僕から解放してあげないと……だよね」

 頑張って明るい声を出す。

「Aが僕の心配しなくていいように、僕も頑張ってみるから!」
「……じゃあ、俺は頑張って相手にアプローチしてもいいってこと?」
「もちろん! 僕はAのこと応援してるよ!」

 Aが受けの首にうずめていた顔を上げたので、受けも顔を上げる。

 それでもハグされたままだ。

 Aの受けを見つめる目が、なんだか怖い。いつもにこやかだから、真顔で見つめられるとどうしていいか分からなくなった。

「じゃあ応援して?」
「え? う、うん。頑張ってA――ッ……!?」

 なんとAが突然受けにキスしてきたのだ。訳が分からずぽかんとしている内に、壁に追いやられて舌が絡められる。結局腰砕けになるまでキスされまくってしまった受け。

「え? な? ど、ええ!?」

 と顔が赤くなったり青くなったりしている受けに、Aは宣言。

「応援してくれるって言ったよね? 俺、遠慮なく受けを狙いにいくから」
「え……ええええええっ!?」

 ここまできてようやく意味が分かってきた受け。その日から甘い言葉を受けに言うようになるA。受けは「男同士ってありなの!?」とパニックになるけど、

「ありだよ。こういうこともできるんだよ」

 と身体から攻略されていく。

 段々とAと触れ合うことに抵抗がなくなってくる受け。

 Aにいじられまくるせいで色気が出てきた受けを見て、男に興味なかったクラスメイトのBも受けが気になるように。

 この後クラスメイトのBが受けを独占しようとするAに対抗心を燃やして受けをAから引き離そうと画策したり、おとなしめ女子が受けに告白してきたりとすったもんだある。

 でもその頃にはすっかりAに攻略されちゃった受け、

「やっぱり僕にはAがいないと駄目みたい」

 と言うと、Aを嬉し泣きさせてBに悔し泣きさせる。

「でも、僕も普通の友達はほしいなあ」

 これまでAの独占欲で友達がいなかった受けがAに言うと、Aは

「ど、努力して我慢する……!」

 と歩み寄ることを約束。

 なんだけど、受けが誰かと遊んだ後は嫉妬でいつもより激しくなっちゃって、でろでろになる受けを甲斐甲斐しく世話をするルーティンが出来上がるのでした。
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