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81 決戦の始まり

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 城の鍛錬場に、剣戟の音が絶え間なく鳴り響く。

 つい先日まで、俺は双子と剣術の訓練をしていた。だから現役の頃にかなり近いところまで腕前は戻っている筈だ。

 だけど今のところ、俺は防戦一方だった。切り掛かってもすぐに弾かれて、距離を取られちまう。ああー! イライラする!

「はっ!」

 ロイクが跳躍した。落ちてくる勢いに乗せて、重い剣が振り下ろされる!

 ギンッ! と双剣を交差することで受け止めたけど、ロイクは両手剣なこともあり、くっそ重い!

「オラアッ!」

 衝撃の勢いで沈む膝。反動を利用して、立ち上がりざまロイクの剣を上に弾く。

「クッ!」

 両脇がガラ空きだ!

 隙を狙い、薙ぎ払おうと回転斬りを仕掛けた。

 ロイクは瞬時に後退すると、一旦距離を置く。

 くそお、また逃げられた!

「ちょこまかと……!」
「どうしたファビアン? 動きが鈍いようだが」

 余裕そうな微笑を浮かべるロイク。むかつくなあいつ!

「うるせーっ!」

 トーン、トーンと一定の律動で跳躍しながら、俺の隙を窺ってやがる。

 やっぱりあいつの身体能力は、とんでもないものがあった。クロイスが三分の一を持っていったにしても、三分の二でこれだ。

 力だけを取れば、ロイクの方が断然上だった。それにあいつはまだ魔法を使っていない。まだまだ本気を出してないってことだ。

「ちっくしょー……!」

 と、見学していた双子たちが俺に声援を送る。

「ビイ、頑張ってー!」
「ビイ、挑発に乗っちゃだめだ! ビイの得意な部分を出して!」

 クロイスの言葉にハッとする。俺がロイクより優っているところ。昨夜の房事の最中に、クロイスが教えてくれたことだ。

 半分脳みそが溶けかかってる時に繰り返し言われたからか、クロイスの肌の熱と共に思い出した。

「――おう!」

 クロイスの肌の熱を思い出すと、クロイスを守らないとという想いが同時に溢れる。

 闘志が湧き起こってきた。落ち着け俺、冷静になれ。ロイクの動きを観察し、斬り込む頃合いを測るんだ。

 まさかあいつ、俺が凹みそうになった時のこの作用を狙ってたんじゃないだろうな。策士だから、あり得る。あとで聞いてみよう。

 ぐ、と軸足に力を込めた。ロイクが地面を蹴った瞬間、急襲する!

 双剣で連続攻撃を繰り出すと、ギンギンギンッ! という金属音と共に火花が散った。

 ロイクが上から目線で笑う。

「ファビアン、少しは勘が戻ってきたのかな?」
「余裕ぶってられるのも今の内だ!」

 ロイクは最初、余裕な表情で全てを流していた。けど俺が猛攻を止めないと、少しずつ反応が遅れてき始める。

 止まるな俺! 切れ! 切りまくれ!

「うおおおっ!」

 連続攻撃に、とうとうロイクの腕が上に跳ね上がった! ロイクの顔が驚愕に歪む。ひゃっはー!

「なにっ!」
「今だ!」

 ガラ空きになった腹部に左の剣が掠る! 次は右!

「ぐっ!」

 鮮血がピッと飛び、ロイクは一気に後ろへと飛んだ。切れた服がヒラヒラしている。ようやく当たった。

「……まさかここまで動けるとはな」

 ロイクがこめかみをピクピクいわせる。よし、ここで煽りだ! と俺はクロイスの助言に従ってロイクを煽り始めた。

「お陰様で、鍛錬は怠ってないんでな! お前はちょっとサボり気味なんじゃねーの?」

 いつもは引き攣れてしまう左腕が、やけに軽い。まるで傷なんてなかったかのようだ。

 クロイスの奴、お守りって一体何をしたんだろう。

 ロイクが苦々し気に吐き捨てた。

「そのようだな……」

 俺の武器は、素早さにある。

 ロイクよりは一撃の重さは軽いけど、間を置かずに攻撃し続ければ今のように打ち勝てるだろう、というのがクロイスからの助言だった。

 それと、極力相手の攻撃は正面から受けず、ロイクが卑怯だなんだと言おうが避ける、または受け流すこと。

 先程までの俺は、ロイクに対する苦手意識が強すぎて、そんなことも頭から抜け落ちていたらしい。びびりすぎだろ、しっかりしろ、俺。

 攻撃が当たったことで、焦りがサーッと晴れていった。

「よし!」

 身体も大分暖まってきた。身体もいつもよりも軽く感じる。さあ、ここからが本番だ。

「いくぞ!」

 心が知らず竦んだら、身体も強張っていた。思い出せ。俺は英傑の剣聖ファビアンだぞ。

 ――誰よりも早く軽やかに舞う俺が、衰えたロイクに負ける訳がない。

 重心を大きく前にかけて一気に走り出すと、飛ぶ鳥の如く素早くロイクに詰め寄る。ロイクは俺の左側から切り付けてきた。

 俺は素早く右に回転、ロイクの背後で跳躍すると、ロイクの振り向きざまの一撃がブン! と空を切る。

 体勢を崩したロイクの肩に飛び乗ると、これまでの鬱憤を晴らすべくロイクの脳天を踏みつけて跳躍した。

「この!」

 頭を踏まれるなんて、こいつには屈辱以外の何ものでもないんだろう。明らかに余裕をなくした怒りの表情で、ブン! と上から下に剣を薙ぐ。

 俺が斜めに回転しながら剣戟を繰り出すと、ロイクは軸足で回転し、俺の左側を執拗に狙い続けた。

 こいつ、俺の左側ばかり狙ってきてやがるな。

 生死を賭けた戦いであれば当然っちゃあ当然の戦法だけど、決闘で曲がりなりにも王様がいいのか。

 だけど残念、今日の俺は絶好調なんだ。クロイスのお守り(謎だけど)のお陰でな!

 双剣を振った勢いで、軽やかに前方向に回転する。空振ったロイクの頸椎ががら空きになったのを素早く確認し、捻りを入れた回し蹴りを決めた。

「ぐう……っ!」

 だけど。

「うわっ!」
「やあファビアン、この隙を待っていたよ」
「このヤロー!」

 ロイクの首を蹴った俺の足は、ロイクが放った氷魔法によってロイクに貼り付いてしまった! うわっ嫌だ!触りたくねえ!

 そうこうしている内にも身体の表面が氷が覆われていき、身体を動かせなくなってくる。

「く……っ」

 こいつ、俺が直接こいつに触れるのを待ってやがったのか。

 ロイクは俺の顎の下をツー、と指でなぞると、忌々しげに吐き捨てた。

「……若い雄の活きのよさに流されたか?」

 目が細められると、ロイクは顎下の指を俺のシャツの合わせの隙間に入れる。俺は丁度双子たちに背中を向けているから、ロイクの痴態はあいつらからは見えないようになっていた。

 ロイクは目をギラギラさせながら、二日間散々弄り回されて腫れて敏感になっている乳首を、ぎゅっと摘んだ。

「ぐ……っ」
「いい年をしてこんなに腫らして。そんなに飢えてたのかな?」
「うるせえよ」

 ロイクが他の場所は触りたいからか、はたまたロイクの魔力が落ちているのか、凍っているのは手足の表面だけだ。どうにか足を剥がして表面の氷を割れば、何とかなるんじゃないか。

 ロイクが、ギリリと唇を噛む。

「身体中に痕をつけさせたのか……?」

 俺はなるべく反応を見せないようにしつつ、おお、これが嫉妬ってやつか、と思った。

 昨日教えてもらってよかった。何故なら、こいつを逆上させる方法が分かったからだ。

 ロイクに有効なのは、上に立たせないこと。上に立たせない為には、逆上させるのが手っ取り早い。

 俺はニヤリと笑うと、言ってやった。

「ああ、身体中どこもかしこも付きまくってるなあ」
「ファビアン……!」

 ロイクの目に、激情の炎が宿る。

「親子なのにお前と全然違って、滅茶苦茶うまかったぜ」

 俺が言った直後。

「――黙れえええっ!」

 俺は構える。

 ロイクは大きく振り被ると、俺の腹めがけて拳をぶち当てた。
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