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82 ロイクの嘘
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ロイクの拳の勢いで、ロイクと俺を繋げていた氷が割れた。
遠くに殴り飛ばされ、衝突の勢いを利用して手足を覆っていた氷を地面に叩きつける。
予想通り、氷は割れると俺から剥がれ落ちた。くるりと後ろに転がって起き上がると、再び双剣を構える。
「ファビアン……! 私を愚弄するのか……!」
ロイクは勇者の剣を構えると、歯を剥いてみせた。普段国民に見せてる穏やかな国王の仮面を脱ぎ捨て、怒りと嫉妬に狂った醜い顔を俺に向けている。
矜持と劣等感の塊、としか言いようがない。俺はこれに二十年以上支配され続けてきたんだ。
ちらりと双子たちの方を確認する。双子はのんびりとなにやら話しているけど、オリヴィアと王太子妃は手を取り合って心配そうな顔を俺たちに向けていた。
距離があるので、大声を出さない限りはこちらの声は聞こえないだろう。そう判断した俺は、ロイクへの挑発を続けることにした。
「お前がやったこと、俺は忘れちゃいねえぞ」
ロイクに直接触っちゃ駄目だということを学んだ俺は、再びロイクに高速で迫ると跳躍と剣戟を繰り返す。
ロイクは侮辱されて我を忘れてしまったらしい。これまでの落ち着いた対応はどこかへ消え、俺がいた場所に攻撃をしては地面を叩き割り、破片を撒き散らしながら俺を追いかけてきた。
考えなんてない、力任せの戦い方だ。
「お前がアルバンや前線送りにした奴らを殺したことを、俺が知らないとでも思ってたのか」
「私は誰も殺してはいない! あれは不幸な事故だろう!?」
なるほど、その方向できたか。まあアルバンの亡霊が俺に教えてくれたなんて知る由もないだろうしな、と俺は鼻で笑った。
「誰があいつを直接殺めたのか、俺は知ってるんだぜ」
「!」
ロイクの目が泳ぐ。俺はロイクの背後に跳躍すると、背中に二発、浅めだけど傷をつける。服が破け、血が飛び散った。
ロイクは距離を置くと、再び剣を構える。だけど先程までの優越感に満ちた余裕は、ロイクから見事に剥がれ落ちていた。
「こちらはファビアンを傷つけないようにと気を使っているんだぞ……!」
でたよ、自分は聖人君子、悪いのはこっち発言。
俺はロイクは相手にせず、先を続けた。
「お前がセルジュを殺したことだって、俺は知ってんだぞ」
「私は……、誰も殺してなどいない! 信じてくれファビアン!」
ロイクは誠実そうに見える顔に涙を浮かべると、両手を広げて訴え始める。
「全部誤解だ! ファビアン、私を信じてほしい!」
大声を出すロイク。結界の外の家族に自分は俺に誤解されている可哀想な人間なんだと見せかける為だろう。
もううんざりだ。付き合ってられねえ。
心配そうなオリヴィアに一瞥をくれた。
オリヴィア、ごめん。もうこれ以上我慢できないんだ。許してくれ。
結界の外でも十分に届くよう、俺は声を目一杯張り上げた。
「直接手を下したのはお前じゃなくても、暗部のラザノに命令したのはお前だろーが! そんなに俺に恋人ができるのが嫌か! 家族がいる癖に俺に構うんじゃねーよこの変態野郎!」
オリヴィアが目を見開いたのが視界の片隅で見えたけど、俺は意識を目の前のロイクに向けることにする。気を抜ける相手じゃない。
「ファ、ファビアン、な、何を……っ」
ロイクは目に見えて焦り出した。まさかこれまでずっと気を使って黙ってきた俺が、オリヴィアの前で堂々と暴露するとは思ってもなかったんだろう。
言ったら俺の大切な人を害すると暗に匂わせてきたから。
ロイクはオリヴィアとは離婚できない。クロードがそう定めたからだ。だけどいざとなったらオリヴィアを殺すと俺に思わせることには成功した。死別であれば離婚はしなくても済む。だけどオリヴィアにバレて愛想を尽かされてしまったら、ロイクの命に危険が迫る。
「ち、違う! ファビアンは何かを誤解しているんだ! 私の言葉が足りなかったのなら謝る! この通りだ!」
「俺を愛してるって事ある毎に言ったのは、じゃあ何なんだよ!」
今度こそ、ロイクは顔面蒼白になった。
「違う! あれは同じ英傑の仲間としての親愛を!」
「じゃあ厄災討伐の最中に俺のケツを掘りまくったのも仲間としての親愛かよ!」
「!」
ロイクは目を見開くと、膝をがくりとつく。
「ファビアン、あの時の私は――違うんだ! 実は……クロードにお前を抱けと脅されていたんだ!」
「……はあ?」
思わずクロイスの方を見ると、クロイスは「何言ってんのかね?」といった表情で肩を竦めた。だよなあ。
ロイクは剣を地面に置くと、涙ながらに語り始めた。
「クロードは、オリヴィアに惚れていた! オリヴィアは私を好いてくれていたが、私に奪われたくなかったクロードは、ファビアンを抱かないとオリヴィアを犯すと!」
「ほー」
とりあえず聞いてみよう。咄嗟にどんな嘘を組み立てたのか、ちょっと興味がある。
ひとまず俺のことを抱いたと認める方向で、何とか誤魔化せないか模索してるんだろう。
ロイクはさめざめと泣きながら、己の苦しみを訴え始めた。
「ファビアンには申し訳ないことをした……! だからこちらに戻ってきてから、ファビアンにはこれまでの償いをしようと屋敷を用意し城内に身分も用意したんだ!」
なるほど、そうきたか。それにしても、本当に悪知恵だけはよく働くな、こいつ。
俺は続きを促した。
「でもそうしたらおかしくねえか? なんでクロードは竜の鍵穴に入っていったんだよ。順当にいけばお前が入るやつだっただろ、お前の話が正しければ。脅されていたのなら」
すると、ロイクはキラキラした泣き顔をバッと上げ、懸命に訴え始める。こいつ、自分に酔ってないか。
「竜の鍵穴に誰が入るかの話になった時……! 私は咄嗟に、クロードが脅していたことをオリヴィアにばらしてほしくなければクロードが入るんだと言ってしまったんだ!」
「へえー」
いつの間にか結界は解除され、俺の左右にはロイクの家族が並んでいた。
ロイクは泣きながら演技を続ける。
「私はファビアンに償いたかった……! 自分ばかりが幸せになり、申し訳なさをずっと抱えていたんだ……!」
するとここで、これまで一番の衝撃発言が、意外な人物の口から飛び出してきた。
遠くに殴り飛ばされ、衝突の勢いを利用して手足を覆っていた氷を地面に叩きつける。
予想通り、氷は割れると俺から剥がれ落ちた。くるりと後ろに転がって起き上がると、再び双剣を構える。
「ファビアン……! 私を愚弄するのか……!」
ロイクは勇者の剣を構えると、歯を剥いてみせた。普段国民に見せてる穏やかな国王の仮面を脱ぎ捨て、怒りと嫉妬に狂った醜い顔を俺に向けている。
矜持と劣等感の塊、としか言いようがない。俺はこれに二十年以上支配され続けてきたんだ。
ちらりと双子たちの方を確認する。双子はのんびりとなにやら話しているけど、オリヴィアと王太子妃は手を取り合って心配そうな顔を俺たちに向けていた。
距離があるので、大声を出さない限りはこちらの声は聞こえないだろう。そう判断した俺は、ロイクへの挑発を続けることにした。
「お前がやったこと、俺は忘れちゃいねえぞ」
ロイクに直接触っちゃ駄目だということを学んだ俺は、再びロイクに高速で迫ると跳躍と剣戟を繰り返す。
ロイクは侮辱されて我を忘れてしまったらしい。これまでの落ち着いた対応はどこかへ消え、俺がいた場所に攻撃をしては地面を叩き割り、破片を撒き散らしながら俺を追いかけてきた。
考えなんてない、力任せの戦い方だ。
「お前がアルバンや前線送りにした奴らを殺したことを、俺が知らないとでも思ってたのか」
「私は誰も殺してはいない! あれは不幸な事故だろう!?」
なるほど、その方向できたか。まあアルバンの亡霊が俺に教えてくれたなんて知る由もないだろうしな、と俺は鼻で笑った。
「誰があいつを直接殺めたのか、俺は知ってるんだぜ」
「!」
ロイクの目が泳ぐ。俺はロイクの背後に跳躍すると、背中に二発、浅めだけど傷をつける。服が破け、血が飛び散った。
ロイクは距離を置くと、再び剣を構える。だけど先程までの優越感に満ちた余裕は、ロイクから見事に剥がれ落ちていた。
「こちらはファビアンを傷つけないようにと気を使っているんだぞ……!」
でたよ、自分は聖人君子、悪いのはこっち発言。
俺はロイクは相手にせず、先を続けた。
「お前がセルジュを殺したことだって、俺は知ってんだぞ」
「私は……、誰も殺してなどいない! 信じてくれファビアン!」
ロイクは誠実そうに見える顔に涙を浮かべると、両手を広げて訴え始める。
「全部誤解だ! ファビアン、私を信じてほしい!」
大声を出すロイク。結界の外の家族に自分は俺に誤解されている可哀想な人間なんだと見せかける為だろう。
もううんざりだ。付き合ってられねえ。
心配そうなオリヴィアに一瞥をくれた。
オリヴィア、ごめん。もうこれ以上我慢できないんだ。許してくれ。
結界の外でも十分に届くよう、俺は声を目一杯張り上げた。
「直接手を下したのはお前じゃなくても、暗部のラザノに命令したのはお前だろーが! そんなに俺に恋人ができるのが嫌か! 家族がいる癖に俺に構うんじゃねーよこの変態野郎!」
オリヴィアが目を見開いたのが視界の片隅で見えたけど、俺は意識を目の前のロイクに向けることにする。気を抜ける相手じゃない。
「ファ、ファビアン、な、何を……っ」
ロイクは目に見えて焦り出した。まさかこれまでずっと気を使って黙ってきた俺が、オリヴィアの前で堂々と暴露するとは思ってもなかったんだろう。
言ったら俺の大切な人を害すると暗に匂わせてきたから。
ロイクはオリヴィアとは離婚できない。クロードがそう定めたからだ。だけどいざとなったらオリヴィアを殺すと俺に思わせることには成功した。死別であれば離婚はしなくても済む。だけどオリヴィアにバレて愛想を尽かされてしまったら、ロイクの命に危険が迫る。
「ち、違う! ファビアンは何かを誤解しているんだ! 私の言葉が足りなかったのなら謝る! この通りだ!」
「俺を愛してるって事ある毎に言ったのは、じゃあ何なんだよ!」
今度こそ、ロイクは顔面蒼白になった。
「違う! あれは同じ英傑の仲間としての親愛を!」
「じゃあ厄災討伐の最中に俺のケツを掘りまくったのも仲間としての親愛かよ!」
「!」
ロイクは目を見開くと、膝をがくりとつく。
「ファビアン、あの時の私は――違うんだ! 実は……クロードにお前を抱けと脅されていたんだ!」
「……はあ?」
思わずクロイスの方を見ると、クロイスは「何言ってんのかね?」といった表情で肩を竦めた。だよなあ。
ロイクは剣を地面に置くと、涙ながらに語り始めた。
「クロードは、オリヴィアに惚れていた! オリヴィアは私を好いてくれていたが、私に奪われたくなかったクロードは、ファビアンを抱かないとオリヴィアを犯すと!」
「ほー」
とりあえず聞いてみよう。咄嗟にどんな嘘を組み立てたのか、ちょっと興味がある。
ひとまず俺のことを抱いたと認める方向で、何とか誤魔化せないか模索してるんだろう。
ロイクはさめざめと泣きながら、己の苦しみを訴え始めた。
「ファビアンには申し訳ないことをした……! だからこちらに戻ってきてから、ファビアンにはこれまでの償いをしようと屋敷を用意し城内に身分も用意したんだ!」
なるほど、そうきたか。それにしても、本当に悪知恵だけはよく働くな、こいつ。
俺は続きを促した。
「でもそうしたらおかしくねえか? なんでクロードは竜の鍵穴に入っていったんだよ。順当にいけばお前が入るやつだっただろ、お前の話が正しければ。脅されていたのなら」
すると、ロイクはキラキラした泣き顔をバッと上げ、懸命に訴え始める。こいつ、自分に酔ってないか。
「竜の鍵穴に誰が入るかの話になった時……! 私は咄嗟に、クロードが脅していたことをオリヴィアにばらしてほしくなければクロードが入るんだと言ってしまったんだ!」
「へえー」
いつの間にか結界は解除され、俺の左右にはロイクの家族が並んでいた。
ロイクは泣きながら演技を続ける。
「私はファビアンに償いたかった……! 自分ばかりが幸せになり、申し訳なさをずっと抱えていたんだ……!」
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